恋心は超グリーディ

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Feb 25, 2019 -

G6 第1章 オークランドの旅情

Genesis5 旅日記の第1章。大会前日である。

スマブラ総合世界大会『Genesis』の、大会に至るまでの経緯については、出征前に記した 「出師表」 で確認頂きたい。この第1章では、現地の街の様子を主に説明する。大会本編が気になるせわしない方は、 第2章 へ進んで頂きたい。

オークランドの旅情

“代替メッセージ”
[サンフランシスコ国際空港にて]

「どこから来たの?」

アメリカ。空港の出口。つるつるの床でスーツケースを転がしていると、空港の職員に質問された。検問のような意味はなく、ただ単にこの地では知らない人にも話題を振られるというだけだ。オークランドへ行くと答えると変な顔をされた。

「日本からオークランドに遊びに。これはなことを。」

そう云われるのはごもっともであったし、その意味を我々はこれから痛いほど実感することになる。

乾いた空気に、開けた景色。海と赤い大地が、縦横無尽に伸びる高速道路(フリーウェイ)の両脇に広がっていた。暖気を感じて、日本から着ていた上着を脱いだ。
我々「日本スマブラSP勢 遠征の旅団」が、カリフォルニア:サンフランシスコ国際空港に降り立ったのは、2019年1月31日(木)のことである。このとき世界は、優柔不断であった。日本では元号「平成」が終わり改元されるということで、世間のてんてこ舞いが続いている。また、アメリカではトランプ政権下で “Government Shutdown” となっており、世にも珍しい「無政府状態」である。

そのため入国審査は厳戒態勢であり、日本遠征旅団はここでまさかの4時間を費やす。4時間である。通称「別室送り」となったプレイヤーは今回3名で、スマブラ遠征史上新記録を刻んだ。

※別室送り : 空港の入国審査で、ゲートで不審がられて専用の別室に送られて尋問されること。過去にもトッププレイヤーが次々と別室送りとなっており、どんなにスマブラが強かろうと人は法の下に平等であることを悟る。

(今はイギリスも “Brexit” = 脱EU が出来るのかならんのかの問題でごたごたしており、世界的に生煮えの国際情勢であったと、数年後に振り返って読んだ方はしみじみ思い出して欲しい。)

“Genesis”。スマブラ総合世界大会であり、オープントーナメント形式である。誰でも参加できる。世界の優柔不断な情勢とは裏腹に、決意した日本プレイヤー達が一斉にアメリカへ渡った。

“代替メッセージ”
[サンフランシスコ市、外観]

この日のサンフランシスコは、抜けるような快晴であった。それはもう不気味なほど黒い青空である。標高が高い場所ではこうして黒い空が視えることもあるのだが、サンフランシスコのような海沿いでこうした空が視えるのは意外だった。外気は写真の通り、暖かい。大会期間中、最高気温は18℃までのぼった。息は白くならない。この周辺:ベイエリアは、地中海性気候で年中一定の気温なのだが、日本から渡った筆者は生温く不気味な印象を受けた。戦闘前の邪気が気中に漂っているようだった。

“代替メッセージ”
[サンフランシスコ⇔オークランド 位置関係]

地理関係の説明について、昨年と全く同じ画像を用いる。今回のGenesisはオークランド(Oakland)市で開催される。そのため、サンフランシスコ空港から降り、車で移動する。混んでいなければ40分で着く。移動にはいつも通り、Uber を使った。日本勢は10名ほどが同じ飛行機で来たため、この時は日本勢を幾つかにに割った。筆者の方の車には Abadangoさん, Nietonoさんが乗った。我々にガイドや案内人はいない。全員が参加者であり、全員がゲーマーである。自力で会場へ向かう。

※Uber(ウーバー): ライドシェアアプリ。乗る側はアプリで現在地・目的地をタップすれば値段が確定し、車が自動でやって来る。運転する側には資格が必要なく、アプリに運転手登録をすればサービスする側になれる。乗っている感覚はタクシーと同じ。日本語では通称「白タク」に当たる。他にも Lyft など同様のサービスが有る。海外遠征する際、命が惜しいならば絶対に入れておくべき。

Uber の車窓から、サンフランシスコの街が視えた。高い、新しいビルが林立する、今も開発が続くITの街だ。広告の看板がそこら中に立ち、どれもこれもアプリの宣伝をしている。アプリでないとしたら、今週末開催のアメフト「スーパーボウル」の広告だった。道は車通りも多く、渋滞している。そんなサンフランシスコからオークランドは、湾を隔てる。

“代替メッセージ”
[ベイブリッジ]

