Genesis5 旅日記の第1章。大会前日について。
序文
Takoman(司会)「さあて、紳士淑女の皆様、お集まり頂き、ありがとうございます。さてさて、今宵の物語は、世界規模のスマブラ総合大会:Genesis …の第5回に出場するために、アメリカの地へ遠征した日本勢のお話です。舞台は、大会の前日に旅の一行がサンフランシスコのホテルで朝を迎える所からスタートいたします。お読みの際は、ツイートをする為のスマホをご用意の上、ごゆっくりとお楽しみ下さい。」(退場)
[サンフランシスコの朝]
霧の街
ニューイヤー気分も終わった1月中旬のサンフランシスコは、柔らかな涼しさに包まれていた。石造りの雑居ビルが林立するこの港町は、朝よく薄い霧雲に覆われ、際立って高いビルは必ず頭の方がグレーのベールに隠れてしまう。毎年この時期になると筆者の故郷である東京はいつも、やれインフルエンザだ、やれ雪だで朝のニュース番組が大騒ぎとなるが、それとは対称的に森閑とも謂うべき黙の街並みがサンフランシスコの朝の相場である。この国は車文化が強いが、道路から騒音は響いてこない。4車線の一通道路が渋滞していて、車が遅々として進まないからである。
我々はBush Streetの坂道に面したホテルで目を覚ました。Takomanさん, Broodさん, そして筆者Ayuhaは先んじてアメリカに到着し、大会前日まではこの街で体を異国の空気に慣らしていた。入江の先端に位置するこの街は気温が年がら安定しており、この日も最高気温は15℃にのぼった。
前提を説明すると、スマブラ勢の海外遠征はトループ(2-4名の集団)毎に実行される。2017年、日本からの海外遠征は年に10を超える大会へ決行された。大会毎に10名ほどの師団が組まれ、LINEグループに集まり、その中で息の合うメンバーでトループに分かれ航空券を買い、飛行機でアメリカへ降り立ち、現地で全体が合流する。文字通り遠征・征戦と呼んで其の名に劣らぬ、ゲーマー達の旅である。
不思議なものだが、何故こうしてまで行くのかと訊かれると、特に理由はない。昔からこうなっているから、というだけである。最上位勢からそうでもないプレイヤーまで、グループを作って共に旅をする。
[今回の舞台:アメリカ、カリフォルニア州のサンフランシスコ そして オークランド]
即ち、ここには同じホテルに3名が居るが、後ほど10名以上の日本勢と合流する手筈になっている。ここは我ら3名の暫定的居留地サンフランシスコ。目的の大会は、湾を挟んだオークランドにて行われる。スマブラ64, DX, WiiU のプレイヤー達が日本から各々の手法を駆ってオークランドを目指し、そしてそれは他全世界のプレイヤーについても然りである。
今日は既に大会前日、木曜日。筆者は月曜から、残り2人は水曜からこの街に居た。ホテルの狭い窓から眺める朝雨が、手入れの雑な車道の軽塵を浥している。時差ボケでほの暗い朝に目覚めた3人は、遠征定番の Subway へ行き、朝餉を購入する。スマブラ勢のアメリカ食と謂えばSubwayである。相変わらずこちらのSubwayは店員とコミュニケーションを取りながら、具材を一つ一つ指定せねばならないため初心者には優しくない。
[坂を下る Takoman, Brood]
その後はスーツケースを曳きながら、Bush Street の坂を下り、ひとまずの目的地:Twitch 本社へ遊びに向かう。Twitch は筆者の務める会社な訳だが、これはオークランドのホテルへチェックインする指定時刻までの時間潰しである。目敏き読者ならば「いや、最初からオークランドで宿泊すれば良いのでは?」と勘付くのであるが、オークランドでのホテルの団体割引は木曜夜(今夜)からしか適応されないため、それならば折角なので今日まではサンフランシスコ観光にと隣接都市に滞在していた。
朝の行軍は惨めなものであった。坂道の舗装がもはやアンジュレーションを生じている、路面状態の良くない歩道が、スーツケースを跳ねさせた。磽确たる丘陵は、人工的に開発された都市の無機性を強調している。土地勘の無い我々は、自らの手で重い行李を持って進み、地元の都会人は颯爽と、我らを縫うように追い抜く。霧はいつの間にか雨を生じ、日本人は傘を挿していた。万里孤軍来るの感がつのる。
Twitch 本社
[Mew2King と日本勢]
[飲み物にはしゃぐ日本勢 : 左から Takoman, Brood]
傘を閉じてひとたびTwitch本社へ入れば、こちらのものである。暖房の効いた明るい建物が我らを迎え入れる。レンガむき出しの壁面と高めの天井は、典型的な西海岸企業建築であった。ここでは至る所に冷蔵庫があり、様々な飲み物を勝手に取ることが出来る。まずこれほどの飲み物バリエーションをアメリカで見ることは無い。
何故かプレイヤーの Mew2King も居るので、写真をパシャリと撮影。毎年プレイヤーとしての切り口を変えるMew2Kingはこの頃、スマブラDXに専念している。Echo Fox に所属する、蘊奥を極めた押しも押されぬ名匠である。
