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Dec 6, 2017 - review

FF9 ストーリー 考察

こんにちは。タイトルにある通り FF9(FINAL FANTASY Ⅸ)のストーリーを構造的に考察する投稿です。FF7, FF10 に対して、FF9は物語の設計を構造的に説明することが出来るにも関わらず難解ということで、自分でもふと思い立ってこの構想に至り、結論が出たため記す次第です。

元は、アメリカ人に「FF9ってどこがいいの?」と言われた時に「こういう所」と説明しようと思ったところ、なかなか難しかったために考え始めました。 これは「原点回帰ってなんだったの?」「クリスタルとかペプシマンってなんだったの?」という疑問を晴らすための文章です。皆さんの長年の悩みが解ければ幸いです。
【注意】
既にプレイされた方がストーリーの形を理解するために書いた考察です。未プレイの方はご注意下さい。また、ストーリーで覚えていない部分が有る方は各自補填してください。

1. 前提

FF9は、2000年にスクエアソフト(現:スクウェア・エニックス)によって発売されたPS1向けRPGです。発売時のキャッチコピーは「クリスタル、ふたたび」であり、テーマは「原点回帰」となっています。今作は攻略本を出さない方針が取られ、友達と攻略情報を共有して解読していくことが推奨されていたため、パブリッシャーからのまとまった情報は「FF9 アルティマニア」(スタジオベントスタッフ, 2004年)以外ほぼ手に入りません。

2.1「原点回帰」とは

FF9のどの辺が「原点回帰」なのか。スタッフの再集結・世界観の近世ヨーロッパ化・キャラデザインのデフォルメ化・バトルバランスの調整などが当てはまります。クリスタルを世界観の中心に据えた点もこの一環であるため、上記の販売キャッチコピー「クリスタル、ふたたび」はテーマ「原点回帰」の部分集合であると言えるでしょう。

が、この一節はストーリーにも関係しており、登場人物が「いつか帰るところ」を探すというテーマを包括しています。「いつか帰るところ」が「原点回帰」に呼応しているということです。(余談ですが起動時に流れる曲は「いつか帰るところ」と名がついており、主人公ジタンの物理的故郷であるテラに関わる部分でメロディが使用されます。作曲の植松伸夫先生はライトモチーフ形式を取られているため、意義と曲の紐付けが明解になっています。)「いつか帰るところ」という用語は、作品内では初めて黒魔道士の村を訪れた際にジタンがダガーに説明します。

2.2 クリスタルとは

上記の「クリスタル」ですが、こちらはデザインモチーフでもありながら、ストーリーにも関係します。FF9の世界観ではクリスタルは、テラとガイアという惑星の中枢として描かれます;其々の星の生命の循環を司る機関です。大きな一つのクリスタルが惑星の体内に組み込まれており、命はクリスタルから生まれ、死して後はクリスタルへ帰るという循環になっていました。「命」にとっては、クリスタルが「いつか帰るところ」となっています。

2.3 「永遠の闇」

FF9ではラスボス「永遠の闇」がよく「ペプシマン」と揶揄されます。外見がペプシマンに似ていることや、FF9がコカコーラのプロモーションとタイアップしていたこと、そして何より登場があまりに唐突で一見プレイヤーには意味が分からないことを総じて「ペプシマン」と呼ばれます。

「永遠の闇」を振り返って見ると、悪役クジャがクリスタルを破壊しようとしたことをきっかけに登場しました。余りに唐突な登場だったため、初プレイ当初中学生だった私も「なんだ、RPGによくあるポッと出の概念型ラスボスじゃないか」とたかをくくってしまいました。しかしそれは早計でした。

永遠の闇は自らを「人間の恐怖の象徴」と称しています。

クジャは、管理者ガーランドへの復讐のためにトランスを得たにも関わらず、自らの寿命があるということを知り絶望しました。結局は死してクリスタルへ帰るという循環を受け入れられず、 “自らが死する運命であればそんな世界を破壊してしまおう” という結論に至りました。それを引き金に永遠の闇は発生しました。推測ですがブラネ女王も同様の感情に駆られて暴走していますし、テラのガーランド達も滅びることを阻止するためにガイアへやって来ましたので、同様の恐怖を抱いています。

3.1 FF9の弁証法

以上 2.1 - 2.3 をまとめると、
生命が「いつか帰るところ」として定義されたテーゼが「クリスタル」であり、それに対するアンチテーゼは「どうせ死ぬならば全て滅ぼそう」というクジャの思想・もしくは「永遠の闇」でありました。

「クリスタル」と「永遠の闇」が対立構造にあるということを、まずご理解いただけるでしょうか。

そこで登場するジンテーゼが、主人公ジタンの言ういつか帰るところです。

“代替メッセージ”

