恋心は超グリーディ

普段質問されることを文章起こした場所です。ライブ配信やゲームイベントにまつわるものです。もしくは、たまに筆者の趣味の文章が交じります。

Oct 3, 2018 - others

『平家物語』と『源氏物語』違い

こんにちは。古典好きマンです。「源氏物語と平家物語ってなんだっけ?」「源氏物語と平家物語って対決するんですか?」という質問を受けすぎるので、答えを用意しておくために書きます。

元々この内容は書いて保管しておいたのですが、公開していませんでした。しかし姓と名字に関する こちらのねとらぼさんの記事 を見て「意外とみんな知らないんじゃな… もっと日本の伝統知ってほしいな…」という感想に至り、ちょっと関連するこちらの内容を公開します。
実は公開にあたりリサーチを進めるにつれて、類似する記事が様々なところに見つかりました。しかし、私なりにこれを期に情報をまとめましたということで新規性としたいです。

そして、私はそんなにストイックな歴史の専門家ではないため、あまりツッコミを入れないでください。

Q. 源氏物語と平家物語って対戦するの?

しません。

Q. 源氏物語と平家物語ってどう違うの?

全然違います。

源氏物語は、平安時代の全盛期(紀元1000年くらい)、当時の王家のイケメン「光源氏」の性生活を描いたフィクションです。作者は有名な紫式部で、背景も当時の平安宮中そのままを描いた優雅なものとなっています。しかし、あまりにもヤリチンな内容のため、源氏物語は戦前には 上演が禁止 されるレベルです。

“代替メッセージ”
[二千円札に用いられる『源氏物語絵巻』。 日本銀行ウェブサイト より]

一方の平家物語は、平安末期〜鎌倉時代形成に実際にあった戦闘を描いた軍記物の悲劇で、サーガに近いです。勿論ですがこちらの方が後に書かれています(紀元1200年以降)。戦いと忠義を熱く描いたため、戦前に広く好まれた作品です。
忠誠心といえば平家物語です。戦国時代の傭兵たちは今のイメージに反して忠誠心が低めと「一夢庵風流記」にも記載しています。忠誠心が高い武士のイメージは平家物語の時代なのです。(筆者は日本戦国時代アンチなのであんまり話題を振らないでください。)

“代替メッセージ”
[『平家物語絵巻』の有名シーン:通称 “那須与一”。 Wikipediaより 抜粋。]

私のような硬派なマスラオ男子が好きな作品が平家物語、と憶えてください。好きなシーンは忠度都落です。

Q. なんで「源氏物語」は貴族の話で「平家物語」は武士の話なの?

貴族ファンタジー:源氏物語が先に書かれてしまい、ここから100-200年後に時代は平安時代(京都貴族)から鎌倉時代(関東武者)へ移りました。こうして武士の時代に軍記物の平家物語が作られたからです。
当時は名前のバリエーションも少ないので、登場人物の名前の「源氏」が被ってしまったのが紛らわしい元凶だと思います。

Q. 源氏物語と平家物語に出てくる「源氏」はどう違うの?

ちょっと違います。ここが今回のメインです。

この2作品がよく分からなくなるのは、双方に「源氏」が登場することが原因かと考えます。そのため、「源氏」とは何かを説明します。

小題.「源氏」とは?

源氏(げんじ)とは、氏が源(みなもと)の人のことです。源の姓は、天皇家の者が臣籍降下した際によく用いる姓です。

…これが答えですが、これを読んでいる方はココがなんのことかさっぱりなのだと思います。
※厳密には氏と姓が異なるのですが、簡易にするため気にせず姓(せい)で書きます。また、「天皇家」は当時「王家」と呼ぶことが一般的ですが、面倒になったのでここでは天皇家で統一します。

では順を追って説明いたします。天皇家は昔から存在しますが、昔は天皇家の人でも諸事情により「天皇家、辞めます」と言い出す人もいました(例:財政上の理由、跡継ぎ争いを避けるため 等)。すると、天皇家を辞めた方は、皇族から 一般人 = 臣(臣民) になります。これが「臣籍降下」です。そこで、今も昔も天皇家の方は姓がありませんので、臣になった際に姓を決めることになります。多くの方がここで「源」や「平」といった姓を名乗りました。

“代替メッセージ”
[「諸事情により皇族を辞めた人」の例。本当にすみません、自主規制です。]

そのため、重要なことは「源」や「平」という姓を受けた方、およびそのファミリーは多数存在するということです。源氏の場合は、21の別々の天皇からファミリーが発生したことが分かっています。

小題.「源氏物語」の「源氏」とは?

源氏物語は主人公が「光源氏(ひかるげんじ)」だからこのタイトル(のはず)です。確かに主人公は天皇の子でしたが側室の子であり、その母も若くして亡くなったため、早くに臣籍降下しました。だから「源氏」です。「光」の部分は本当に「光る」という意味なので、合わせて「光源氏」です。名前というよりも通称です。英語では Shining Prince と訳されることもありますが、ここまでのご説明で納得が行くかと存じます。

「え?!なんで名前が称号なの?」「え?!じゃあ光源氏の本名は?」という疑問が発生すると思います。作中に名前は登場しません。光源氏を本名で呼ばない理由は、当時の高貴な人物だからと考えるのが自然かと思います。他の登場人物も 頭中将・左大臣 といった調子ですので、この作品の統一された世界観とも言えます(私の推測です)。実際に 紫式部・清少納言 も大まかに言えばこういった形式の名前ですので不自然ではありません。

この内容については、 こちらの記事 も参考になさってください。

小題.「平家物語」に出てくる「源氏」とは?

