恋心は超グリーディ

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Jan 20, 2024 - gamerlogy philosophy

主観ライブ配信/ストリーマーの歴史

ライブ配信をする者:ストリーマーは私がとても関心ある分野であり、近年では日本でも市民権を得た用語であると感じています。コロナ禍が一定の収束を見せて世界的にもネットメディアがひと区切りと言われているこの時節に、一度自分のストリーマーに関する視点をまとめようと思い立ちました。

導入

ストリーマーとは、インターネットライブ配信を通じて自己表現する者です。「ライブ配信者」「配信者」という呼び方もありますが、ここでは「ストリーマー」で統一します。そのため本文は「配信者の歴史」と読み替えて頂いてもだいたい通じると思います。

ストリーマーは YouTuber のように動画を主戦場とする方々とは少し異なり、Twitch や YouTube Live といったサービスで、視聴者とリアルタイムに意思疎通を取るメディアで活動をしています。
国際的にも streamer(もしくは livestreamer)という単語で呼ばれ、今ではタイムズスクエアの新年カウントダウンを担当するほどの影響力があります(註1)。

詳細については、かつて「ストリーマーとは何か」という文章を書きました。厳密にはこちらを御覧ください:

“代替メッセージ”
[現代の具体例として知り合いのストリーマー:がくとさん。 チャンネルURL

私は特にゲームをしている文化圏に親しんでいます。おそらく皆様も「ストリーマー」と言われたら:

などなどこういった面々を思い浮かべるでしょう。VTuber をイメージされるかもしれません。

こうした「ストリーマー」というクリエイター軍団はどこからやって来たのでしょう?今ではストリーマーは所与のものとして扱われますが、以前はライブ配信というものは後発メディアであり邪道なものでした。その歴史を見ることで重要なその意志を確認できると私は考えています。

本文では日本でのストリーマーの歴史を追いかけます。 これを私の主観で、というよりも Twitch というサービスを日本で広めるにあたって体験してきた経験を基に記すものです。

2015年の背景

時は2015年のころから始めます。

昔々あるところにインターネットがありました。この頃はスマホ・LINEが普及し、人々が広く Twitter をするようになっていました。また、急激に「スマホゲー」が発達して行きます。パズドラ・モンストといったゲームが普及し、YouTube やニコニコ動画はそのコンテンツが多くなり、ゲーム攻略サイト(例:GameWith や Game8 など)が興隆するようになります。

“代替メッセージ”
[日本でのスマホ普及率は2010年で1桁%であったのに対し、2015年までで70%を超えています。総務省ウェブサイトより(註2)]

例えばそれ以前に人気のあった匿名掲示板・ニコニコ動画・YouTube などは PC から見ることが主流でした。上グラフの通りPCは普及率80%ほどを誇ります。しかし、PCは「一家に一台」であったり、「何年前のものか分からないポンコツ」が家に胡座をかいていたことと比べると、「一人一台, 毎日使う」というスマホの登場は画期的なものでした。 この時代から急にウェブサービス・動画へのアクセス元に「モバイル」の欄が大きく幅を占めるようになって来ます。

“THE MANZAI 2014”(フジテレビ系列)では博多華丸大吉が「YouTuberになりたい」というネタを披露し、2015年頭には東京エレキテル連合さん(タイタン所属)が YouTube の CM に起用され、YouTuber が一般的になってきた黎明期でした。ようやくということは、ストリーマーという存在はまだまだでした。

当時のライブ配信

2015年、日本のライブ配信ではニコニコ生放送(= ニコニコ動画が運営するライブ配信サービス)が圧倒的なシェアを持っていました。

ライブ配信という技術自体はかなり前からあります。2007年には Justin.tv というサービスが開始され、インターネットユーザーなら誰でも自分からライブ配信が可能なサービスが始まりました(註3)。日本では2008年末からニコニコ生放送がユーザー向けにサービスを開始しています(註4)。

しかし、現代と同じ技術があるからといって、文化が現代と当時とで同じとは限りません。2015年にライブ配信活動をしていた方々と、現代のストリーマーでは価値観が異なります。