観光名所:ベイブリッジをゆったりと渡れば到着する。ベイブリッジの車幅は大きく、それでいて橋も長い。高い白い支柱を、何本も通り過ぎてもまだ続いて行く錯覚に陥る。

“代替メッセージ”
[オークランド側の港]

我々を載せた車は、ゆったりと進んだ。そんなに速度を出すわけでも無いが、遅いわけでも無い。車がベイブリッジを進むと、次第に水平線の向こうから、澄み渡る青空の下に色とりどりのコンテナの平原。特徴的な4本足のクレーンの群れが見えてくる。オークランド港の海岸に上陸したのだ。

オークランドは昨年の Genesis5 でも訪れたため1年振り。が、橋を渡った途端に昨年と異なった印象を受けた。昨年は、フェンスや家々の外壁に落書きが横行し、端的に云って治安が悪そうな街のイメージがあった。今もWikipediaには「治安が良いとは言えない」とある。一方今年は違う。眩しい昼の日差しの下、外壁から落書きは余り見えなくなっていた。それだけならば良さそうなのだが、なにか全体的に、空虚な印象である。実際、昨年銃を武装した警備員が居たスーパーは、空家となっていた。今年も楽しみにしていたのだが、肩透かしを喰らった。

人の気配が薄くなっている。そんな東風が今年のオークランドに吹いていた。

到着

“代替メッセージ”
[ホテル前に到着]

Uber は我々を降ろし、親切に荷物を手伝って頂き、無事ホテルへ到着した。オークランドのチャイナタウンに近いホテル前のストリートには、太陰暦新年を祝う準備で、赤い提灯が並んでいる。微温い空気に、提灯の雲梯。真っ白な日差しが、直線的な建物群を・広く閑散とした路地を照らし、異国の里を演出している。スマブラSP 競技の開幕を告げる Genesis を控えて、この街では何もかもが地の底から蠢く。

オークランドは、20世紀はじめに発展した街である。概してアメリカは意外と古めかしい町並みが多い。オークランドも石造りで、直線的で背の低い家屋が、連続して並んでいた。街に並ぶ店も戸や幅が小さめのものが多く、ぎゅうぎゅう詰めの街になっている。このホテルもそんな街の交差点に、ひっそりと立っている。そんな静かなホテルだった。到着して来るのは我々日本勢だけではない。アメリカ・もしくは世界の各地から、このGenesisを目指す者達が集結していた。

ホテルにて、先んじてアメリカ入りしていた我が師 : Takoman さんと合流した。単身渡航し、この地に留学する Nesk さんのところへ滞在していた心強い行動者である。独自に Uber でここまで辿り着いたそうだ。すると、Takoman さんは意外な一言を発した。

「Uber に忘れ物しました。」

カバンをまるごと一個車に忘れてきたらしい。Switch まで入れていたというから、放っとく訳にもいかない。これから暫く、忘れ物を取り返す Takoman の戦いが続いた。忘れたものは、自分で取り返す気概があった。

“代替メッセージ”
[部屋に広がる荷物1]

“代替メッセージ”
[部屋に広がる荷物2]

ホテルにチェックインし、部屋へ入る。我々4名のメンバーはまず荷物を展開した。各自が日本から持ってきたこだわりの食料がある:インスタント食品・飲み物・等々である。試合までにメンタルを維持するためには必須の品々。遠征も随分手慣れたものである。いざ海外遠征となっても、プレイヤーは皆独りで大体なんとかしてしまう。 (遠征前の準備については 平郎さんのブログ を参考にして頂きたい。)

“代替メッセージ”
[同部屋の3名。左から Nietono, Abadango, Takoman]

Abadango, Nietono, Takoman が同部屋だった。今回の Genesis、はじめはこのメンバーだけだったからだ。ゲーム発売の時点(前年12月7日)で、日本から遠征したいというメンバーは本当にこれしかおらず、寂しい旅になる予定だった。蓋を開けてみると日本勢は10名以上の参加となったが、

「新作出るし、海外行くでしょ」

という思考が無条件に湧いてくる命知らずはこの4名だった。

  • 「勝てるようになったら行く」
  • 「発売したばかりのゲームで初見殺しされたくない」

という、ご遠慮意見があるのはごもっともである。ただそれは分類するなれば「優柔不断」であり、まるでアメリカ政府・イギリス政府(上述)のような二の足である。それを決意で断ち切った者たちが、最終的に今回のGenesisに揃った。行かなきゃ勝てないし、行かなきゃ初見すらない。