平家物語に登場する源氏は実在する(はずの)皆さんです。その昔、清和天皇という方がいらっしゃって、その子・孫は多く臣籍降下し源氏を名乗りました。彼らをまとめて「清和源氏」と呼びます。そこから200年先に下ったところの子孫の一人が「源頼朝」にあたります。

こういった経緯で、源氏物語にも平家物語にも「源氏」が登場することとなります。

小題. その他の源氏

他にも源氏は居ます。清和源氏では木曽義仲・足利尊氏・武田信玄・徳川家康 …etc です。「じゃあなんで源家康じゃないの?」という疑問が出るのですが、そこは 先程にもあげたねとらぼさんの記事 にございますが、上にも述べた氏と姓の違いがあります。端的に表しているのでこちらを御覧ください:

[こちらの ツイート から]

要するに宮本武蔵ですら「藤原氏」であり、本姓(=氏)だけだと紛らわしいので当時全ての方が名字(姓)を採用しました。足利・武田・徳川は名字です。たぶん日本史で義務教育で習うような人物のうち、源氏に当てはまる方はほぼ清和源氏なのではないでしょうか?

“代替メッセージ”
[Blizzard社『Overwatch』の “Genji” …こいつはなんで源氏なんでしょうね]

ここまで「源氏」に関しては参考として こちら戦国武将の記事 も比較されてください :

Q. なんで「平氏」じゃなくて「平家」物語なの?

これも良くある質問です。

上述の通り「源氏」は様々な祖を持つ姓です。「平氏」も同様で様々な皇族の方が臣籍降下した際に選んだ姓なのですが、平家物語に登場する「平家」は平清盛を頂点としたファミリーで構成されています。この人達だけ、一家の血縁関係にあります。そのため、例外的に平「家」と呼ばれています。

こちらに関しては こちらの日本実業出版の方の記事 も御覧ください。

Q. なんで「へいけ」なの?「たいらけ」じゃないの?

直前のURLにもございますが、家の読み方については藤原家を「藤家(とうけ)」・菅原家を「菅家(かんけ)」のように読む風習がありました。そのため源氏・平家も音読みが通例になっています。そもそも何故「藤原家」を「藤家(とうけ)」と読んだかというと、音読みのほうが正式という感覚があるからです。すみません、ここ出典を探すことが出来ませんでしたので、例を挙げますと「義経記」は「ぎけいき」・「義仲寺」は「ぎちゅうじ」という読みが正式になっています。

“代替メッセージ”
[ヘイケボタル (Wikipediaより)。ゲンジボタルよりも小さめ。]

おまけQ. ほかに源氏物語と平家物語で違うことは?

源氏物語と平家物語の差は、書かれた時代と文化的な側面だけではありません。文体が大きく異なります。文体というと分かりづらいですが、リズムが異なります。

源氏物語は訓読みメインの語彙を用い、音楽性を排除した散文で整えられています。ハイコンテクストなので抽象性が高く、授業や問題で解く際に難解であったことを憶えていらっしゃる方もいると思います。書き出しは「いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。」です。

で、私の好きな方の平家物語ですが、こちらは和漢混交体です。書き出しは有名な「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」です。上の源氏物語よりも、漢字(音読み)が多いことが分かると思います。

平家物語は、元は琵琶法師が弾き語りをすることを前提にしていたため、自然とリズミカルな文体になるよう研磨されて来ました。その中で役割を果たしたのが和漢混交体です。源氏物語の頃までは日本人が書く文はこういったひらがな・訓読みメインで固定だったのですが、武士の時代になりカッコいい感じが重宝されるようになると、漢文書き下しさながらの文を日本語で創作するようになりました。

では和漢混交文のどの辺がリズミカルなのでしょうか。
他言語で言うと、英語のラップはアクセントがあるから可能となっています。シェークスピアの弱強五歩格もアクセントがあるから可能な韻文でした。ここは自分の古文の先生から聴いた伝聞ですが、日本語にはアクセントがないのでどう強弱がつくかと言うと、漢音と和音を用いているということです。元来漢詩も、中国語の平仄を用いて強弱を付けていたのに、日本語にした際に無理矢理書き下し文にしたわけです。しかし書き下し文の漢音・和音が良い感じの緩急をつけて、強弱があるかのような形式が整いました。そこが発展して『平家物語』となり、『太平記』や『日本外史』となって、今の日本語に活きています。

学校では 短歌・俳句 の音節が解り易い形式が、和のリズムとして教えられていますが、平家物語のような美しい文のことも忘れないで頂けると幸いです。

以上

「古典が好き」と言うと全く共感が得られないため、今までも多く質問を受けました。最も多い例をここにまとめることが出来たので、今後活用していこうと思います。

逆に、「平家物語」の内容に興味を持って頂くためにオススメなのは 大河ドラマ『平清盛』かと思います。凄く面白く完成度も高いのですが、今大河ドラマは戦国時代か幕末でないと視聴率が取れず、駄作と評価されてしまうのは残念な限りです。私の中では最も評価が高い大河ドラマです。

輪るピングドラム 考察 選挙と宣伝効果とゲーム

comments powered by Disqus