最近、スマブラSPのオフライン大会『篝火15』(註1)が実施されました。今大会は規模が大きかったこともあり、ゲームタイトルをまたいで話題になりました。しかし、その内訳はあまり検討されません。

[
さきょうさんの写真
。今回の篝火15 Top8 での壇上演出。]
導入
2026年現在、他タイトルを主戦場にされる方々がスマブラの大会をご覧になったときにポジティブな意見を出してくださることが多いです。特に『篝火15』は非公式大会であり、且つ非企業イベントであるため(註2):
- 「非公式イベントでここまでやるのは凄い」
- 「界隈の熱量がすごい」
- 「コミュニティ力があるから」
といった意見が挙がります。私はスマブラ勢出身であり、仕事で他タイトルとも接することが多い人間ですので、これは夢が叶ったような喜ばしい状態です。しかしながら、そこで会話や探索が止まってしまうとお見受けしています。ここで思考の歩みを止めてしまうのは勿体ないと感じています。
本文はこの所謂「スマブラ勢のコミュニティ力」の正体について、主に他タイトルの方々に向けて再現性のある内訳を申し上げられればと思います。
例えば、『篝火15』でのステージ建設や装飾については確かにスマブラ勢から見ると凄いことなのですが、むしろ公式大会が盛んな他タイトルでは既に現場に導入されていることも多いです。極論、各タイトルにいる富豪が大会を実行すれば、こうしたステージ建設やインフラの整備は再現可能なものです。(それこそ北米ではLudwigなど、富豪インフルエンサーがイベントを開く風潮があります。)それでも出来ない要素を「コミュニティ力」と捉えて、今回説明申し上げます。
ごまもちさんのブログ に現地の設営の流れが記録されていますし、とても情報量の多い有益なものですが、これらはコミュニティ力というよりイベント運営一般の力なので、含めません。また、順当な準備についても主催陣の事前インタビューをご覧いただいたほうが分かり易いです:
本文は少し異なり、「コミュニティ力」と言われる部分だけを分解して物質的に紹介します。

[
錠剤さんの写真
。実際のトーナメント中の試合が行われている様子。各選手はルールに則ってイヤホン類を使用しています。手前の椅子にはトーナメント表が放置され、奥にはアカキクスさんの幟がチラッと見えます。こういった各自の無秩序を形成しているのがコミュニティ力のはずです。]
特に私が篝火スタッフではないため、あまり遠慮せず申し上げられるところを表現しようと思います。語調が強めになりますがご容赦ください。
コミュニティ力の内訳 A.
まず第一に、「コミュニティ力」と呼ばれる抽象的なものの実態はだいたい「ゲームタイトル内GDP」であると考えており、このたびこれを提案します。
「タイトル内GDP」というのは、だいぶ粗い定義ですが、そのゲームタイトルの界隈内でどれだけお金を払ったかです。そのゲームタイトルをプレイする現役プレイヤーの財布から出たお金が大会運営に入り、何かに消費されて、物品や経験として界隈に残ったかどうかを意味しています。
一般的にコミュニティを見るとき、一見その集客や歓声に目が行きがちです。しかしそれは結果として現れた表層に過ぎず、では何がその歓声に至るのかと言えば、経験の蓄積だと思われます。界隈の人間が経験を蓄積するには再現性が必要で、こうした部分でやはりお金がどれだけ定期的に界隈の中で動いているかを説明します。
本文ではコミュニティ・界隈を「そのタイトルをプレイしているプレイヤーの集まり」くらいの意味で用いています。ゲーム会社やスポンサー・運営企業ではないという意味です。細かい定義については過去のブログをご覧ください:
A-1. 備品管理
まず大会は開催できなければいけません。それには設備が必要です。『篝火』を実現した兵站の部分こそがスマブラ勢の「コミュニティ力」の一歩目です。
