恋心は超グリーディ

普段質問されることを文章起こした場所です。ライブ配信やゲームイベントにまつわるものです。もしくは、たまに筆者の趣味の文章が交じります。

Sep 25, 2019 - gamerlogy tournament

2019年コミュニティ大会での参加者限界の壁

今2019年、スマブラのコミュニティ大会の開催にあたり、ぶつかっている問題は意外な内容です。この問題点・解決策に関して、論じて行きたいです。

通称「スマブラ」のコミュニティ大会、ピンポイントには筆者がスタッフもしている『ウメブラ』は、以前は予期していなかった壁にぶつかっています。それは「参加希望者が過多」という問題です。

今ウメブラは 512名トーナメントをダブルエリミネーションで単日開催しており、オープントーナメント(参加資格を設定せず, 招待制ではない)となっています。

前提としてスマブラはコミュニティ運営(=第三者の個人主催)でのイベントが国内で盛んであり、全国津々浦々に大会が点在しています。これらはアメリカでの大会方式を真似ています。会場費・設営費はたいてい主催者のポケットマネーで出し、参加者からの通称「参加費」を頂き運営費を分担してまかなっています。それゆえに参加者もイベントを支える一員という意識があり、スタッフもまたプレイヤーであるという意識があります。ウメブラは今年から社団法人化しましたが、この構造は変わっていません。

この前提で、以下もご判断ください。

満員問題

これに対して希望人数の問題点が出てきました。512名の枠のうち200名弱は「スタッフ」「機材協力」および「上位プレイヤー」で埋められるため、実質300名強を先着でエントリー頂いています。この登録が5秒で埋まったという迷信がまことしやかに流れてしまっています。5秒ではないにしろ、参加希望者に対して定員が不足している問題が発生しています。

この問題は簡単には解決できません。その解決策には:

  • 会場を広くする
  • 参加費を上げる
  • ウメブラはいっそのこと選抜メンバー限定の大会とする

といった案が考えられます。これらの案が解決策として機能するのか、筆者の独断で1つずつ見て行きます。

“代替メッセージ”
[現在のウメブラの様子。大量の参加者は大会としては嬉しい限りですが、毎月この人数を収容する場を提供せねばと考えると急に頭を抱えます。写真は @darimoko から]

会場を広くする

残念ながら幕張メッセを借りても、現在の問題点は解決しません。

1日で大会を実行できる時間は有限です。それに対し、スマブラの1試合にかかる時間は10分ほどかかるため、1日で開催できる大会規模には限界があります。そのため、1日で開催できるダブルエリミネーショントーナメントは700名ほどが現在の理論の限界となっています。

“代替メッセージ”
[タイムリーですが、鉄拳『MASTERCUP』が同様の状況となったことがアナウンスされました。MASTERCUP は今年は約1350名(5on5なので250組以上)での1Day大会であり、「最低でもチーム戦を2回出来る大会」から「初戦のみ1回負けたら即敗退」の方式となったことがアナウンスされました。 MASTERCUPウェブサイトより

会場を広くすれば見学枠(トーナメントに参加しない観客)を増やすことは可能ですが、1日でトーナメントを進行するという前提では、今の問題を完全に解決することはできません。

ただ、広い会場を取ること自体も難しく、それについては以下の小項目で述べます。

おまけ:広い会場はなぜ難しいのか

広い会場の予約は何故難しいのかについてです。

①まずは費用に関してです。
消防法で定員が500名を超える当たりから会場費は跳ね上がるようになり、とても個人主催のイベントで出せる金額ではなくなります。『ウメブラFINAL for WiiU』で借りた サンシャイン展示ホールB は2日間で330万円(会場費のみ, これに更に設備費が上乗せ)です。

これを筆者は勝手に「会場費のマルサス法則」と云っています。参加費を運営費に充てる方法では、収入が参加者に比例します。一方会場費はたいてい参加者数の2乗に比例します(消防法で面積や天井および設備についての規則が厳しくなるからです)。するとどこかで参加費を集めるだけでは運営費には届かない領域に達します。この境界線が、東京ではだいたい500名くらいです。500名以上の定員がある会場からは、現在の方式では予算が合いません。

そして、会場が広くなりすぎますと 机・椅子 が会場に付属していません。例えば幕張メッセ・池袋サンシャインホールはついていません。すると500人イベントくらいで、そちらの運搬・レンタルに200万円ほどかかります(レンタル業者にも依りますが各自ご確認下さい)。

ウメブラの運営予算については、Smashlog にてエルさんが楽観的な記事を残していますのでご参考にされてください:
『スマブラオフ大会の開催に必要な費用と生じる収入について』- Smashlog