最も大きな差としてはブランドや個人に対するアプローチでしょう。当時の感覚は以下のようでした:

  • ゲーム実況は基本的にすべて違法である。ゲーム会社は容認していない。
  • ゲーム実況で収益化はもってのほか。
  • 顔出しをして自分のブランド力を上げることは売名であり、言語道断。
  • ゲームの影響力を用いて名を広めたのだから、クリエイター個人のグッズ販売はイケないことである(= ゲーム会社の許可が必要)

こうした論調です。「ほぼアウトだった」という話については CEDEC での中田朋也氏のプレゼンにもあります(註5)。

このように収益化を嫌う論調は「嫌儲」と呼ばれます。「嫌儲」という単語は当時広く用いられており、私が Twitch に入社する以前に日本を分析した資料でも「嫌儲」という単語が登場しているほどでした。

たしかにインターネットでも YouTube では収益をあげていました。しかし YouTuber は「広告収入」であり、視聴者からお金を集めていません。こうした文化的な溝が本日のライブ配信のスタート地点となります。

断っておきたいですが、私は当時もニコニコ生放送を楽しんでいました。寧ろ「オンラインでライブ配信」というツールと文化をユーザーに定着させた功績があると思っています。また、ニコニコ動画運営は「企業にライブ配信をしてもらう」という営業をいっぱいかけました。当時の企業には「インターネット掲載NG」という風潮もある所にはあり(註6)、そこにニコニコ生放送は斬り込んで企業にインターネット発信に触れてもらう窓口になっていたと感じます。
当時の「嫌儲」文化については、ニコニコ動画運営によるものではなく、ほぼユーザー社会の自主性によって敷かれていました。

“代替メッセージ”
有志による2014年の配信者ランキングページ を見つけました。ゲーム系の人が少ないところに現代との雰囲気の違いを感じられると思います。私の感触ではゲーム系は余り表に出られないものでした。]

ストリーマーの登場

こんな時代に、「ストリーマー」という単語が現れました。

「ストリーマー」という単語をカタカナで使い始めたサービスは、おそらく Twitch です。

当時「ライブ配信をする者」という意味の単語で最も普及していたものは「生主」です。ニコニコ生放送を行う者という意味です。当時よく使用されていた Peercast や USTREAM といったサービスでは「実況者」や「配信者」という単語もありました。

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Google Trends 「生主」と「ストリーマー」の対比。2010~2017年では「生主」が主流です。ストリーマーはコーヒー器具の方もあるため少しノイズデータがあります。]

Twitch は2011年にサービスを開始し、グローバルでは非常に大きなシェアを握っていました。だいたい中国を除く世界の8割程度を持ち続けています。2014年には Amazon に買収され、ストリーマーやライブ配信の文化をある程度確立していました。

そんな Twitch は私が入った2015年に日本でのサービスを開始したため、その際に翻訳・ローカライズが必要でした。特に英語の Streamer という単語をどのように日本語にするかは議論になりました。土着の用語である「生主」とか「実況者」にする案もあったのですが、

カタカナで「ストリーマー」でいっか

という結論になりました。

上述のように、当時のネット上のクリエイターというのは収益化して「ファンからお金を貰う」という行為は禁忌的でした。日本で Twitch の説明をするたびに:

  • 「これは違法なサービスだ!」
  • 「収益化なんて絶対やる人ひとりも居ない!」
  • 「顔出しナシは日本の文化なんだ!」

と言われました。

Twitch ストリーマーというのはまさに視聴者からサブスクを集め、視聴者と共にブランドを築いて活動をするものでしたので、どうしても交わり得ない不倶戴天のような文化圏でした。そこで線を引きまして「Twitch はたしかにライブ配信ですが、日本の從來の文化とは異なります」という見せ方をするためにも「カタカナでストリーマー」という表現で行くことにしました。

“代替メッセージ”
[当時の Shobosuke 氏。原典がどこか見つけられませんでしたが、例えば こちら からご覧になれます。]

文化は同時多発的に興る

ただ、「Twitch がストリーマーと呼んだから全面的にストリーマーという単語が広まった」という功績を主張することはできません。文化というものはそのように定着するものではないからです。