今回の『篝火』ではモニターが400台以上動員され、試合台はその全てにスピーカーが設置されています。これらの備品は全て界隈から集められています。今回備品を実現する流れは寝椅子さんから発表されていました。

[寝椅子さんの写真。400枚のモニターが並んだ様子。]
関東圏にある複数のスマブラ大会:ウメブラ・西武撃・クロブラ・船スマ・Beeスマ・下剋上・彩 など、しめて7大会からモニターが動員されました。
仮に業者からレンタルした場合、その費用はざっと500万円ほどと見積もられます。しかし、そもそも400台を所持している業者がいないため、レンタルの場合そもそも実現できるのか?も問題になります。(註3)
これらのモニターを維持するために、モニター購入代とは別で、おそらく年間で倉庫代金が200万円以上かかっています。もし日本にスマブラの大会が『篝火』しかなかった場合、運営費用に毎年200万円が上乗せされ、負担が増加します。これは現実的ではありません。界隈に幾つものオフライン大会があることが大型大会を実現させています。(註4)
この費用:モニター購入代と倉庫代は普段それぞれの大会が負担し、日頃のプレイヤーのエントリー料から捻出しています。これはほぼ定義通り「タイトル内GDP」です。界隈の人間がお金を払い、物品に代わっています。
例えば、角が立たないようコミュニティとは対極にある公式大会を例に挙げますが、「CAPCOM Pro Tour 2026 World Warrior」の場合は、まずエントリー料が無料です。コミュニティ内でのお金のやり取りはありません。ゲーム会社という外貨がその運営予算を払いますが、その予算は業者に渡り、界隈の手元にはあまり残りません。確かに格闘ゲームに紐づいた業者もあるのですが、全業者がそうとは限りません。GDPに貢献する比率は低いです。これが本文で言うタイトル内GDPの考え方です。
それでは、設備を保持するために多くの大会が林立するためには何が必要でしょう?現代日本では、ゲーム会社からの大会ガイドラインが在ることが重要だと思います。最近だと国内ゲーム会社からも大会ガイドラインを出す流れがありますので、これは多くのタイトルにとって乗っかるべき追い風だと考えます。もしPvPタイトルを出しているゲーム会社の方が、コミュニティの自主性みたいなものを求めている場合、ご一考ください。
補足
話が一歩逸れますが、今回は「受付アプリ」というものの改良版が実戦投入されました。2800名の選手エントリーを時間内にさばくために、大会スタッフがスマホに入れて活用したアプリです。今回その力が発揮されたとうかがっています。その経緯についてはみずようかんさんのブログにまとまっています:

[
ろぜさんの写真
。受付アプリが使われている様子]
しかし、このアプリは『篝火15』でデビューしたわけではなく、直前にあった大会:スマパ・DELTA×西武撃 Open・Gen4.0で既にテストされていました。こうした大会が多く存在しているから、モノを安定して可能にする要素がスマブラ勢にはあります。
A-2. KPI設定
大会について語るとき、一般的にはKPIとして最大同時視聴者数やアーカイブの再生回数が見られます。しかし、おそらくスマブラの大会運営陣は視聴者数を見ていません。ほとんどは会計の収支とのにらめっこです。
例えば現代の公式大会は、ユーザーがゲームに消費したお金から大会予算を捻出し、その中からインフルエンサーにウォッチパーティーをお願いする構造になりがちです。これはKPIにメディア露出が設けられているからです。もし拡散効果を最重要視するならばこの作戦は正しいでしょう。
ただ、中には個人主催の非公式大会であってもこうした作戦をとることがあります。コミュニティの観点からすると、これは現金の流出です。出場者からいただいたエントリー料を、コミュニティ外のインフルエンサーに流出させています。タイトル内GDPは減少します。