②そして予約の難しさについてです。
広い会場はたいてい埋まっています:イベント・就活・展示会・商談 … この国ではあらゆる用途に会場を使っています。最近人気の「すみだ区産業会館」は、一般的には就活関連のイベントで使われていることを最近知りました。一年間には週末は100日しかありませんから、こういった会場は高確率で埋まっています。更に法人予約が優先であったりするため、ウメブラもせめてということで最近法人化しました。

今だけで云えば、オリンピック効果も影響しています。直接的に影響はないのですが、例えば大きな会場がオリンピック関連イベント(発表会・告知会・体験会 etc)で予約されたり・会場が工事中であったりすると(例: 東京大学新聞『2020年度入学式 国技館で挙行』 )、普段はその代替会場を使っていた企業さんが他の会場を予約するようになり、これが連鎖的に発生して我々おなじみ『Pio』『すみだ区産業会館』も埋まるようになります。

上の MASTERCUP も年一であり、アメリカでのスマブラ大会も、感覚が麻痺しているかもしれませんが、年一でしか開催していません。この “会場戦争” は、ゲーム界では世界共通の闘争なのです。

招待制にする

それでは議論を戻し、他の解決策候補について論じて行きます。ウメブラを招待制にすることはいかがでしょうか?

元来ウメブラはアメリカ方式を真似ているため、オープントーナメントにして来ました。これは大会の中心となるコンセプトです。そのためコンセプトを重視するならば、招待制の別ブランド大会を創り上げる(例: Beyond the Summit )ことが現実的かと思います。
ではその場合、招待する選手の渡航費・出演費を捻出できるのかと言うと、現状無理です。ウメブラは参加費が運営費に達するという絶妙なバランスで成立しているためです。いま日本ではこれ以外に運営費を捻出する方法が確立されていません。

これは大きな意味を持っています。日本では参加費以外に運営費を捻出する方法が確立されていません。

コンセプトと予算はさておき、仮に招待制をウメブラスタッフで開催したとしますと、逆に “東京のローカル大会” (= 東京で年に複数回開催しているオープントーナメント)に当たるものが無くなってしまいます。すると東京のローカル大会が次にまた生まれ、定員が満員となり、同じサイクルに入ります。

それでは招待制とは云わずまでも、ウメブラを「有資格制」として、過去の国内のオフライン大会の結果を基に資格を1000名くらいに配当し、そのうち500名ほどが実際にウメブラに来る方式を取れば、参加費は十分足りるでしょう。ただこれでも、「東京でウメブラに出る資格を得る大会」、つまりは “東京のローカル大会” が開催された場合に定員以上が押し寄せるという可能性を否定しきれません。

つまり、ウメブラだけが方式を変えて我々が問題を回避することは出来ますが、根本的に今現在の人数問題を解決せねば関東プレイヤーの需要を満たすことは出来ないと筆者は考えています。

別日開催にする

これはつまり、例えばウメブラにエントリー頂いた人が1000人居た場合、500人ずつで別日に予選を開催し、上位4名ずつ集めて “ウメブラ Masters” を開催するという方向です。この場合、Masters の部分がが実質「招待制」となるため、上の「招待制にする」と同じ問題が発生します。予算が捻出出来ないということです。見学枠をなるべく開放したいところですが、今の「参加者全員がプレイヤー」の構造と比べて現地での盛り上がりは欠けると推測しています。

個人的にですが、コミュニティ大会はその雑多さ・無秩序さを重視しています。これについては過去に 『集客の心理における『天岩戸』考』 に記しました。

「Invitational で盛り上げる」「複数回大会を開き選抜方式にして最後に Masters をやる」といった大会は豪華さ・プロダクションクオリティで勝負する切り口に入って行きますが、ウメブラではステージ建築や照明の技術を持っていないため、どうしても企業イベントに見劣りしてしまいます。この世界はやるにしても公式イベントや企業イベントにお任せするべきかなあと筆者は思っています。

“代替メッセージ”
[演出の例としてこちら『EvoJapan2018』。現在とは運営団体が異なる形で開催されていました。画像は 4Gamer より。この時の大会は 「1.2億円の赤字」というニュース が当時出ていました。ただこの赤字は運営の1陣営から出た内容なので実際はこの倍くらい予算がかかると勝手に推測できます。これは何もおかしな話ではなく、このくらいライトアップした派手演出をする場合、一般的に云って全体で数億円くらいかかってしまうものです。]