「おぬしはリスクが無いだろう」

と筆者は云われたことは無いのだが、そういう反論が有り得ることは想定できる。筆者は、主に大会運営をしており、競技者ではない。そのため、遠征して負けてもリスクはない。逆にその分、勝ち進んでもリターンは少ない。ではそもそもなぜ大会運営の私が遠征するようになったのかは定かではない。ただスマブラは私に知を・道をくれた。スマブラでのどんな出会いが、どんな結果に繋がるかは分からない。それは今までの旅日記を振り返っても味わうことが出来る。幸運を掴むために、どんな者でも遠征してゆけるよう、今後も願っている。

***※「スマブラ界三大ゆうた」: 今回同部屋の Abadango, Nietono, Takoman のファーストネームを取って「スマブラ界三大ゆうた」と呼ぶ。キャラNerfの預言者 Abadango, スマブラの教科書 Nietono, そしてポルシェに乗るラーメン屋 Takomanと、キワモノが揃っており、天下にゆうた多しといえども三大ゆうたを超える者は無い。 ***

受付

今日は到着日だが、既に大会前日である。気がついたら日が沈んでおり、窓の外からは街灯明かりが視えた。我々日本勢は、LINEグループで示し合わせ、一同大挙して受付へ向かうことにした。

“代替メッセージ”
[オークランドの夜に立つワルい人たち]

会場はホテルの向かい。Marriot City Center。会場ホール前にデスクがあり、前日のうちにエントリー者は受付出来、入場パスを入手することが出来る。ただ、そのためには夜のオークランドを歩かねばならない。昨年ならば周囲を気にして、警戒しながら歩いたものだが、今年はそういう気にならなかった。暗い・人通りがすくない街であれば恐怖心が芽生えるものだが、今回はどことなく寂しさが感じられるような夜になっていた。

空港で「オークランドに観光」と云ったら怪訝な顔をされる理由がなんとなく見えた気がする。昨年とはまた雰囲気が変わっていたのだ。

“代替メッセージ”
[入場パス]

こうして会場の受付デスクで身分証(=パスポート)を見せ、入場パスを頂いた。「G6」のアートワークは実に良い。ひと目でGenesisと分かる。道すがら・店・ホテルで人とすれ違う時に、首からかけたパスを見てすぐに Genesis だと確認出来る。おかげでどこへ行っても、ピザ屋だろうとSubwayだろうと、スマブラ勢が店内に居るのだと分かった。視認性の良さと、思い切りの良さ。シンプルなデザインは、界隈の権威である証拠である。

“代替メッセージ”
[準備を終えた空白の会場。明日、ここが戦場となる。]

あまり忘れてはいけないのだが、おそらく多くのゲームタイトルと異なり、スマブラの大会は「知っているヤツ」が開催している。今回で云うと Dr.Z が主催で、TO(=トーナメント・オーガナイザー. トップオタではない)で VaysethBear らが採用されており、配信は VGBC2GG といったいつメンが集っている。Dr.Z が余り馴染みないかもしれないがスマブラDX勢である。カメラマンの Robert Paul も、今や他タイトルで活躍する名手だが、時間を縫ってわざわざやって来た。

皆スマブラ勢なのである。同じように金を出してスマブラを買い、嘗ては FF を遊びデスノートを読んだ。「そのゲーム単体では世界最大のものとなるトーナメント」をユーザーが主催している例はかなり珍しいし、筆者も他の例を存じ上げない。最大の大会だけをユーザーが運営している訳ではなく、他にも大小様々な大会をユーザーが各地で開いている。アメリカで、ユーザーがこれだけの生態系を作ってくれているから、これを目指そうと思えたし実際の参考にもなった。つくづく、運良く偶々、このゲームにハマって良かったと感じる。

“代替メッセージ”
[会場で勝手に遊ぶ NAKAT や ANTi ら]

この開拓者精神が、自分の手で動かす魂が、我々を支えている。

ホテルに戻ると、日本勢同士で練習をした。

“代替メッセージ”
[練習風景]

Nietonoさん・Abadangoさんのみならず、近くの部屋の Shogunさん・Zackrayさんも合流して対戦した。今回は Rain さん・Abu さんも同じホテルで、Umeki さん・Shuton さんが別ホテルとなっている。

スマブラ勢は、特に「オフライン勢」と呼ばれる者達は、普段プレイヤーの家で練習している。そのためこうして、大会前に部屋に集まって練習することは自然だった。更に Nintendo Switch の特性が上手く作用し、モニタ無しでコンソール一台で対戦が出来る。Nietono さんも、

「俺飛行機の中でトレモ(操作練習)してたよ」

と云っていた。

多くのプレイヤーは明日金曜に予選を控えている。こうして夜は更け、自然とプレイヤーは順次眠りについた。お休み、また明日。

■第2章へ進む

Genesis6 旅日記 出師表 G6 第2章 大会運営

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