その分のお金を大会運営内で使うならば、名札をプラスチックにしたり・幟を発注したり・アプリを開発したりできます。これも業者への外注となりますが、仕事・作業・実務がある分はスタッフが経験を積めます。大会が消費した金額はコミュニティの経験量とも言えるでしょう。

[篝火15での
Tokiさんのブース
から。スマブラ勢が2025年にオフライン大会関連で消費した経済規模が3億円くらいという試算。]
よくスマブラ勢は「コミュニティであって企業よりは規模が小さい」と言われます。しかし、おそらくタイトル内GDPは相当大きいです。上画像のTokiさんの試算では、年間の大会エントリー料だけで8000万円ほどがあり、これが全て界隈向けに使用されます。一部は機材という資産として界隈に残ります。
例えばどこかのタイトルのプロリーグが仮に年間予算3億円あったとして、その多くは制作会社の運営費や選手への支払い・賞金などへ使用されます。制作会社に入ったお金は基本的にその界隈に戻って来ることはほぼなく、賞金や給料も全てが界隈に還元される訳ではありません。(プロゲーマーへの給料は家賃などになりますが、モニター購入など界隈向けの消費にはなりにくいということです。)
スマブラに限って言えば、企業スポンサーをつけて予算を増やすことは現実的じゃないです。コンプライアンス的な理由もありますが、大会開催頻度が高くて交渉している場合じゃないという点もあります。多くの大会予算は10万~100万円の範囲内で、1000人規模になると500万円前後、篝火15で3000万円くらいの規模です。これはエントリー料から逆算できます。赤字をスポンサーで補填するのは難しいため、この中で全てをやりくりします。そうなったとき、現環境でインフルエンサーやキャスターに依頼をすることよりも、大会会場でのエクスペリエンスを高める方にお金が使われる判断にはなりがちです。
スマブラ勢は界隈的に大会の再生数にKPIを置いておらず、暗黙のうちに各々の大会運営が「収支が大丈夫かどうか?」だけ考えているところから実現していると考えられます。収支が大丈夫ならば次回開催が可能になるため、ここは死活問題です。
次回開いても同じような大会が出来るところが、コミュニティ大会の長所です。再現性と呼べます。これはほぼ大会の予算・消費が内需でできているかだと考えられます。企業イベントはこうはいきません。ゲーム会社が主催する公式大会は来年も同じプロモーション予算があるかどうか次第ですし、第三者企業が主催するものはスポンサーがつくかどうかにかかっています。
再現性があるから、現役プレイヤーが来る次回にそなえて頑張れます。ここがタイトル内GDPが大きいことのメリットです。
A-3. 役割分担
スマブラ勢は伝統的に、大会運営とライブ配信運営が別団体です。そのおかげで複数の配信台があり、多くの試合が世に映されます(註5)。今回の『篝火』でもEGS・VGBC・無明遊者・ぷらずま等の配信台が用意されました。
よく「篝火はEGSが主催している」という間違った文言があるのですが、これは明確に違います。スマパ・ウメブラ・スマ納めといった他の大会があり、それらをEGS・VGBCといった組織が大会を横断してライブ配信・動画化しています。一方で西武撃・スマ王といった大会を無明遊者が実施しています。大会運営とライブ配信運営が役割分担されている形です。

[
さきょうさんの写真
。無明遊者のみなさんが出張で路上配信をしている様子。]
このシステムには様々なメリットがあります。最も大きい側面は、大会の予算は大会に・ライブ配信の予算はライブ配信に投入されて来たという点です。大会のエクスペリエンスは来場者のためであり、ライブ配信は在宅の視聴者のためなので、予算がそこを交差してしまうのは変だと私は申しています。イベントでは現場の参加者からエントリー料・観戦料をとって、配信機材に充ててしまうのは参加者にとっては損な話です。