Twitch は誰もがイメージするようなシリコンバレー企業である。今は社員も1000人まで膨らんだが、依然としてエンジニアが7-8割である。最高のインフラを提供するために、最強のエンジニアを集めねばならないため、社内の娯楽設備には糸目をつけない。このオフィスは客人を迎えてゲームをすることが前提になっているため、PCゲーム用の房が全フロアに在り、そこでは PUBG も出来るしライブ配信も可能である。Twitch は会社をゲーマーが自分の手で創り上げたという矜持があり、その本拠地にも理想を造り上げる意志があった。
この日は私がミーティングに出席したり本社の人間と会話しつつも、放置していた Broodさん・Takomanさん の二人は独自にPUBGを堪能出来た。そして待ちに待ったお昼刻を迎える。
[ビュッフェ・ランチ]
時差ボケに苦しんだ者ならば想像に易いが、この昼食を待つ間隔が永遠の長さに感じる。その空白の淡白感さえ抜ければ、こちらのオフィスでは昼飯がケータリングで提供されるため、戸を一つ抜けることなく(アメリカにしては)美味いモノにありつける。人間のサイズや宗教の信条によって食べるものが全然異なるため、様々なメニューの中からビュッフェ形式となっている。ここもシリコンバレーではよくある光景である。
我ら先鋒組がのうのうと腹を満たした当たりで、LINE グループに入電があった。第2隊がサンフランシスコ空港に到着し、こちらに向かっているそうである。私はこのオフィスで第2隊を待ち受けた。
[左から Kimisan, Tamushika, Crow, Agehasama, Atsushi ]
無事第2部隊のUberは5名をここへ運んだ。Uber とは、スマホで民間ドライバーを呼べるアプリである。値段は地図で自動探索した距離に応じて事前払いとなる。もはや海外遠征では必須アプリであり、是ほどの技術にアクセス可能でいながらアメリカで海外勢に車の送迎をして貰っていては非文明人と貶められても文句は謂えない。遠征の旅人は、全て自分の手で事を済ますのだ。
ちなみに、この5名は結局昼食を空港で見つけられず終いだったため、オフィスに残されていたアジア風ヌードルを食べて事なきを得た。
[起立しているDX勢]
[混ざった日本勢の様子]
その後も続々とプレイヤーが日本から到着する。別トループであるスマブラDX勢も到着した。彼らは私ではなく、別の社員でスマブラDXを専らにする Nintendude の導きでここへ至ったそうだ。たまたま、WiiU組とDX組の意図が重なり、ここで相見えた。
日本勢が占領したこの部屋は、元来チーム用のPCゲームをするために、PC5台ずつを対面させてガラスで隔離した配置となっている。LoL や Dota を遊べるし、実際に遊ぶ。隅っこにコンソールゲームも遊べる台があるため、この日はDX勢がブラウン管でDXを対戦し、WiiU 勢はモニタを占領して対戦した。
Kimisan「日本勢に会えた時の安心感、マジでやばかった ―。」
アメリカの地で初めて安堵する瞬間は、日本人同士で対面した時である。空港に降りて急に視界には英語しか入らなくなるため、次第に昏い部屋に閉じ込められたような恐怖心に包まれるが、いざ日本勢の集団で相まみえるとその開放感は計り知れない。一時の団欒と共に、時間は過ぎて行く。
いざオークランドへ
15時過ぎ、移動の刻を告げる。
4名1組で上述 Uber を呼び、渋滞する路上で探索する。
[オフィス前の路上]
車は轔轔、渋滞のアイドリング合唱からは、路端には高くかすれたシボレーのエンジン音と、日本車の低い音が1:1で混じり合って届く。プリウスは音を出さない分ややアメ車の音が大きい。結局、我らが呼んだUberは逆車線にやって来た。車に信号機に車が足を頓した隙に、路上のまま駐車はせず無理矢理スーツケースをトランクに載せ、飛び乗った。ささやかに降る雨が、メガネを濡らして邪魔であった。
[車から見たサンフランシスコの景色]
運転手「Oakland行くの?Oakland??」
私が助手席でメガネをふきつつ、Uber のドライバーは発進する。Uberのドライバーは往々にしてなまりが強く、いつも何を言っているのか私の耳には明瞭でないため、なんとなく感覚で会話をする。道は渋滞しているので、車はじっくりとしか進まなかった。
[市を繋ぐゴールデンゲートブリッジの上]
上記地図にも有るが、サンフランシスコからオークランドへは観光名所:ゴールデンゲートブリッジを通過する。しかし生憎の雨で、海景色は全く雲霧の向こう側に隠されてしまった。ビルはおろか、海の水面すら視えることは無い。…海外遠征は、日本国内での遠征と異なる。我々はこの国では土地勘も国籍も無い。常に不安に閉塞されていた心を見透かすように、サンフランシスコ湾の空模様は白くベールで視界を閉ざしていた。
[右端に白いクレーン群が]
