恋心は超グリーディ

普段質問されることを文章起こした場所です。ライブ配信やゲームイベントにまつわるものです。もしくは、たまに筆者の趣味の文章が交じります。

Jun 5, 2020 - others review

ゼノブレイド:エーテルの背景知識

こんにちは、ゼノブレイド大好き人間ですが、 前回の投稿 に続いてゼノブレイドに登場する「エーテル」という概念の背景知識を説明しようと思います。

この前編として、 ゼノブレイド:因果律の背景知識 がございます。因果律が気になる方はそちらも御覧ください。

今回は余りゼノブレイドの内容が登場しません。ご安心の上、エーテルの説明をお楽しみ下さい。

“代替メッセージ”
ゼノブレイドDE 公式サイト より。]

エーテル

エーテルという言葉は、広く使われています。全ての語源である古代ギリシャの「エーテル」は筆者が科学史で非常に好きなジャンルです。エーテルは FINAL FANTASY など他の作品でも登場しますが、おそらくいずれも古代ギリシャのエーテルを想定して命名したのかなと推測しています。

まず現世に存在する「エーテル」(有機化学で「R-O-R’」の形で表せるもの)は別の存在です。ただこれも古代ギリシャのエーテルを語源に持ちます。

それでは古代ギリシャの説明をいたします。有名な話ですが、古代ギリシャでは万物の元の議論がなされていました。特に「四大元素」が主流の説となりました。日本語では 火・風・水・土 と訳されることが多いです。これは現代人からすると「妄想じゃん」と感じるのですが、当時の技術ではこの世の解釈はここが限界でした。しかもこの説は長いこと支持され、西暦1600年のガリレオは地動説を主張するほど物理が得意だったにも拘らず、物質に関する持説にはまだ四大元素を使っています。

“代替メッセージ”
[四大元素は今も世界中で様々なアートモチーフで使用されますが、むかし本気で科学的アプローチで四大元素を研究していた頃は大変だったことでしょう。 Adobeより

ただ長らく四大元素には問題点がありました。地球上のモノは四大元素で出来ていることが説明できますが、「空に浮かぶ天体は四大元素で出来ていなさそう」という点です。太陽・月・惑星はどうも四大元素の理論に当てはまりません。証拠の一例を挙げますと、惑星はその特殊な軌道ゆえに古代から存在が知られていましたが「水金火木土」で5個あるので、四つに分類できません。

そこで考え出されたのが「第五元素」です。説明ができなくなった紀元前ギリシャの人たちは「地球外のモノなので、おそらく違う物質で出来ているだろう」という了見に至りました。そのため四大元素ではない、5個目の元素があるという発想をしました。この第五元素は、思い切って地球上に存在しない物質「エーテル」という設定になりました。これが様々な場所で登場する「エーテル」の語源です。実際、エーテルを用いて天動説などが説明されました。

(※スマブラのアイクの上必殺「天空」は英語名が “Aether” というのですが、これも第五元素のエーテルから来ています。原作の『ファイアーエムブレム』では、太陽と月光という技を併せて撃つ技が「天空」でしたので、英語では天体のイメージから aether と名付けられています。)

時は流れて1800年代になっても、まだ人類は「四大元素」を信じていました。しかし錬金術が発展したため四大元素の説は崩れ、共にエーテルも存在が疑われます。それ以降エーテルは元の「第五元素」の意味をようやく失いました。しかし、別の形で生き残りました。上で述べた有機化合物のエーテルもそうなのですが、現代でも「エーテル」という言葉は「地球上にはない」というイメージから、フィクション作品で魔法と結び付けられます。ゼノブレイドでも特殊なエネルギーとしてエーテルが登場しました。

この「派生エーテルシリーズ」で、歴史上重大であったのは光にまつわるものです。以下別枠で説明します。

おまけ:光のエーテル

紀元1800年、錬金術師たちによって第五元素エーテルが否定された頃。時を同じくして「光は波である」ということに気付き始めた物理学者たちがいました。

“代替メッセージ”
[光は “波” の性質を持ちます。 関西電力より 。実は粒子としての性質も持ちます。]

現代でも「光ははんぶん波である」と考えられています。波は一般的に、音や地震のように、何かの中を伝わるものです。波はなにかが揺れることなので、揺れる・伝わる本体がいなければ波が成立しないと考えられていました。しかし光が波であるなら、なにが揺れているのか不明でした。光は真空の中でも宇宙の中でも伝わります。そこで物理学者たちは意味が分からなくなり、このように考えました:

  • この世は実は未知の物体で満たされている。
  • でも人類には感知し得ない物体なので「エーテル」と命名する。
  • 光はそのエーテルを揺らして進んでいる。

と。だいぶ無理矢理な仮説なのですが、これを否定する方法はありませんでした。いやむしろ「この世は未知の物質で満たされていて、光はその中を進んでいる」と考えないと説明がつかないくらい、光は謎でした。「エーテル」は、ここで人類の感知し得ない空想の物体の名前に用いられ、再びその名を歴史の舞台に刻みました。

ここから100年かけて、エーテルを観測する or 否定する様々な実験が行われました。その結果、「光はエーテルの中なんて伝わっていません」という説が証明されました。「エーテルって空想上の物質なのにどうやったんだよ…」と思われるかもしれませんが、科学はすごいものなので気になったら調べてみてください。特に有名なアインシュタインさんの特殊相対性理論が出ると、光が伝わる基としてのエーテルは完全否定されました。

“代替メッセージ”
[光のエーテルを否定し切ったアインシュタインさん。Wikipediaより。]

…ここまではご存知の方もいらっしゃると思います。筆者がここで念を押して申し上げたいのは、「というわけでエーテルの存在は否定されました」という考えは誤解であるということです。そもそも「この世はなんか空想の物質で満たされている」という発想(渦動説)は紀元1600年くらいから存在します。前記事で申し上げたライプニッツさんの「モナド」も同じジャンルの発想でした。確かに光が伝わる基であるエーテルは科学の発展によって否定されました。が、それは光が伝わる基としての機能が否定されたに過ぎません。エーテルやモナドのように、この世を人間が知らないモノが満たしている可能性についてはまだ否定しきれていません。気になった方は「この世は知らないモノで満たされているのかもしれない」と想像しながら生きてみてください。

この「この世はなんか空想の物質で満たされている」というジャンル「渦動説」の歴史的攻防は面白いです。最初は哲学から始まり、途中で科学になり、イギリスやフランスの科学発展の競争に至ります。物理的にこの世を満たしている謎の物質があるかどうかは、最後は地球の大きさを計測して決着するのですが、今もまだ知り得ないものが有るかもしれません。人間はどのような経緯でどこまで分かっていて、なにが分かっていないのかは、知の行程として筆者が興味があるところです。同様に気になった方は、是非とも科学史というジャンルを学んで頂ければと思います。

以上

前回の投稿 と同じで、参考文献を今一度オススメします。

全体的に科学史の出典はこちらを参考にしております。完全にエンジョイ勢ですが非常にオススメの一冊で、四大元素・魔術・錬金術を学問としてやりたい方は是非御覧ください:

橋本毅彦『<科学の発想>をたずねて』

また、少しでも哲学に興味を持たれた方は初心者向け動画として『ぴよぴーよ速報』をオススメします:

{% oembed https://www.youtube.com/watch?v=KcuCD6vpnt0 %}

ゼノブレイド:因果律の背景知識 大会でのモデレーションとその限界

comments powered by Disqus