恋心は超グリーディ

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Feb 25, 2019 -

Genesis6 旅日記 出師表

Genesis6 旅日記。この「出師表」は前口上である。つまりこちらは大会に遠征する “前” に書いたものである。

(ブログの日付がGenesis後になっているが、これは並び順を意識した恣意的な作りなので、ご容赦頂きたい。)

…対戦アクションゲーム、通称『スマブラ』シリーズの恒例大会 “Genesis”。ごく最近、Nintendo Switch にて最新版『スマブラSP』が発売された。

Genesis はアメリカで開催される、例年世界最大級となるスマブラメインでの大会であり、イベントである。昨今は日本からも注目度が自ずと高く、様々なメディアからこの Genesis を説明する紹介が出ている。ただ、客観的で公平であり、網羅的な内容が多いため( うじこ氏blog , WellPlayed Journal , スマブラハウス 動画 )、私は主観にまみれた立ち位置から、この特別な大会 “Genesis” を説明したい。

スマブラの世界大会を感情的に味わいたく、短く(9分で)その文脈的背景を身につけたい、という方のための内容となる。殊に最新作『スマブラSP』のシーンを意識している。改めて申し上げるが、こちらは旅日記全体の前口上であり、遠征前に記している。私はこの文を、師であり旅に同行する Takoman 氏に捧げたい。

“代替メッセージ”
[ Genesis6 Smash.gg より ]

1. 楽園

その昔、「スマブラ勢」は小さな民族であった。その中でも 64版・GameCube版・そして “最新版” を遊ぶ、3種の血族が居た。家庭用ゲームなので、発売ハードに依って名前・バージョンが異なる訳である。よくある3つの通称は 64・DX・<任意の最新作名> なのだが今日は大目に見て欲しい。また、厳密には「スマブラ勢」が競技しか行わない訳ではないのだが、そこは旅日記の途中で語るとしよう。此の度は出師表である。

“Apex” は楽園であった。
往時2010年、スマブラ世界最大の「大会」にして唯一の国際大会と言って良いこの “Apex” は、すべてのスマブラ競技人種が集まる、全種目併せて400名規模の大会であった。会場はアメリカ東海岸:ニュージャージー州の大学ホールである。

南北アメリカ・欧州・豪州 等から数多くのプレイヤーが集まり、競技・観戦を問わず様々な人間が揃う。オープントーナメント形式だが、この時期は参加者全員が「アマチュア」プレイヤーであると形容しておきたい。大会の形や会場の猥雑な喧騒は、年を経るにつれ非常に FGC(格ゲーシーン)に近い生態系で醸成されつつあった。
そして日本勢も、Apex事実上の初回である Apex2010 以降、毎回遠征していた。この頃から「遠征の民」日本勢の系譜が生まれた。今の血に繋がる日本遠征勢の祖は Rain 選手である。

“代替メッセージ”
[“楽園”であった Apex2012 会場。Apex2010 も同じ会場だが、写真はこの頃から残っている。先頭列中央は当時のZeRo。 Robert Paul より全写真はこちら ]

そしてある日『スマブラWiiU』が発売の産声をあげ、2015年1月。WiiU版初となる大規模大会 : “Apex2015” が迫った。「最新作の民」はにわかに活気付き、WiiU のみで1200名がエントリーした。シーンは爆発的に成長していた。

2. 崩壊

豪雪のニューヨークの地に、Apex2015 は唐突に沈んだ。雪が会場の天井を文字通り崩落させたのである。このとき、急遽別会場にて臨時の Apex2015 は開催されたものの、当時の大会運営委員会は解けた。翌年同時期に次回の Apex 開催は困難となり事実上の休催を告げる。紅いロゴの権威ある楽園と思われた “Apex” は、天への塔として民の前で崩れた。

“代替メッセージ”
[Apex2015の会場には、消防および警察が駆けつけた。 Robert Paul より全写真はこちら ]

離散したスマブラの民萌は、皆が権威ある世界大会の復活を望んだ。その時、民の声に応えて、眠りについていた神話: “Genesis” の大会ブランドが、蘇生した。

「蘇生」が正しい。Genesis は既に2度開催されていたが、その後眠っていた。この地位を得るために眠っていたのではないかと疑うほど、蘇生から覚めた Genesis はなめらかに栄光と名声を恣にした。Genesis は新たな楽園となったのである。