こうした役割分担方式のほうがタイトル内GDPが大きくなると考えています。この裏付けには古典的な理論ですが、アダム・スミスの分業利益やデュルケムの有機的連帯といったものがあります。人間の環境は単純な状態ならば役割が分担されている方がGDPが上がるという理論です。
この大会運営・ライブ配信別業システムを実現するには、根本的にはゲーム会社さんから「ライブ配信・動画投稿ガイドライン」が必要です。また、大会数が多くないとこのシステムは実現できません。
ちなみに写真撮影している方々も厳密には別業部隊です。カメラについては後述します。
A-4 地域性
実態として、企業主催・公式大会を含めれば、多くのゲームタイトルは東京近郊で『篝火』よりも大きな大会をやっています。そのため、コミュニティ力と呼ばれるものは大きな大会そのものではなく、そのどこか外にあります。
関東の外はどうでしょう?そこでも各地eスポーツ協会が開く大規模イベントがあり、スマブラ勢が特に秀でているわけではないです。
比較するとスマブラ勢で挙げられる特徴は、各地で「個人」が大会を開いていることです。これを可能にしているのは驚異的な自腹で大会を開かなくて良いところです。スマブラの非公式大会はかなり準備が軽く、この前提と1000~2000円くらいの参加費のバランスが丁度良いです。
各地に多くの大会があると、年間30万円くらい消費する大会が40県くらいであるということであり、1000万円くらいのタイトル内GDPが発生します。この金額がそのまま各地のスタッフの経験として蓄積され、「自分がコミュニティに関わっている」という実感を持つ者が萌芽します。
副次的な効能ですが、各地の大会にスタッフがいると、安易に運営を叩く視聴者が出にくくなります。スマブラでは2025年にオフライン大会に出場した人数が4万人、ユニークで1万人と言われますが、大会スタッフは500人ほど界隈に潜伏しており、かなり多くのプレイヤーが大会スタッフとの何かしらの繋がりがあります。
ただ、単に大会の数が多くあることがすかさずコミュニティ力に繋がるわけではありません。例えば全国津々浦々で企業が大会を開いているゲームタイトルは幾つもあります。そういったタイトルはプレイヤーが同じタイトルを遊び、同じランクマに参加し、一つの輪で繋がっているはずです。それでもそれは必ずしも「コミュニティ力」として語られません。おそらくですが、複数の大会を繋いで一つの物語にする要素がなければそれをコミュニティと呼びません。私の用語だと「フィクションを形成する」という言い方をしています。(註6)
スマブラ勢では、こうした各地に偏在する大会を一つの物語に繋げている要素があるから一つのコミュニティと呼ばれているはずです。色々ありますが、それに最も貢献しているのは「シード」です。

[篝火15のシードを、海外の有志:
Whist
がまとめたもの。]
スマブラでは
JJPR
を筆頭に、「この大会に出場すると幾らポイントが入る」といった指標が公開されています。この指標が他の大会に出場するときのシード順に関係しています。シードが高いと大会でも高順位でフィニッシュしやすく、出るだけ得があります。
スマブラ勢の間では「東京は大会が少ない」とツッコまれることもあります。実際東京は会場を抑えることが困難で、週末に大会を開催する数自体は少なめです(註7)。するとシードを上げる実利を得るために、東京のプレイヤーがみんなで大阪や福岡の大会に行くことになります。まあ実態は楽しくて遠征するのですが、それに「シード上げるため」という大義名分がついて来ます。
こうしたシードやランキングは、元来バラバラである大会を一つの物語で連結させます。別の大会での結果が次の大会に繋がり、さらに先に開催される大会のために日々研鑽します。
コミュニティ力の内訳 B.
