恋心は超グリーディ

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Jan 30, 2020 - review others

スター☆トゥインクルプリキュア 解釈

『スター☆トゥインクルプリキュア』で描かれた宇宙の説明と、その解釈を述べます。

また一つプリキュアが終わりを迎えました。今作『スター☆トゥインクルプリキュア』で描かれた世界について、ストーリーをさらいながら自分なりに解釈しました。プリキュアについて言及することは筆者にとって恒例ですが、趣味に過ぎないため他のゲームに関する投稿ほど信じて読まれないで下さい。

今回は特に、最終決戦まわりで描かれた作品のコアとなるモチーフについて述べます。全く何の挑戦や譴責もない、ただの読書感想文です。普段であれば「考察」と称してより拡大解釈した内容を述べるのですが、今回は作品の解釈を述べるに留まります。ラストバトルについても触れるのでネタバレが嫌な場合はご注意下さい。

前提として、今作のプリキュアは「多様性」 (diversity) がテーマとなっています。多様性については昨今世界の社会で重視されている価値観で、説明は例えば こちら Beyond の記事 にございます。名前が「多様性」ですから一意に捉えることはできず難解な概念です。

背景:前作

実は前作の『HUGっと!プリキュア』も、「多様性」が描かれました。しかし今作とは少し手法が異なります。

完全に推測に過ぎないのですが、おそらく前作『HUGっと!プリキュア』は、構想の段階では多様性について述べるつもりはなかった作品です。前作は、応援する特性を持ったプリキュアと赤子の妖精キャラがモチーフになっており、敵役がブラック企業のモチーフで、キャッチコピーは「なんでもできる」でした。多分ですが元は「ブラックな価値観が他人の時間・可能性を奪っていくけれど、そこから開放されれば人はなんでも出来る。そうなれるよう皆を応援したい。」といった方向性だったのかと私は密かに推測していました。

しかしプリキュアは1年間かけて制作し、そして年の途中で株主総会などがある背景から、話の途中でテコ入れの可能性がある作品になっています。すると『HUGっと!プリキュア』はある一話で一度副題に入れた「多様性」の価値観が想定以上に社会的にヒットしてしまい、副題であったこちらのテーマに徐々に方向性シフトしたのかと憶測しています。
憶測の理由として、登場人物のセリフに「ハーフじゃなくてミックス」「女の子だってギター弾いていい」といった内容がありました。これらは多様性の直接的な説明で、東映アニメーションさんが子供向けに作るファンタジー作品にしては伝えたい内容を文字・言葉に起こしすぎていると感じました。本来副題だったのかと考えます。また、メインモチーフである「応援」は最終決戦でどのように活かされたか筆者には明瞭になりませんでした。途中で主題と副題が入れ替わったのかな、と考えます。

制作側も、畏れ多いですが、この多様性の描写に関して納得行かなかったからこそ、『スター☆トゥインクルプリキュア』で再度主題として表現しているのかと考えています。それでは、今作『スター☆トゥインクルプリキュア』の説明に移ります。

東映アニメーション 公式ウェブサイト

世界観とモチーフ

『スター☆トゥインクルプリキュア』は宇宙で多様性を表現した作品です。まずはその世界観の説明をします。

“代替メッセージ”
スター☆トゥインクルプリキュア 東映アニメーションウェブサイト より]

今作でははじめに闇の組織「ノットレイダー」の手によって宇宙が侵略されていました。そこでプリキュアに目覚めた少女たちはロケットに乗って宇宙を巡り、 12星座を司る「スタープリンセス」 を救出し、宇宙に平穏をもたらすことを目指します。スタープリンセスは宇宙の創造主です。おひつじ座〜うお座 に対応して12名存在して宇宙をつくりましたが、最近ノットレイダーの力に敗れて解散してしまい、宇宙に闇が立ち込めていました。ただノットレイダーのボス「ダークネスト」は正体不明でした。ここまではスタンダードな設定かと思います。

今回のプリキュアは合計5人です。そのうち2名が宇宙人(地球人ではないこと)で、地球人もメキシコ人と日本人のミックスだったり、今までにないプリキュアメンバー構成になっています。