3. 王者

2016年1月以降、毎年 Genesis は開催されている。場所は Norcal(北カリフォルニア)である。

スマブラシーンは肥大化し、いまや様々な大規模大会が世界各地で開催されている。そんな中でも、Genesis を優勝する者は「王」として格別な印象を残す。Apex の血を継いだ威厳と、年始という時期柄が、大会を特別たらしめていた。

“代替メッセージ”
[Genesis3 より。最後の舞台はオペラハウスで行われる。最終日を別会場でチケット購入制に、というしきたりはスマブラではGenesisから導入された。 Robert Paul より全写真はこちら ]

WiiU以降最新版の系列で、1度の Apex と 3度の Genesis。ここを優勝したプレイヤーは2名しかいない。ZeRo と MkLeo である。 “絶対王者” ZeRoは、完結した神話を残し引退した。一方、今も現役である少年 MkLeo は “若年王” でありながら、日本にとってまこと厄災である。アメリカでの活躍に留まらず、日本に遠征しては必ず優勝した。これがメキシコにて2001年生まれというから、後生畏るべし。

“代替メッセージ”
[Genesis4 より。MkLeo(右)は当時Cloud9所属のAlly(左)を下し優勝を飾った。当時16歳にしてこの1ヶ月前、初めてアメリカ合衆国の地を踏み、初めてのGenesis参加。 Robert Paul より全写真はこちら ]

絶対王者も若年王も、曇りのないプロゲーマーである。この頃まで及ぶと、北米ではプロ化は必然の流れだった。TSM, CLG, NRG, EchoFox, Immortals, TeamLiquid 等、各界の覇者たる esports チームが続々とスマブラ選手を抱え、毎週のように行われるスマブラ大会は戦乱の様相を呈した。過酷な過程の末に、入院・手術に至るプレイヤーも現れ、オフシーズンの必要性がプロ選手側から叫ばれた。

ここで一つ注釈を入れたい。スマブラで「競技」とは如何?と思う方もいるであろう。実にその通りである。大まかに述べると、大会を開くのはコミュニティ団体もしくは其れから派生したスタートアップ企業。対戦用のゲーム内ルールはコミュニティの合議で定める。大会の本場はアメリカであり、それ故にプレイヤーや大会は営利的であった。大会は乱立するが、自然と際立つ大会が現れ、Nintendo of America に公認を受ける大会もあった。Genesis が例年それである。日本勢も、この北米の競技を目指し、模倣した。

そしてあの雪の崩落から4年。新たなスマブラ最新作『スマブラSP』が発売された。今年は Genesis6 である。新作発売は、玉座が空位であることを告げる。今 “若年王” であったMkLeo を含め、全世界のスマブラーが王冠を求めにアメリカに集結する。これは日本勢も例外ではなかった。スマブラSPのみで2000名以上がエントリーし、スマブラ単体の大会としては新記録を刻んだ。

4. 罪深き日本の民

日本の系譜を別途見ていきたい。

その昔 2012年1月。極寒のニュージャージー州にて、Apex2012 は開催された。日本勢は当時の最新作(通称『スマブラX』)にて、玉座を簒奪した。

それ以降、日本は最新作の歴史上、二度と「王」に輝くことはなかった。優勝の味は禁断の果実。禁を破った日本勢は楽園を堕ち、ひたすらに苦しんだ。

“代替メッセージ”
[Apex2012より。“簒奪” を能く象徴する一枚。日本勢OCEAN選手が、優勝候補筆頭のアメリカ勢Mew2King選手を下した様子。実はこちらはまだ本戦の勝者側2回戦だが、この後日本勢はTop8に3名が残る。写真右下 Otori 選手が優勝した。 Robert Paul より全写真はこちら ]

確かに、WiiUの時代、文句なしの大規模大会を制した日本勢は2名居るのだが、日本勢は Apex, Genesis, および誰もが音に聞く夏の祭典 “Evo” を制していない。

2012年の “簒奪” の後、日本のスマブラシーンも大きく成長した。当時は大きくとも80名規模であった大会参加者も、今は800名にのぼる程だ。人数的にも・技術的にも様々な変化が見られた。しかし、Apex2012 にて身に余る栄冠を享受した日本勢は、運命の裁きに遭い、誰も王座につけない呪いをかけられていた。Top8までは、準優勝までは漕ぎ着けるが、優勝だけがなかった。私は日本プレイヤーの実力を・努力を疑っている訳ではない。寧ろ日本勢の努力は弛まず、優勝に相応なスキルを持ち合わせていたが故に、この結果は呪い・裁きとしか云いようがない。