参加費を上げる

選択しうる最も現実的な解決策と考えています。

ウメブラは現在年8回ほどのペースで開催しています。参加費を1日5000円〜10000円に上げることで、「年に2, 3回参加はできるけれども、8回全部参加は難しい」というハードルを設けるものです。年に8回開催する前提であれば常連の方も少しはご遠慮される可能性が出ますので、人数圧迫は少し緩和されます。

強いて問題点を挙げるとすれば、実際の価値と値段の乖離です。現実的に今のウメブラの提供しているサービスは1日3000-4000円くらいの価値かと思っています。確かに参加費1万円を頂けば人数規模は同じままで毎回高田馬場ベルサールで開催が可能ですが、果たして会場の高級感が大会のエクスペリエンスにどのくらい影響するのかは未知です。皆さまは「高級感が有る山手線沿線のスマブラ大会」に毎回1万円出したいでしょうか?私は出したいですがそこは人それぞれかと思います。

エントリー申請用のサイトを変える

現在「Smash.gg が不便なのでエントリーが出来ない」というご意見も頂きます。以前用いていたサイトの方が操作が簡単という面もあり、参加者の方へ強いる負担は少ないのは確かです。ただ、UIの利便性を向上させても参加限界の問題は解決しないと筆者は考えています。

エントリー申請で用いているサービスを変えても、ウメブラの定員・参加希望の方の人数は変わりませんので、心苦しいですがいずれにせよ定員が厳しいことに変わりがございません。(コアユーザー向けの言い訳ですが、むしろ名前の長さによってエントリー速度の強弱がつかない分ログイン制の Smash.gg は平等であると感じます。)

トーナメントの参加者の方が多くなりますと、Smash.gg の方が当日および事前準備でスタッフが入力する負担が減るというメリットもございます。

プレイヤーの参加回数に上限を設定する

これは管理が非常に難しいです。割愛します。

毎回2日制大会にする

現在ウメブラは通常を年に7回開催し、Japan Major を1回開催しました。総動員人数は既に5000名ほどです。 ウメブラを毎回2日制大会にしますと、すると会場が予約できる確率的に、開催できる頻度が減り、年4回くらいが限度かと思います。すると実は総動員人数は減る可能性もあり、不満の解決にはつながらないと考えられます。

また、毎回「土日」両日でで開催となるため、高校生や遠征勢には厳しい日程にもなります。メリット・デメリットございますが、完全に2日制大会にシフトするのもある程度必要なステップなのかもしれません。

追記:抽選にする

追記しました。参加を抽選にしてはいかがでしょう?つまり上位選手のみエントリー確定で、その他のプレイヤーの分で定員を超えた場合は、抽選にするという方式です。これは定員を解決する手段にはなり得ませんが、公平感を出すことが可能になります。そのため補足での提案となります。

実は「スマブラ勢には大会エントリーで抽選がない」という慣習があります。つまり、今のスマブラコミュニティ大会はほぼすべて先着です。そしてキャンセル者が出た場合、穴埋めは「滑り込み方式」となっています:キャンセル待ちリストは作らず、とにかく早くキャンセル者が出たことに気付いた方が申し込んだもの勝ちという方式です。

参加者の方にはかなりハードな仕様を強いていますが、これには大会運営側の都合があります。運営費の問題です。過去にウメブラは実際に抽選方式を取ったことがあるのですが、その際何人が欠席したかが分かっています。先着の場合当日キャンセル者はかなり少ない(1%ほど)のに対し、抽選の場合これがけっこうな数字になります。今の大会形式では窓口で参加費を頂くため、キャンセル者の数は運営費への打撃になります。

「それならば、参加費は事前徴収制にして、抽選に落ちた人へ返金しては?」という策もありますが、その場合サービスを導入して手数料も入るため、現状その手間の人員とノウハウがなく、導入していません。

企業イベントにしては?

最後の議論項目です。

例えば『ジャンプフェスタ』のようなスマブラオフ大会を開催してはいかがでしょうか?しっかり企業イベントの一環で許諾を版元から取り、イベント運営ではスポンサー・ブース出展を募ります。個人主催のイベントよりは費用を集めやすいですし、プロダクションクオリティは大幅にアップします。

私も本職は業界の人間なのでここまでコミュニティ運営を前提とした議論は正直「甘え」の議論です。やはり企業イベントは非常に良いものですが、今日の問題を解決するという目的には有効ではないと考えています。企業イベントはその準備のスケールから年1回での開催が一般的であり、ユーザーにもしっかり配慮した結果、終了時間を17時に設けることが慣例です。競技向けのトーナメント形式で、年に何度も開催して欲しいという文脈では問題を解決しません。