ここまで「コミュニティ力」の内訳として、タイトル内GDPの説明をしました。金銭的で物質的であるため、再現できるところも多いと思います。
ただ、お金で説明できない要素もある程度残っています。後半ではお金で説明できないコミュニティ力の説明をしますが、こちらも「広義のタイトル内GDP」であると考えていただいて大丈夫です。客観的にお金には換算できないものの、その界隈の中に蓄積されるものという意味では似ているからです。
B-1. 参加意識
『篝火15』での2800名ダブルエリミネーションを消化するのは、コマンドセンターで進行をしている部隊のスキルが高いと言うほかありません。事前準備の動きも含めて、これについてはただ良いと言うばかりです。
あまり注目されない側面は、各プール(予選)の進行が何とかなっている点です。完璧とは言わないまでも、高い精度で回っています。しかしスマブラの大会は企業開催ではないため、どこへ行っても業者が予選を進行することはありません。それどころか予選にはスタッフも近傍に待機していません。
この背景に、スマブラでは予選で第一シード選手が進行をする風習が挙げられます。これは非常に理にかなっています。出場する他の大多数の選手からしたら「第一シードの選手」は憧れのスーパースターであり、常に積極的に発現に耳を傾けます。第一シードの選手ご本人も最もダブルエリミネーションを経験した有識者であり、一番進行に適しています。また、第一シードにとっても予選を突破するのが本人である可能性は非常に高く、予選が終わったあとこの結果を確実に進行部隊に提出しに行く役割を負うのはメリットがあります。(註8)

[
iRoseさん
の一枚。第一シードの選手が、だいたいこんな感じで椅子にトーナメント表を置いて進行します。]
これも広義の意味でGDPです。現役プレイヤーが予選進行を経験すると、界隈に大会を進行する知見が蓄積されるからです。進行を別タイトルから来た人材やボランティアもしくは何かしらの業者に発注すると、そのタイトル内に経験は蓄積されません。たしかに企業の論理・責任としてはお金を払った参加者に進行をさせるのはおかしいことで、業者に発注すべきです。しかしタイトル内に蓄積される要素を考えると、誰かしらの現役プレイヤーにやって貰うメリットがあります。
更に、プレイヤーに進行していただくと、押し付けがましい理論で恐縮ですが、大会に参加している意識を持っていただけます。現代の大会はどうしてもトッププレイヤーはゲストとしてもてなす風習がありますが、それは仕事の論理なのであって趣味の論理ではありません。
ただし、このシステムを実現するには条件があります。シード付けが必要です。2800人のダブルエリミネーションを実施するには180ほどの予選ブロックが発生し、その全てにシード選手が居る必要があります。シードをつけるためには、上述の通り全国各地で一定頻度の大会が実施される必要があります。こうした実態が有機的に繋がっています。
ここまでの流れを安直に帰結させると、大会数が多くなければ大規模大会の進行は上手く行かないということになります。
企業主催の大会で、プールでの点呼問題やトーナメント表の正誤問題は難しいところです。思考実験をしても、お金を払ったからといって有能な進行人材が現れるわけではありません。ゲーム会社や広告代理店さんの社員さんがダブルエリミネーションに精通しているわけではないからです。
また、企業としてはトーナメントが正確に進行することに、全くメリットは無いのです。誰が勝ち上がろうと誰が失格になろうと、スポンサーから入ってくる金額は変わりません。ならば企業側がそこに予算や育成リソースを割く動機もありません。大会が正確に進行すると嬉しいという部分はいわゆる「内的な価値」であり、プレイヤーにしかメリットはありません。私の視点では、現役プレイヤーが何かしらの力で解決するほか無いと感じています。
補足
「現役プレイヤーが予選の進行をすると、大会に関与している意識を持っていただける」という視点は、心理学で言うコミュニティ感覚・共同体感覚と呼ばれるものだと考えています。これはその場に居る人間がそのコミュニティに自分が参加しているという意識のことです。これは「自分が問題を解決できる余地がある」「自分もそのコミュニティに情緒的につながっている」といった要素から構成されるとされます。