どちらかと言えば、当時の Twitch 外の影響が大きいでしょう。特に esports チームです。国内ですと当時のesportsチームが「ストリーマー部門」というものを作り始めました。これは海外でも esports チームがストリーマー部門を持ち始めていたからだと思われます。

また、OPENREC さんが2015年末にライブ配信サービスを開始し、こちらでも「ストリーマー」という単語が採用されました。こうした同時多発的採用から、ストリーマーという単語は広まって行ったと感じています。

※ OPENREC さんの歴史を Wikipedia でご覧になると、文化の変遷が見えて面白いです https://ja.wikipedia.org/wiki/OPENREC

こうして、esports チームの皆さまや OPENREC さん、そしてやがてニコニコ動画さんも含めて、業界は肩を組んで「クリエイターの収益化・ブランド化」という戦いを日本市場で展開するようになります。このあたりの労働者・会社員はだいたい知り合いで繋がっています。

大会主流時代

同じく 2015年ごろ、最も大きいコンテンツは「イベント」でした。海外でも日本でも、所謂 “esports” が最も大きいライブ配信コンテンツでした。例えば世界では LoL Worlds が最も視聴者が出る存在であり、日本でも EVO 日本語中継や LJL 決勝などの競技的コンテンツは非常に注目されるものでした。

翻って現代を見れば:

  • 「有名ストリーマーがイベントをミラー配信してくれたから盛り上がった」
  • 「有名ストリーマーを集めた Apex Legends 大会!」

といった言説がありますが、当時こんなことはあり得ませんでした。文化の幹線道路は競技的な esports 大会であり、各種ライブ配信サービスは大会の放映権を懸けて最も熾烈に争っていました。
振り返ってみれば Twitch も北米でローンチ当時(2011年)は:

Justin.tv の esports スピンオフ

という謳い文句であり(註7)、ライブ配信というのはどこか「試合を見るもの」という雰囲気がありました。

“代替メッセージ”
2015年 Twitch グローバルでの年間視聴時間ランキング 。Riotgames, ESL, Beyond the Summit, Dreamhack, GDQ などイベントが多めです。]

たしかに2016年には梅原大吾さんが個人ライブ配信を開始され、それを皮切りに多くの最上位格闘ゲーマーが個人ライブ配信に乗り出しました。それでも EVO や Capcom Cup という競技的な大会は別格の視聴者数がありました。規模感的には、最大の格闘ゲーム個人配信が同時視聴者数3000~4000くらいであったのに対し、EVO 日本語中継が2万を超えるほどです。

この頃は競技的な大会『RAGE』の勃興期であり(註8)、私の感覚としては一年で最も盛り上がる目玉イベントは『スプラトゥーン甲子園』でした。また、Twitch が2016年に東京ゲームショウに出展した際にどのような演目にステージを割いていたかを見れば(註9)、各種ライブ配信サービスがいかに競技的・esports的なコンテンツに力を入れていたことが分かるでしょう。

ちなみに2016年に、Clips, Bits といった新機能が Twitch に実装されました。

バトロワ革命

ここまで:

  • 「当時は大会が主流だった」
  • 「嫌儲文化があった」

といった時代背景の説明をして来ました。では「どこで価値観が現代に変わったの?」と訊かれましたら、私は

2017年

と答えるでしょう。

2017年3月に “PUBG” というPvPゲームタイトルの早期アクセスが始まります(註10)。この「バトロワ」系タイトルは世界的に異様な大ヒットとなり、金字塔と言われています。後続の フォートナイト・荒野行動・Apex Legends といった有名タイトルもバトロワ系にあたります。

バトロワ系というジャンルの説明はより詳細なものに譲りますが、このバトロワ系というジャンルは「個人」の重要性を知らしめました。

例えば PUBG リリース直後、日本で唯一開催されていた大会 “DONCUP”(主催 Shobosuke)では、運営視点のみならず参加者が各自自分の視点をライブ配信することができました。これは当時としては画期的な概念でした。やがて、視聴者はストリーマーの毎日の配信も見るようになり、視聴体験は徐々に変化しました。実に、大いにミスったプレイをして視聴者と笑い合い、リアルタイムに Clip を作り、Twitter でみんなと楽しむ。誰かが勝手に切り抜き集を作る。こういった精神的構造が確立して行きました。