主人公の「ひかる」は地球人で、宇宙やUMAが大好きです。勝手に夜空を見て星座を創作してしまったりするその好奇心は作中で「イマジネーション」と呼ばれます。また、プリキュアの5人は目的を達成するために様々な星を旅しますが、旅先で侵略者扱いされてしまったり、現地人との価値観の違いに衝突してしまったりします。そこで相手のことを理解しようとする際には想像力が必要でした。これも広義でイマジネーションの一種として描いたのかと思います。

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[前期エンディング主題歌「パぺピプ☆ロマンチック」も歌い出しが「想像力から始まるイマジネーション」です。]

このように、好きなものを追求したり、相手との違いを認め合う際に「イマジネーション」が使われます。更に、今作のプリキュアはスタープリンセスたちから授かったイマジネーションの力を用いて、「理想の自分を描く」という手法でプリキュアへ変身を実行します。興味や問題解決、そして変身まで一貫してこの「イマジネーション」が用いられています。イマジネーションは思考法や感受性でありながら、プリキュアたちの動力源でもあるのです。

描かれた多様性

プリキュアの皆さんは宇宙を巡って様々な “違い” と衝突しますが、違いは魅力として描かれており、これを表した言葉が「キラやば」です。主人公ひかるは常に新しいものに接するたびに「キラやば」と発していました。

“代替メッセージ”
[登場人物は宇宙に亘るため嘗てなく多様です。地球人と異なるのは外見だけでなく、価値観も目的も異なるため、訪問者であるプリキュアとは衝突しがちです。 東映アニメーションウェブサイト より]

ここが今作で大事な点で、日本生まれ日本育ちのひかるが、地球や宇宙で価値観が異なるものに出会った時、敵対することがないのは当然ですが、:

  • 「良さは人それぞれだよ」
  • 「そんな人もいるんだね」

といった妥協と諦観の反応を取ることもありませんでした。なにを見ても統一で「キラやば」と徹底してポジティブに反応しています。これはワクワクであり、興奮であり、魅力に対する純粋に好意的な反応です。

宇宙や異星人を描き、違いがあることは当然である世界を見せ、違いは魅力であるとリアクションを取る。時に揉めたりするときはイマジネーションの力で解決するよう努め、解決できない時は撤退する。それが今作『スター☆トゥインクルプリキュア』でした。

(多くのファンが指摘していましたが、必殺技の合言葉も「思いを一つに」ではなく「思いを重ねて」という語彙を使っていました。今作のプリキュアは多様性とイマジネーションの化身なので、思考は一つに同化するものではなく、重ね合うものなのですね。)

トゥインクルイマジネーションとは

最終決戦に関わった内容はこの「イマジネーション」です。

最終決戦の流れを述べます。そもそも、プリキュアはスタープリンセスたちに命じられて宇宙を闇から救うミッションを背負っていたのですが、この世界を闇で包もうと画策していたのは、明かされた13人目のスタープリンセス = 蛇遣い座 でした。ノットレイダーのボスは元スタープリンセスだったということです。その経緯は、むかし13名のスタープリンセスが協力して宇宙を創造したことに遡ります。創造完成の際に、生命がモノを感じたり考えたりする力「イマジネーション」の能力も宇宙のみんなに与えることにしました。このイマジネーションはスタープリンセス固有の能力です。スタープリンセスたちは概ね与える方針だったのですが、蛇遣い座だけ与えない方針だったため意見が対立し、蛇遣い座はスタープリンセスから追放されました。

(※「蛇遣い座」はプリキュアの創作ではなく、過去にホロスコープの別流派で13星座の派閥があり、その中に蛇遣い座が居ました。詳しくは 2018年のこちらの解説 から。)