そもそも議論の前提が「コミュニティイベントについて」でしたので、この議論が詰まるのは必然と云えば必然です。ただ競技欲を考えると、やはりコミュニティ主催でトーナメントを頻繁に開催することは必要だなあと再確認できます。

“代替メッセージ”
[よく用いられるEsportsの参考画像, TalkEsport.com より 。こちらは ESL One Katowice, つまり CS:GO のメジャー大会。CS:GO, Dota2 を擁するゲーム会社 Valve には「参加者1000人以下のイベントなら自由にやっていいよ」というレギュレーションがあり、いまこの「1000人」という数字がどういう意味を持つのか、身をもって経験しています。]

#ここまでの議論

こう考えると人数収容とは難しい課題です。
予算や予約の問題もあるのですが、ここまで述べたように開催方式を変えるというのは大会コンセプトを変えるということでもあり、「仮に金があったとしてもコンセプトは変えるのか?」という点は已然難しい壁です。

ただこれは、東京での一大会単体で考えうる解決策であり、まだ議論は尽くしていません。かなり押し付けがましくなり恐縮なのですが、以下の理想論をご一考頂けますと幸いです。

理想論解決策

理想の解決策は、日本の各地のオフ大会を1000人規模とすることです。

具体的には 北海道・仙台・神奈川・愛知・大阪・広島・福岡・沖縄、これに東京を加えて9箇所。どの大会が具体的にどう、とは申し上げ難いですがこれらの地域を例に挙げました。他地域でも全然問題ございません。全ての地域で今まで通りの平日大会・毎月大会を運営を頂いて問題ないのですが、年1でこれら全箇所で2日開催の1000名トーナメントを開催頂くことを申し上げたいです。

大量に1000名トーナメントが開催されれば、参加者の十分な受け皿になる上に、以下の問題の解決にも繋がります↓。

現状ウメブラは会場確保が困難です。(私が会場確保をしている訳ではないので他人の仕事をかたっています。)スタッフのスケジュールは配慮せず、とにかく取れる日に取ります。ウメブラで特定のスタッフが居ない日があったことをご存知の方もいらっしゃるでしょう。その調子のため、日本の他地域の大会に被ってしまうことがあり、大変申し訳ないところです。特にこの5~8月の間、ウメブラは会場予約に苦しみました。それでも開催を目指した現実面での理由は、倉庫代がかかってしまうためです。ウメブラは開催しなくとも、110台以上のモニタ・それに付随するスピーカー・そしてその他の機材を保管するための倉庫に運営費がかかります。ただ1年間に週末は50回しかなく、現在上記9地域は少なくとも其々年に何度も大会を開き、且つ他の地域でも大会が有ります。そのため高確率で大会日程がどこかで被ってしまいます。

各地での1000名大会は、定員需要の解決だけでなく、この開催被り問題にも効果があります。

もし年に9回1000名規模の大会があるならば、ウメブラ運営が各地の大会と運営を協力し・ウメブラ自体の開催頻度を下げることも可能になります。現在128人規模で運営をされている大会がいきなり1000人・あるいは500人を目指そうとも機材について無理がありましょうから、そこはウメブラが協力することも可能です。協力申し上げた場合、物理的にその日にウメブラ開催はなくなります。

“代替メッセージ”
[スマブラSPの場合、2日で500名のダブルエリミネーションの場合60台くらいモニタがあれば進行可能です。写真は @darimoko から]

助けになるか分かりませんが、大会被りに関して少し楽観的な資料をここで申し上げます。アメリカでは2019年の間におおよそ8回ほど1000名以上エントリーの大会がございます。日本に居る身からアメリカを見ると「アメリカではたくさん1000名規模大会があるし、スケジュールもしっかり管理されていて羨ましい」と感じるかもしれませんが、実際は少し異なります。1000名大会がどこかで開催されている裏で、100名規模の大会が他地域でいくつか開かれています。大会は被っているのです。また、ローカルで100~200名規模の大会を年に何度か開いている運営(Monthly)と、1000名大会を開く運営(Annual)は異なります。例を出しますと、GenesisやTheBigHouseは年に一度しか運営をせず、SynthesisやSmashWorksのような月一大会運営とは別組織になっているということです。(おそらくSocalに位置する2GGのような例外を除き基本的にこのスタイルです。)ウメブラはMonthlyを開催しながらAnnualも開催していますが、どちらかにシフトするのもアリかもしれません。

以上、

徒に不安を煽るかもしれませんが、いずれ同じ壁にぶつかるゲームコミュニティが出るはずです。そうなったときに、過去にこういったことを考えていた人が居ると知って、参考にして頂ければ幸いです。