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[バトロワ価値観の嚆矢となった大会 “DONCUP” 。画像は Shobosuke 氏 より。DONCUP は大会が盛り上がったのみならず、参加者の個人チャンネル発展に大きく貢献しました。]

後世に数値だけを追いかけても、2017年というのは何の変哲もないいつもの年だと目に映るでしょう。ただ PUBG というゲームが流行っただけの年です。しかしライブ配信の文化を追いかけるならば、現代のストリーマー文化につながる導火線に火をつけた年です。こうした現象が日本でもグローバルでも共通して発生しました。

こうして「イベント」が主役だった時代から、個人の「ストリーマー」が強くなる転換を指すものとして、私はここで「革命」と呼ぶ次第です。
イベントや大会が小さくなったわけではありません。絶対評価をしますと、大会の視聴者数水準というのは徐々にインフレしているものです。しかし相対的に見ると、それよりも速いペースでストリーマーの影響力が増して来たということです。

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[2023年末の国内ライブ配信ランキング 画像出典 。上記2015年グローバルランキングと比べると、圧倒的に個人チャンネルが多いことが見て取れます。]

東京ゲームショウ2017年での Twitch ブースを見てみると、「パートナーラウンジ」という区画が大きく設けられています(註11)。こうした風潮からも個人ストリーマーの重要性が増していることがうかがえます。

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[画像出典:日経クロストレンド(註11)。東京ゲームショウ2017年での Twitch ブース、パートナーラウンジ。認証されたストリーマーが入れる空間がはじめて目玉として扱われました。]

社内の話ですが、北米で Ninja というストリーマーが大ヒットした時、Twitch の創業者CEOだった Emmett は:

創業時には想定していなかったほどの大物が生まれた(意訳)

と言っていたことを覚えています。

2019年に Mildom さんがライブ配信業界に参入したときを覚えている方がいらっしゃれば、もうこの時点では主眼が「イベントの放映権」よりも「個人ストリーマー」の獲得戦になっていたことは直観的にお分かりでしょう。

バトロワがもたらしたもの

バトロワが流行り、個人ストリーマーの人気が増すと、日本でも Twitch「サブスクライブ」が一般的になりました。今でもお馴染みの「感謝します」というフレーズはここで生まれました。偶然にも「Amazon Prime で Twitch サブスク一個無料」のサービスが日本に導入されたのは2017年です。

バトロワ以前は「ライブ配信しませんか?」と説明したときにサブスクや所謂 “投げ銭” の説明が中々難しかったものです。収益化が一般的ではない時代には、そもそも視聴者がインターネットで他人にお金を払う意義とか動機とかがさっぱり分からないのですよね。そこで「感謝します」が流行ると一発で説明は簡単になりました。他のクリエイターの方へイメージを持っていただき易くなりました。

また、配信時間が伸びました。ライブ配信というものは、元は企画・テーマを決めてダレないようにやるものでしたが、バトロワ登場以降はそんなものを気にしないことが常になりました。練習やレベリング・ファーミングもなんでも視聴者と一緒に共有するようになりました。

少し話が逸れますが、この2017年には YouTube Live がモバイルアプリからも視聴できるようになり、ライブ配信戦線に YouTube が登場します(註12)。ちょうど PUBG 辺りから YouTube Live を用いる方が増えました。これは後述の VTuber に繋がります。

ガイドラインの登場

2010年代になっても日本では:

洋ゲーは全く好まれない

と描写されるほど洋ゲー(= 海外パブリッシャーが開発・販売するゲームタイトル)のシェアは小さいものでした(註13)。しかしライブ配信の歴史には多くの洋ゲーが登場します。日本の歴史上 Minecraft, League of Legends, Overwatch や PUBG といった洋ゲーが人気あったことには少しワケがあったと言えるでしょう。
原因を一意に定めることはできませんが、海外パブリッシャーが「ライブ配信しても良いですよ」というガイドライン(もしくは意志)を出していたことは要因の一つでしょう。