これに類するものは、椅子を片付ける文化があります。
風物詩ですが、大会が終わった途端に観客の皆さまが一斉に椅子の片付けを始めます。これも参加者が「自分が大会に参加している意識を持っている」という発露です。
こういったコミュニティ感覚は、「自分はお金を払ったのだからサービスを提供してもらうべきだ」という発想の逆にあたります。
「いや、金を払ってるんだから労働を要求するのはおかしいでしょ!」と反論をいただくことがすごく多いのですが、それはご尤もです。ただ、そもそもこの背景には「コミュニティが開催している」という前提があり、コミュニティ力とは何か?コミュニティ力をどう向上させられるか?といった問いがあります。それに対してはあくまでこうした参加意識であると申し上げるばかりです。
B-2. リアクション
リアクションとは、大会で選手がガッツポーズをしたり、観客が声を出したりすることです。
例えばガッツポーズを挙げましょう。スマブラ勢では「ポップオフ」とも呼ばれます(註9)。日本ではガッツポーズを嫌う文化もあるのですが、スマブラ勢の間では「倒した相手が強かったという敬意を示す行為」として尊重されています。

[
Fukuさん
の一枚。ポップオフの写真は幾つもありますが、今回はこの一枚を例に選択。フランスのGlutonnyがチリのToonを破った瞬間。後ろの何人かは日本の観客が混ざっています。]
大会運営としては、ガッツポーズや派手な感情を見せてくれる選手は喜ばしいです。これを推進しようとするならばカメラを撮る文化の普及が必須だと思っています。現代日本の環境ではわざわざガッツポーズをする人は少数派なので、写真や映像を通して「自分のリアクションが盛り上げに役立っている」とポジティブな実感を経験いただかないと実現は難しいからです。
スマブラ勢は大会で写真を撮る勢力・フォトグラファーが独立勢力で存在しており、撮った写真は大会後に公開されます。本文でここまで挙げてきた写真もこうした方々から公開されています。写真の権利については、大会運営ではなく写真を撮っているご本人が持っています。企業イベントですと主催が業者に発注し、写真の権利や公開方法などをコントロールしますが、個人主催のイベントですと各自行動のほうが気軽で動きやすいと私は勝手に思っています。
この自由な体制を実現するには、抜本的にこれを許可する大会ルールが必要で、且つこれを実施する習慣が必要です。システムが一度実現すれば、写真が資産として界隈に貯蓄されます。ガッツポーズをとる選手そのものが財産なのだと私は捉えています。ただ、どこでも写真撮影を導入する第一歩が難しく、劇薬が必要だとお見受けしています。
また、声を出す観客についても考えましょう。一般的に言って、ゲームの試合映像を見るとき、観客が盛り上がっていると何となく凄そうに見えます。特に、自分がよく知らないゲームタイトルの映像を見るときや、まだ何のPvPタイトルにもハマったことのないユーザーが初めて目にするとき、観客の盛り上がりが魅力に直結します。観客のリアクションはそのものが価値です。

[別大会ですが、古典的な
EVO 2011 梅原さん vs. Poongko
の観客。私も試合内容は分からないのですが、この試合の観客リアクションはとても有名です。]
スマブラ勢で言えば、北極さんのように身長2mくらいある人が、ゲームが終わるたびに跳び回っているとそれだけで熱意が伝わります。ただ、こういったリアクションをとる観客は中々出てこないですし、出てきても潰されがちです。
リアクション観客を出現させて維持するには、「バカを許す風潮」が必要だと私は考えています。現代ではバカを許さない風潮が強いです。会場にうるさい人がいたり邪魔な人がいたりすると、排除する方向に動くでしょう。大会運営が意図的にバカを許すことを積極的に見せないと、こうしたガッツポーズや観客も守れません。
これはガッツポーズや観客の声出しに限ったものではありません。意図的に空気感を緩くしないと他の多くのモノの出現を抑制します。例えば勝手にランキングを作ったり、フリーペーパーを出して配ったり、同期台を作ったりといった、自主的な制作物はある程度バカが許されることが確信できる環境でないと生まれません。