“代替メッセージ”
[Umebura FINAL for WiiU より、会場の様子。日本のシーンは大きく成長し、池袋サンシャイン展示ホールで開催するまでに至った。 darimoko より全写真はこちら ]

我々は知っている。アメリカのスマブラ勢は Apex で塔を築き楽園を得ようとした。その塔は崩れたが、努力あってシーンを再構築し、新たな楽園 Genesis を己が手で創造した。だから、呪いをかけられた日本勢も、自国で築いたシーンが十分に大きくなり、日本スマブラ勢全体として優勝に相応しい贖罪を積んだ日に、Genesis 優勝の栄冠は日本勢に与えられるのである。ちなみに筆者は “簒奪” のApex2012を拝見し、オフ大会へ行くようになった現スタッフである。

日本スマブラ最新作勢が開催するイベントは、ローカル大会でも宅オフでの交流でも、全て日本シーン構築の大河を共に流れている。私は呪いが解ける刻を、大会運営をしながら今か今かと待ち、何年という月日が流れた。

5. 王座を狙う世界の戦士たち

祭典 “Evo” にスマブラがあると雖も、Genesis を制することだけが王者の証明に相応しい。

異朝をとぶらえば、“若年王” MkLeo は確かに強く、安定感がある。既にフロリダでの大規模大会(Smash Conference United)では優勝を果たしていた。しかし直近の大規模大会(Glitch6)では、MkLeo を抑えて Tweek, Nairo, Light の3名が表彰台に名を連ねている。

“代替メッセージ”
[“Evo2017” にて、Nairo(左) vs Tweek(右)。上背があり情熱的なNairoと、冷艶なTweekは対称的だが、実は東海岸の同郷。現在の所属は NRG と TSM。 Evoチャンネルより ]

対する日本勢は、錚々たる士が面々を見せた。此度のGenesis遠征は特に、各立場の象徴が揃い踏みである。
伝統の強豪 Nietono, Abadango, Shogun 。彼らは Apex を目で見て知る生き残りであり、昨今のシーン興隆に大きく貢献してきたプレイヤーである。WiiUで登場した Zackray は若き新星であり、現在日本最強と名高い。Shuton は長くオリマーを使い世界の第一線で活躍してきた点もさることながら、九州の象徴である点が特徴である。シーンを支える運営の者としては、大会『ウメブラ』主催 Umeki、そして遠征の祖 Rain も出場する。全て優勝の可能性がある。

“代替メッセージ”

欧州の Mr.R, Glutonny、カナダの Ally も忘れてはならない。多くのプレイヤー同士が相まみえた経験がなく、最新版発売直後の Genesis は予想不能の体である。

こうした全ての歴史・想いを抱え、ふくれて熟れた Genesis の果実が、落ちてはじけるところを、今か今かとプレイヤーは待っている。

6. 以上

云うに憚られる内容であったから、こうして述べるのは初めてである。しかし私にとってどうしても Genesis という大会は、恋慕のような思い入れがあった。

勿論この Genesis は『スマブラSP』最後の大会ではない。Genesis で上位を取ったプレイヤーには、広く高名なイベント Beyond the Summit(アナウンス記事) への招待が予定されている。日本でも、アメリカでも他諸国でも大会は続く。また、『スマブラDX』『スマブラ64』ほか全てのGenesis採用種目についても、各々のストーリーがあり、狙う目標があることを憶えておいて頂きたい。

■第1章へ進む

最後に、恣意的に都合の良い事実をピックアップして、大会 Genesis を神格化するために用いてしまったことは断っておく。客観的な経過については、以下の参考文献をご覧いただきたい。

遠征の系譜についても、Apex 時代よりも前の血族が存在したが、一度途絶えてしまった。歴史についてはこちらの ライター中西・石元 によるインタビューに詳しい。

Apex2010 の当時の日本勢の映像は現存する。 Suinoko 氏によるこちらの映像 をご覧あれ。

(大会後:追記)そして、今回日本からの遠征者は他にも存在する。我が師 Takoman をはじめ、Abu, CaptainJack のご両名、Sanne, Natsu, Prince といったスマブラDX勢・スマブラ64勢が本職で出場する傍らスマブラSPへ出場する者も居る。

Genesis6 旅日記 G6 第1章 オークランドの旅情

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