上でも少し述べましたが、ゲームはパブリッシャーの著作物ですので、ライブ配信で用いることにはグレーゾーンがあります(註14)。特に日本の方はユーザー同士がお互いを監視してルール違反をチェックする生態系があり、クリエイターは慎重にならざるを得ません(註15)。

ストリーマーは悪いことをしたいわけではありません。好きなゲームをプレイし、視聴者と楽しみ、関係者全員が喜べるような世界を作りたいだけです。そのため、大丈夫な手形が発行されている洋ゲーで活動しやすいことは自然な心理でした。

その頃、国内でも任天堂さんは段階的にクリエイター向けのプログラムを導入していました。遂には2018年に “ガイドライン” が発表されます(註16)。これは「個人ならば誰でもゲーム実況をやって良い」という無条件(= お問い合わせしなくて良い)で広域に亘るもので、画期的でした。
そこからタテ続けに日本の各パブリッシャーがガイドラインを発表されました。今や国内の売上上位を占めるゲームのほとんどは「動画化したりライブ配信したりしても良いよ」と言っていただいている状態です。ゲーム実況全般は雰囲気として「適法」の時代へシフトしました。なんとなく「ゲーム実況はやってもOK」という空気はここで充填されました。

他にも様々な要因がありますが、こうした段階を経てゲームライブ配信での:

  • 視聴者からの収益受け取り
  • ブランド化
  • 顔出し

といった要素は受容されて行きました。この頃になるともう「しっかりライブ配信やって、自分のチャンネルのブランドを伸ばして行こう!」という表現をしても違和感は全くなかったでしょう。

VTuber 誕生

ストリーマーという話題ならば VTuber を見ない訳にはいかないでしょう。 VTuber 自体は2017年、キズナアイ登場とともに単語が存在しました。しかし名前の通り当時は「動画」でした。ではいつ「バーチャルな YouTuber」から、ライブ配信の道へ進出したのでしょうか?

VTuber がライブ配信を主戦場にするようになったのは、2018年頃からです。『にじさんじ』の一期生がデビューし、個人ごとのライブ配信がありました。同年『ホロライブ』の一期生もデビューされています。(厳密には「一期生」という用語は後付けですが。)そこからの活躍は現代の皆様もご覧の通りです。

しかしながら、

「スマホやウェブカメラを用いた顔認識は早い段階からあったのだし、ライブ配信するVTuber という存在自体は2015年くらいには実現できていてもおかしくなかったのではないか…?」

そういう質問を受けたことがあります。
実際は一部個人では顔認証を用いた Live2D 方式アバターの方はいらしたのですが(註17)、今ほどのトレンドになりませんでした。それはおそらく2015年の人間が “事務所で大々的に発信している VTuber” を見たならば:

  • 「収益化なんてけしからん!」
  • 「なんでゲーム実況に2次元アイコンが要るんだ?個性を出すな!」
  • 「ゲーム実況は違法なんじゃないか?」

と叩くことが想像できるからでしょう。翻って2018年には上述のストリーマー文化:顔を出し、視聴者から収益を受け取ることが日常的になっていたからこそ VTuber は成立しえたと見ています。

私はストリーマー文化から VTuber が生まれたとは言いません。おそらくニコニコ動画の文化や、アニメ・アイドル・声優といった日本的文化が総合して生まれた要因のほうが大きいです。しかし、ストリーマーの歴史があったからこそ2018年に VTuber の活動形態が拒否されずに存在できたと考えています。
今では上記事務所勢に限らず、多くの「個人勢」と呼ばれる VTuber の方が活躍するようになりました。

“代替メッセージ”
画像出典:StreamCharts 。2023年12月には、Twitch 女性ストリーマーの世界1位を日本の個人 VTuber の方が獲得するほどになりました。]

渦中

ここまで読まれると、「ライブ配信ってでっかくなったんだなあ」と感じられることでしょう。それにも増して、時は2020年、 “コロナ禍” でライブ配信の世界は拡大しました。