結果、イマジネーションを活用して宇宙では人々が対話し合い共に楽しく生きていたのですが、差異や愛情から対立や憎しみが生まれ、宇宙には敵対心が立ち込めて来ました。そこで蛇遣い座はこの敵対心(作中では「歪んだイマジネーション」と呼ばれる)をエネルギー源として利用し、12人のスタープリンセスを倒すために暗躍し、上記闇の組織「ノットレイダー」を率いて宇宙の闇を拡大して来ました。これを阻止すべく、プリキュアは1年(おそらく作中内時間は1年ではない)戦って来ました。

そして迎えた最終決戦。最後には蛇遣い座はプリキュアやスタープリンセスに完全勝利し、イマジネーションの力は宇宙からなくなってしまいます。これには勿論プリキュアの持っていたイマジネーションの力も含まれており、プリキュアたち5名は変身する能力も失いました。宇宙は闇に包まれ、イマジネーションのない宇宙となり、蛇遣い座の目標は達成されます。(すごくストーリーを丸めて説明しました。)

“代替メッセージ”
[プリキュアはこの蛇遣い座に屈します。 東映アニメーション公式サイト スター☆トゥインクルプリキュア48話 より]

全て終わったかと思ったその時、プリキュアは突如力がみなぎって来て復活を遂げます。これは1年を通じて、自分のイマジネーションが備わったからでした。スタープリンセスの12星座が宇宙創造の際に “配布した” イマジネーションではなく、プリキュア自身が対話や対立の経験を通して “身につけた” 独自のイマジネーションです。これが作中で「トゥインクルイマジネーション」と呼ばれていたものであると私は解釈しています。プリキュアは復活し、自分の力で蛇遣い座の闇を振り払いました。こうして宇宙に平和が戻りました。

この一連の流れは 『ねとらぼ』さん でもまとめてあります。参考にされて下さい。

トゥインクルイマジネーションのメタファー

特に注目したいのが「トゥインクルイマジネーション」です。これは元々はプリキュアが友達と・敵と対話して覚醒した能力の名前であり、特に形あるものでもなく玩具も発売されず、これによって何が出来るのか不明瞭な属性でした。ところが最終決戦で力を発揮しました。スタープリンセスのイマジネーションが宇宙からを失われてのちも、プリキュア自身が生み出した自分のイマジネーションなので消えることはなく、闇の中で唯一活用できた動力となりました。

これは一つのメタファーであったと考えています。「多様性社会を生きる中では自分の価値観を大事にしよう」という暗示です。
人にとって価値観とは与えられるものです。現代社会では生まれた国や言語・人種によって、考え方や感じ方は異なってくるでしょう。なにが楽しくてなにが正しいと感じるかは、生まれ育った環境によって左右されるでしょう。これは人間が社会に共鳴する生物である以上ある程度已むを得ないと思います。これは環境に与えられた価値観です。
しかし、与えられた価値観ではなく、自分の感性・思考を大事にするべきです。「これは本当に正しいのだろうか」を自分で判断できるようになれば、人は他人との違いに接した時に、相手と分かり合う確率は上がるでしょう。(ストーリー上の話題ですが、ララが自分の惑星の価値観から脱皮したり、えれな が留学を目指したり、まどか が留学を辞めたりする判断も、自分で物事を考えるというトゥインクルイマジネーションの方向性と合致しているでしょう。)

おそらく、スタープリンセスが宇宙創造の際に配ったイマジネーションとはこの “環境から与えられた価値観” を暗示しており、プリキュア自身が育んだトゥインクルイマジネーションとは自分が育む価値観・感受性を指しているのではないでしょうか。

よって最終決戦とトゥインクルイマジネーションの描いたものは、「多様性のある世界で感受性は環境に与えられるけれど、自分で考えることが大事」ということの暗示と考えました。

決着の言葉

決着のとき、蛇遣い座は

  • 「イマジネーションは必要ない」(意訳)

といった趣旨のことをプリキュアに投げかけました。しかしそれでは

  • 「つまらないじゃん」(原文)