[同期台の実例。他タイトルで言う「PADボム」を防止する装置のこと。]
こうした創造性・大会改善性の面での「コミュニティ力」を増強するにも、バカを許す土壌が必要だと私は強く考えています。リアクションやガッツポーズはそのものが財産で、広義のGDPの一部だと思います。「少しでも不快なことをしたら、不要だから排除しよう」という発想になると、財産が先細りしてジリ貧であると捉えています。
B-3. ビジョン
本文で最後に申し上げる内容は大会運営が共有するビジョンについてです。上述の「バカを許す風潮」はビジョンが無いと実現できません。
ビジョンとは「こういう大会を作りたい」という像です。文章でも良いのですが、画像や映像で具体例で出せると尚良いです。大会運営の方ならば「こういうものを目指したい」という事例を2-3個くらいは動画URLで出せると思いますし、「これは違う」という例も出せると思います。
スマブラ勢で私らの世代ですと、OCEAN moment というものをビジョンに挙げる人が多いでしょう。Apex 2012 という大会で、優勝候補本命のMew2Kingを、初遠征であった日本のOCEANさんが倒した場面のことです。

[2012年 OCEAN moment。様々な公式大会で起用される
Robert Paul
が撮影したもの。Esportsを代表する写真家がデビューを飾った一枚と言って良いです。そのときの映像が
こちら
]
「OCEAN moment みたいな、みんなの感情が出る大会をつくりたい」と言えば、他のスタッフのみならず新規参加者にもビジョンが伝わります。やはり写真があると時代・言語を超えて伝えられるものがあります。
また、2015年以降くらいから、スマブラ勢は大会スタッフ陣がみんなで海外大会に行くことが一般的になりました。これは一つ大きな財産だと思っています。現地の大会を見て、雰囲気や規模の違いを感じて、「これを作ろう」という意識を持つことは大会運営に大きく貢献して来ました。
逆にビジョンを共有していない場合、「コミュニティ力」に関しては様々な減速が生じると感じます。例えば私がスマブラ以外でもいろいろな有志の大会の会議に出たことがありますが、目標やゴールとして「界隈の盛り上がり」を挙げることが多いです。盛り上がりとはあまり実態のないこと(上述のように『篝火』よりも大きな大会を持つ界隈は多いので)なのですが、それを強いて数値化するならば視聴者数になることが多いです。
ビジョンを共有していない場合、こういった指標に支配され、豪華ゲストを呼んだり、有名なストリーマーにウォッチパーティーを依頼したりします。個人主催の非公式大会でも、有名なesportsキャスターに実況を依頼したりします。ただ、こうした取り組みは広義のタイトル内GDPを下げたり、蓄積経験値を減少させています。悪いことではないのですが、「ぜひ毎回やるべき」という心意気になっていた場合は注意が必要です。
他にも、ビジョンが無いとバカを許さない風潮やコンプライアンス問題が壁として登場します。例えば上述のように観客が派手なリアクションをしていたら「観戦していて邪魔だから退場させて欲しい」といったご意見が大会運営に寄せられることがあります。また、「自分は観客として大会で写真にうつりたくないから、この文化自体をなくすべきだ」といった意見はよく挙がります。運営側も、「観客も大会の一部なんだから」という理由で聞き入れてしまうことが多いです。というよりも、こういった実例を複数聴いて来ました。
確かに、場合によってこの判断が必要なときもあります。しかしながら主催者の方々におかれましては、では派手な客を全て退場させてしまったり、写真を全部取り下げてしまった先にあなたが実現したかった大会はあるのか?を一度はイメージしていただきたいです。
「盛り上がり」やコンプライアンスよりも、「コミュニティ力」のために必要なのはビジョンであると日頃提案しています。具体的に何を目指しているのか?は人や場所によって大きく異なります。界隈によっても SFL・LoL Worlds など、目指すイベントが違えばやることは全然違います。他にも MLB World Series なのか F1 なのか、競技でなくても CEDEC や東京モーターショーのようなオフィシャルイベントを目指すのか、コミケのような静かなカオスを目指すのか、ビジョンによって採るべき選択はだいぶ異なります。