ライブ配信人気がそもそも大きく上がりました。所謂「巣ごもり需要」と呼ばれるものだと思います。国民一人あたりの視聴時間は2倍になったとされています(註18)。この頃になると日本はゲームライブ配信の市場として世界5大国に入り、列強に位置するようになります(註19)。

また、人気ストリーマーのランキングが出回るようになり(註20)、「誰が人気なのか」が明確になるようになりました。今は SHAKA, 加藤純一, にじさんじ, ホロライブ(敬称略)と言えばとても人気があることが知られています。また、Apex Legends や VALORANT といったゲームが日本でも大人気であることは明らかでしょう。
この空気感はコロナ以降に湧いてきたものです。2019年ぐらいですと、市場の状況を話しても、

「とはいえタレントの〇〇さんのほうが人気あるんじゃない?」
「日本でFPSが流行ってるはずがなくない?」

といった懐疑的な反応がよくありました。これは広告代理店の方からは勿論、ゲーム会社の方からもこうした反応がありました。

時代は変わり、今ではゲーマーは好きなタイトルで、負い目を感じることなく発信することができます。視聴者とのファンベースを築き、一緒にゲームをすることもできます。収益があがることで機材を購入できますし、長く活動できます。

はじめは:

「他人のゲームプレイを見て何が楽しいの?」
「それってゲーム会社が認めてないでしょ」

と言われていた時代から、一緒に楽しめる仲間がこれほど増えたことは、私個人にとって本当に喜ばしいことです。ストリーマーの皆様の日々の活動であったり、仲介してゲーム会社・スポンサー企業と対話した事務所・チーム・マネージャーの皆さまの尽力や、乗って下さった企業の方々の心のおかげです。

改めて私から申し上げたいです。ストリーマーは悪い人たちではありません。「ただ数字を稼いで視聴されてるから好き勝手やってる〜」というわけではありません。以前はダメと言われていたゲーム実況をポジティブなものとして広め、理解して下さる同志を集めてきた熱心な旗手たちなんです。

これを以て、ストリーマーの歴史という本文の趣旨自体は完了です。歴史とともに、楽しい未来を求めて戦ってきた意志を感じていただければ幸いです。

私事

このたび私は Twitch を退職します。私の仕事は既存の日本の価値観を破壊するその一助となるものが多かったと思いますが、その結果として好きなことを自信を持って広める活動をできる人間が一人でも増えたのならば本望です。そして、破壊者としての私の役割は終わったのだと思います。現代は本当にゲーマーであり易い時代になったと感じます。

“代替メッセージ”
[よく Twitch のニュースがあったとき世界中で用いられるこの素材画像は東京ゲームショウ2018からです。 画像出典

私は今もゲーマーを重視しています。そして良い意味で「notゲーム会社」という存在としての「コミュニティ」を重視しています。これからもゲーマーが自信を持って表現できることを守れればと思っています。

それで言えば、競技的イベントやガチガチの esports と呼ばれるものは以前ほどの求心力を失ったと思っています。今はなんでもストリーマーや「視聴者数」で決済が通ってしまう時代ですが、私はそれは全てではないと思います。強さを求めるゲーマーも居るならば、競技シーンは力を持つべきだと思っています。この辺りの心情は嘗て記しました:

総合して、私はクリエイターも競技者も、なにかをしたい意志(= authenticity)を持った人がいらっしゃるならば全て応援したいです。

以上

今回は以上です。

本文ではライブ配信の転機については述べられたのですが、あまり具体的な事例を述べられませんでした。例えば Minecraft 勢の変遷や、League of Legends の影響。格ゲー勢・スマブラ勢・RTA勢・スプラトゥーン勢といった文化圏。PS4 や esports の影響。記しきれない様々な方との縁がありました。またどこかで触れられると幸いです。

私は authenticity を重視する者です。今後もこれを守れるよう動ければ良いなあと思っています。



  1. 記事:Washington Post, 2018, “Ninja takes Manhattan: Times Square stream puts Fortnite spin on New Year’s tradition” https://www.washingtonpost.com/sports/2018/12/28/ninja-takes-manhattan-times-square-stream-puts-fortnite-spin-new-years-tradition/  ↩︎