クリスタルの命の循環や、それと対立する死への恐怖、それら2つを超越して解決する概念として「いつか帰るところ」が提示されています。

「ジタンの言ういつか帰るところ」は抽象的ですが、ゲーム中にジタンが「いつか帰るところ」と言及しているところからなんとなく察することが出来るでしょうか。簡素化するならば「生きる意味」(ゲーム内でもエンディング等で登場)と捉えることが出来ます。ジタン達は、いつか帰るところを見つけることが出来たために、永遠の闇に打ち勝てたと解釈することが出来ます。

※ストーリーで弁証法を用いて浮かび上がる新たな境地をテーマとして主張することはよくある手法で、古いものでは『ハムレット』から、有名作では『もののけ姫』まで多岐にわたります。

3.2 要するに

要するに、FF9は原点回帰がストーリーの主題になっており、命の生死の循環 = 命の原点回帰がクリスタルやラスボスと関係有りました。しかし、登場人物がそれに打ち勝ち、自分だけの「いつか帰るところ」 = 自分だけの「原点回帰」を見つけることが出来たというゲームでした。

4. 補足

では、具体的に各キャラは何が「いつか帰るところ」だったのか。これはかなり複雑です。

FF9はモブキャラにも尽く名前がついており、各自の台詞回しも独特で、人類の数ある作品でも中々見ない多数の登場人物による群像劇でモチーフを完成させている、繊細な芸術です。ここは坂口博信監督のなせるわざでしょう。例えばリンドブルムやアレクサンドリアの街中では多くのモブキャラが有機的な繋がりを持って偏在しているため、たいていのRPGでは「自分は世界の中心だ」と錯覚するなか、FF9では「自分は街の喧騒の一部にすぎない」という印象を与えてくれるでしょう。

ヒントは一応有り、各キャラクターがエンディングで帰るポイントが「いつか帰るところ」になっているはずです。

追記:

例えばですが以下のように推測することが出来ます:

  • ジタン:彼は元から自分の故郷を探していました。しかし、ストーリーの途中で実際に生まれた場所の「テラ」へ辿り着くと、そこはなんとも納得のいかない故郷でした。そのため物理的な故郷ではなく、最終的に、旅をした仲間のところへ帰ることに決めます。実際にストーリーの途中でジタンは劇団タンタラスを「ああここが、オレの、『いつか帰るところ』だ」と言及しているパートがありますし、エンディングではガーネット(ダガー)のところへ現れます。ガーネットも、王冠やネックレスを投げ捨ててジタンの許へ帰ります。だいぶ省略しますがこのような流れです。

  • スタイナー:この人は自我がない人物でした。「女王のため」「姫様のため」と言いながら自分で判断をしない姿勢でした。始めは人格のない黒魔道士兵と比較されながら描かれるものの、ジタン・バクー・トット先生等のアドバイスを聞き入れ、自分の意志で動くようになります。エンディングでは本拠地であるアレクサンドリア城に普通に「帰る」ものの、引退しようとするベアトリクスという他人を自分の意志で引き留めるほどの自我を見せました。帰った物理的な場所は普通でしたが、そこには人と接した結果生まれた自分の意志がありました。

  • フライヤ:救いのない悲しい人物です。彼女はまず始めに故郷のブルメシアが破壊されました。そして、探していた恋人(フラットレイ様)と久しぶりに再会したのに、恋人は過去の記憶を失っていました。それでも最終的に、滅びた故郷へ、記憶のない恋人と再び「帰る」ことを決意します。

  • ビビ:最も難解な人物です。生まれは実験であり、育ての親(クエール)は既に亡くなり、本人もエンディングで寿命を全うします。始めは自分が何者なのか分からない状態でしたが、黒魔道士兵やテラに居た「ジェノム」たちと接して、「他の人と接することで生きる意味が生まれる」という発想を持ちます。今際の際では、自分は死んでしまうものの自分の記憶は他者に残っていて伝えられて行くから大丈夫、といった思考に至っています。エンディングでも「生きるってことは、永遠の命を持つことじゃない…そう教えてくれたよね?助け合って生きていかなきゃ意味がないんだって…」と述べています。FF9の言う生き方とは「ただ生きる」だけでは駄目で、他者と関わって生きて「いつか帰るところ」が出来るというものです。そうすれば死んだとしても記憶が継がれていくから大丈夫、という境地を描いたキャラだったと考えます。

という感じです。作中の多くのモチーフはこれに基づいて統一的に説明できると考えています。

こちらではここまでとしますが、ブラネ女王の最期や、クジャとミコトの発言などからも「いつか帰るところ」のヒントが得られます。是非考察頂いて、どうか発信されてください。

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