「観客にリアクションをしないで欲しい。写真は一切出したくはない。でも何となく盛り上がって視聴者数が大きくなって欲しい」という大会を構築するのは、だいぶ困難であると思います。
以上
今回は以上です。タイトル内GDPという概念がかなり粗いものですが、意図するところが伝わりますと幸いです。また、コミュニティの力というものは再現性があり、金銭的・物質的に貯蓄すれば再現できるところを意識いただけると嬉しいです。
昨今色んなタイトルがesports化していますが、本来esports化というものは「コミュニティ力」の向上とセットだったはずで、トレードオフではないはずです。10年前のコミュニティはこれを信じていたはずなのに、今では「公式大会があるから、プレイヤーがわざわざ大会開く価値ある?そんなの絶対コミュニティの責任じゃないでしょ?」といった発言が当たり前になってしまいました。
また、いまゲーム会社がプロリーグを始めると、プロリーグに選手が確保されます。プロリーグ化は最上位のプロ選手にメリットがあり、人数としては大多数派であるその視聴者・ファンにも恩恵があります。ただ、こういったプロ選手はコミュニティに貢献する度合いが減りがちです。どうしても試合の業態や契約の問題で、外界と接する機会は減ります。こういった点がコミュニティ力とesports化がトレードオフと申す次第です。
翻って、プロに次ぐ上位勢や中堅層、はたまた将来的にその層に入るであろうcontenderたちには、プロシーンはあまり関係がないものです。ご自身が実際に活躍する場面を作ったり、実力を披露してプロチームに見つけてもらったりするためにも、出場できる大会が盛り上がることが目下のメリットだと思われます。そのためには本文で述べたコミュニティ力を再現性として活用するのが有効だと思います。
日本は特徴ある精力的なゲームコミュニティが幾つもあります。そこが国としての強みだと思っています。今回は篝火15の内容だったためだいぶスマブラに偏って記しましたが、色んなタイトルをプレイする人たちがお互いの大会を見て情報共有を出来たら理想だと思います。
-
厳密には『篝火#15』と “#” がつくのですが、markdown表記下ではバグるため省略しています ↩︎
-
現在任天堂タイトルは一定の規模を超えると申請を行って許諾を受ける方式になっています。そのため篝火は厳密には許諾を受けた大会ですが、ここはesports業界の慣習的な表現上「非公式大会で非企業開催」としました。 ↩︎
-
「モニターを貸してくれる業者がいなくても、貸してくれるメーカーがあるんじゃないか?」というツッコミもいただくのですが、今回の篝火15は Evo Japan と日程がかぶっていたため、有力なメーカー:つまりSONYさんの INZONE は出払っていました。こうした問題も実際に起きます。 ↩︎
-
スマブラ勢のあいだでは大会がモニターとスピーカーを用意し、ゲーム筐体は参加者が用意する方式になっています。こういったスタイルは、かなり古い時代から継承されて来ました。 ↩︎
-
大会運営とライブ配信運営が別組織であるのは、元々北米の格闘ゲームの風習だったはずです。 ↩︎
-
フィクションの形成については別途公開しました 『競技シーンの哲学』 の中で述べています。 ↩︎
-
偶然にも最近、大会会場の予約が難しいことに関する発言があるインタビューがありました: 『ZETA DIVISION運営企業が『OW』大会主催 コミュニティー活性化狙う』 ↩︎
-
クロマキさんが大会でのトーナメント進行について書いていました: 『大型大会でPool進行する人/プレイヤー参加する人に知っていてほしいこと』 。この中でも、最終的には進行をスタッフに任せっきりにせず、コミュニティで一体になることのメリットが示されています。 ↩︎
-
直近の Capcom Cup でも「ポップオフ」と呼ばれていました 出典ツイート 。ただ、pop off は英語でも日本語でもほぼスマブラ勢しか使っていない言葉だと思っています。 ↩︎