  2. 総務省, 2017,『数字で見たスマホの爆発的普及』 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc111110.html  ↩︎

  3. 記事:TechCrunch, 2007, “Justin.TV Teams Up With On2 And Opens Network” https://techcrunch.com/2007/10/02/justintv-teams-up-with-on2-and-opens-network-finally/  ↩︎

  4. ニコニコ大百科『ニコニコ生放送の歴史単語』 https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%8B%E3%82%B3%E7%94%9F%E6%94%BE%E9%80%81%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2  ↩︎

  5. 講演レポート:中田朋成, 2020,『「ほぼ違法」から「適時適法」の時代へ。ゲーム実況の過去・現在・未来を振り返る【CEDEC2020レポート】』 https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/200904k  ↩︎

  6. 余り証拠が残っていませんが、例えばこうしたものがあります:LINE News, 2018,「ジャニーズ、一部制限付きで写真をネット解禁 錦戸亮が第1号」 https://twitter.com/news_line_me/status/958821390131519488  ↩︎

  7. もともと上述 Justin.tv というサービスがあり、そこから esports 向けに特化したサイトとして Twitch は作られました。参考記事:The Next Web, 2011, “TwitchTV: Justin.tv’s killer new esports project” https://thenextweb.com/news/twitchtv-justin-tvs-killer-new-esports-project  ↩︎

  8. プレスリリース:2016,『「Shadowverse」を競技タイトルとしたe-Sports大会「RAGE」の開催概要が決定 ~10月22日・23日に予選大会、11月23日に賞金総額700万円をかけた決勝大会を開催~』 https://cyber-z.co.jp/news/pressreleases/2016/0920_3881.html  ↩︎

  9. 記事:2016,『東京ゲームショウ2016にTwitchが単独初出展!』 https://blog.twitch.tv/ja-jp/2016/09/08/dong-jing-gemusiyou2016ni-twitchga-dan-du-chu-chu-zhan-e9fb94eb1162/  ↩︎

  10. 厳密には PUBG というゲームの正式名は変遷していますが本文では便宜上 “PUBG” で統合しました。リリース日についてはこちら:Giant Bomb “PUBG: Battlegrounds” https://www.giantbomb.com/pubg-battlegrounds/3030-54979/  ↩︎

  11. Twitch パートナーというのは、一定以上の視聴者を持ち Twitch から認証されたストリーマーのことです。詳細は記事にもあります:日経クロストレンド, 2017,『過去最大のブースを構えたTwitch【TGS2017】』 https://xtrend.nikkei.com/atcl/trn/pickup/15/1003590/092101199/  ↩︎ ↩︎

  12. YouTube の機能追加履歴を追いかけるのは容易ではありません。ここでは Wikipedia に頼ります: https://ja.wikipedia.org/wiki/YouTube  ↩︎

  13. 中島信貴, 2013,『ビデオゲームの進化と開発側の課題』 https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej/67/1/67_5/_pdf/-char/ja  ↩︎

  14. 厳密には国内でも “モンスト”, “パズドラ” などのモバイルゲーム会社はゲーム実況向けガイドラインを出していました。が、依然出ていないタイトルも多く難しいところがありました。 ↩︎

  15. 日本の方がお互いのルール違反を指摘する強い傾向があることについては、業務上知り得たエビデンスがあるのですが、仕事の情報なので言えません。あしからず。 ↩︎

  16. 『ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン』 https://www.nintendo.co.jp/networkservice_guideline/ja/index.html  ↩︎

  17. 顔をトラッキングできる FaceRig は 2014年に登場しました。レッサーパンダの3Dモデルを用いてライブ配信している人は多くいらっしゃいました。 ↩︎

  18. 記事:日経クロストレンド, 2020, 『コロナ禍ではゲーム配信が急成長 1人当たりの視聴時間は約2倍に』 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00366/00001/  ↩︎

  19. 他国との比較では GSD Audience に公開データがあります: https://jp.gamesindustry.biz/article/2209/22093002/ ただ、これは2022年ですので更に状況は変わりました。 ↩︎

  20. 例えば配信技研のランキング https://www.giken.tv/news/apr20  ↩︎