橋を越えると、曇り空の下にオークランドの街が視えてくる。直上の写真右端に白いクレーン群が写っているのがお分かりだろうか。港にそびえ立つ巨大なクレーンがオークランドの象徴だそうであり、Uberの運転手も「スターウォーズ:エピソード5に出てくるあのロボットはコレをモデルにしてるんだよHAHA」と言っていた。AT-AT のことだろうか。多分そうであろう。
クレーンが象徴であることからも推察出来るように、オークランドは港町である。「桑港」と書いて「サンフランシスコ」と読むのであるが、この湾で実際にコンテナを積んだり降ろしたりするのはオークランド港である。この港町が、アメリカのみならず世界に名高いブラックマーケットの根源である。ネットで検索すると浮かんでくる数々のNAVERまとめが、悉くオークランドの治安を讒謗していた。
「オークランド行くの?! 絶対外を出歩いちゃ駄目!」
Twitch本社でアドバイスされたこの一言が、我々の旅に影を落とした。
Marriotホテル
Uber は我々をホテルのロータリーに降ろした。Marriot Hotel Oakland(マリオット・ホテル・オークランド)。オークランド市内でも Uptown区に位置する。
[ホテルの受付にて:Daub, Fatality, Locus, Crow, Takoman]
そのまま日本勢一団はホテルのチェックインへと進んだ。チェックインを終えて鍵を受け取り、部屋に入った当たりでなぜかクレジットカードに$800の請求が3度も来たので流石に恐怖に慄き、受付に問い詰めたが、「Ah〜ミスっただけだよ〜」と言っていた。無事請求されずに済んだ。
海外遠征についてよくある質問だが「クレジットカードは要りますか?」については、持っておいた方が比較的良い。今日登場したUberとホテル支払いはクレジットカードが必須である。ただ、海外遠征はトループごとに行動するため、1トループで一人持っていればなんとかなる。ただその味方とはぐれた場合は、察し。
[ホテルルーム。ここにも壁にクレーンのモチーフが。]
私は Broodさん, Takomanさん そして関西勢の Crowさんと同室であった。ツインダブルベッドのホテル部屋に4人で泊まるのは海外遠征のならわしである。(元来スマブラ勢は、日本に居る間日頃から誰かの家に集まって泊まり込みで練習をするため、共に寝泊まりすることに抵抗は少ない。)荷解きをしたら、電源タップを挿して貴重なコンセントを拡充する。3日間の大会に備え、根城の準備を進めていく。
[準備中の大会会場]
一段落すると、四辺を散策し始める。私は今回、Takomanさんと巡った。大会当日になる前に、場所の確認は欠かせない。大抵の場合、アメリカでの大会はホテルと会場が一体となっている。アメリカの市には幾つかConvention Center(イベント会場)が在り、それに隣接または併設してホテルが在るのだ。イベントを開くことが前提となった市設計になっていることがうかがえる。
この日は大会前日。広いConvention Centerには机・椅子そしてゲームのためのセッティングが大体完了していたが、人はほぼ不在であった。皆まだホテルの自室でまったりしていたり、ご飯を食べていたりシャワーをしていたりする。アメリカ人は事ある毎にシャワーをする。(日本人の感性だと理解できないのだが、ミーティングに既に遅刻していても「今からシャワーが優先だ」と言い張ったりする。)
[EE, PB&J, ANTi, ?, TheMoon]
殆どのプレイヤーがこのホテルに宿泊しているため、場所確認のために散策していると、プレイヤーに遭遇する。ホテル2階のレストランではEEやANTiの一行が居た。
隙を見て買い物に出る。幸運にもホテルの向かいにスーパーがあった。これは食料の確保である。自分の手で自分を管理出来なければ、トーナメントでは勝てない。アメリカには日本ほどのコンビニは無い。夜も開いている手軽なご飯;吉野家やラーメンも無いため、朝食や間食のためには自力で兵糧を確保すべきである。毎度遠征時にはこうしてスーパーで食料を確保するのだが、このスーパーはあまり大会に適したものが置いていなかった。バナナも何故か売り切れていたため、パン・水・チョコを確保して去った。(水は500mlくらいのペットボトルを束で買うと、大会中は使うに易い。)
ここにもオークランドの片鱗が見え、スーパーの警備員が、ハンドガンを腰に武装していたのは印象的だった。
買い物後、大会エントリー列に並んだ。この日最後のタスクである。Takomanさんと共に、なんと30分前に列に並んだため、かなり短時間で受付を済ますことが出来た。そうでないと何百人〜千人という列を待たないといけないため、今年は得を出来た気分である。
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こうして、時差ボケに負けて私はここで就寝へ。まだ22時くらいであり、日本に居たら信じられないような時刻であるが、大会を寝坊するようりは遥かにマシである。時差ボケも遠征時には味方をしてくれることがある。おやすみ、また明日。