とプリキュアは回答しました。これは一見単純で浅慮な結論ですが、今作の至った境地を表していると筆者は考えています。

多様性に富んだ宇宙では様々な生物がいるため、お互いの差異が軋轢を生むくらいなら、いっそのこと感受性・価値観・思想を持っていない方が平和に収まるのではないか?というのが蛇遣い座の主張です。蛇遣い座は宇宙創造の頃から一貫してこの信条を抱いているようです。
しかし今作のキーワードは「キラやば」です。一年を通して主人公のひかるが差異に接した時「キラやば」と発していました。プリキュアの立場に則るならば、差異は魅力であり・楽しいものなのです。更に、価値観は環境に与えられるものでついつい賦与の概念から魅力を判断してしまう傾向もあるのですが、トゥインクルイマジネーションも忘れてはいけません。魅力の判断は自分の育んだ感受性で為すべきなのです。

確かに、ここは思考実験ですが、現代の世の中で人々は様々な価値観を持っていますが、全員が環境から学んだ通りの価値観だけを身に着けて生きていると、ある日なにか「道徳的危険」が起きた時に世界中がカオスになる可能性はあるのですよね。その対処法として、多様性をの存在を前提とした場合に価値観・感受性をなくすことを人々に強要しても良いのですが、それはまた非現実的というのは納得頂けると思います。多様性から生じる差異は魅力なのであり、その感じ方は自分で価値観を形成しましょうという、世界に対するメッセージであると感じます。

これが「つまらないじゃん」に込められた一年の集大成だったと筆者は考えています。

そして

こちらが『スター☆トゥインクルプリキュア』の一年についての解釈でした。

感想を申し上げると、ストーリーの面で他のプリキュア作品と比べて起伏が少なかったかなあと思います。スタープリンセスの力(ペン)が12本揃った時点で最終必殺技が手に入り、それ以降追加で技・進化はありませんでした。また、敵キャラが減りませんでした(本当は敵と呼ぶべきではないのですが)。敵を倒すというチェックポイント的な達成がないと物語が進展していないような印象を受けますが、これは作品のテーマ上致し方ないです。敵キャラは戦いが終わったあと和解し、新しい宇宙で皆と共に生きて行きます。多様性の受容を描いた大事な部分です。

このようにアイテム面や敵との展開で起伏が少なかったという印象を受けた方はいらっしゃると思います。その一方、筆者は今年のプリキュアは自己との対話が多かったと思います。勿論友達・ほかの宇宙人・敵との対話も多かったですが、これを通じてプリキュアは自身でモノを考えるようになりました。(例えて謂わば、FFの中では13に位置するような感じです。)

また、最後に個別の評価になるのですが、今年の主人公 ひかる/キュアスター の声優を担当された成瀬瑛美さんが凄く好きでした。筆者の中では、「演技が上手く、その上でその声優さんでないとそのキャラが出来ない」場合が最も完成されたキャラクター声優マッチングである考えています。成瀬瑛美さんは『でんぱ組.inc』の一員で、前衛的なアーティストとして世界を巡っていましたから、ひかるのスタイルに自然と合っていました。自分との差異に接した時に「キラやば」と言える大役は、この方でないと不可能だったかもしれません。なんとアニメの声優業は 1, 2役しか経験がなかったのですが声から感情の起伏もよく伝わっていました。他の作品が寡ない独自性がまたプリキュアを特別なものにしていたと感じています。これは別に、他の声優陣がダメだった訳ではありません。プリキュアはどの方も逸材を起用されてらっしゃいます。それでも今回の成瀬瑛美さんは、2010年 キュアムーンライト の久川綾さん・2013年 キュアエース の釘宮理恵さんに勝るとも劣らない最高のマッチングだったと感じています。

以上

以上です。また自分にとって面白いプリキュアと出会える日を待ちながら生き永らえることとします。

過去にもプリキュアの紹介・考察をしていますのでご興味有る方は以下です:

また、筆者はダンスが好きなので、今作の後期エンディングの公式動画をここに置いておきます。プリキュアのダンスCGには遂に10年の伝統があります。今作は宇宙ですので、EDMチックな音楽・映像でそれを表現し、ジャズっぽいけどそんなに踊ってもいない感じです。子供向けとしては挑戦的だと思っています。最後にこちらをどうぞ↓

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