地上波アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』は2006〜2008年にかけて2期分(約4クール)放送されました。最近改めて視聴し、思ったことがありますのでストーリーの構図を文に起こします。
今回の内容は、当時放送された地上波アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』とその第二期『R2』までのものです。後年の映画版や、マンガ『反攻のスザク』などは含めません。
本文の意図
よくある『コードギアス 反逆のルルーシュ』の考察は:
- C.C. と V.V. はどういう関係だったのか
- 最後にジェレミアがオレンジ畑を耕しているのは何故か
といったストーリー設定的要素の深掘りが人気なのですが、今回はそういったアプローチを採りません。私はこちらのブログでのいつものレビューに倣って、全体の構図を、備忘録も兼ねて記して行きます。
単純にまとめれば、『コードギアス 反逆のルルーシュ』というアニメは「大切な人を守るために嘘をつくことは許される」というテーマを押し出した作品です。
■ 参考:過去のブログ
第一期
『コードギアス 反逆のルルーシュ』第一期は、2006年から毎日放送系列で放送された深夜アニメです。制作のサンライズ自慢のロボット要素に加えて、CLAMP のキャラクターデザインや谷口悟朗監督の魅せ方が加わり、独特なアニメとして世界的に有名です。1st オープニングの “COLORS” は英語圏ではよくアニソンの代表としてネタに使われます。
内容としては、植民地化された日本を開放するために日本人が右往左往するのに対し、日本勢力を率いる主人公ルルーシュは見事な戦略で鮮やかに物事を進めるところが爽快なアニメでした。
悪意
ここからが考察です。
今作ではナレーションの C.C. が重要なキーワードを繰り返し述べます:
- 善意と悪意
- 行動と結果
という2軸です。
主人公ルルーシュは基本的に “悪意” の人物として描かれます。ゼロという仮面をかぶって日本人を騙し、学校では身近な友達を欺き、そしてギアスを他者にかけて自分の思うように操ります。
一方、ライバル役として登場するスザクは “善意” の人物です。スザクは繰り返し「結果よりも手段が大事」と述べます。つまり、ゼロや黒の騎士団といった非合法な組織を忌み嫌い、正規軍に入った上で帝国を・日本を良くする “善意” の行動を大事にしています。
『コードギアス』ではこうした登場人物が “行動” し、必ず “結果” が出ます。日本開放戦線の人たちが何かすれば必ず犠牲者が出ます(第8, 12話)し、シャーリーが銃を撃てばしっかりヴィレッタに命中します(13話)。逆に、ピンチで雷が落ちて偶然勝利することはありませんし、偶然銃口が逸れるような都合の良い運命はありません。土砂崩れは自力で起こすもの(10話)です。
血染めのユフィ
22話「血染めのユフィ」は今作を代表するエピソードです。衝撃的な展開が先行して印象を取られてしまいがちですが、本文では構図的に見ましょう。
ここでは帝国の姫ユーフェミアが日本人を救おうと “善意” で特区日本の構想を打ち出し “行動” しました。ルルーシュはこれに説得されて初めて “善意” で応えようとしました。ユーフェミアの提案に乗って、黒の騎士団を無力化して日本もまとめ、妹ナナリーも幸せにする未来を描きます。作品の構図としては、ルルーシュはずっと “悪意” の人物であったのに、はじめて “善意” で行動しようとしたところに新規性があります。
しかし “結果” としてはギアスが暴走してしまい、ご覧の通り日本人の虐殺とユーフェミアの死、合衆国日本建国からの東京決戦(= ブラックリベリオン)といった展開に繋がります。
第二期
第二期『コードギアス 反逆のルルーシュ R2』は2008年に毎日放送系列で放送された夕方アニメです。
第一期と比較すると、ロボットや戦闘を描く時間配分が下がって、人間を描く部分が増えたと私は感じました。それに伴い、主人公ルルーシュは第一期で描かれたような超越者としての役回りとは異なり、人間的で苦悩する側面が描かれました。
EDで流れるスタッフロールをパッと見た感じ、谷口悟朗監督や大河内一楼さん等ディレクターレベルは一致しているけれど、原画や動画などのスタッフが変わっていると私は認識しました。深夜から夕方へ進出し、見せる客層が変わったことで手法にも変化があったのでしょう。当時若いアニメファンだった私はこれを寂しく感じたものです。
嘘
第二期は登場人物がメタ的なキーワードを繰り返し発します。一つは “嘘” や “仮面” といった言葉です。これは皇帝シャルルと主人公ルルーシュの対立軸を描くために登場します。
そして、第二期で言う “嘘” というキーワードは第一期の “悪意”(上述)にあたります。おそらく同一の概念です。
作品を振り返ってみましょう。皇帝シャルルとマリアンヌ(= ルルーシュの母)は人類全員の思考をつなげることを画策していました(21話)。これを「ラグナレクの接続」と呼んでいます。所謂「人類補完計画」と同じタイプの目的なのですが、今作の「ラグナレクの接続」では “嘘” をつけない世界を作ることに主眼・独自性があります。
確かに、一見すると “嘘” をつけない世界というのは良いように見えます。例えば皇帝シャルルは実の兄である V.V. がついた悪意ある嘘に苦しんでいました(15話など)。
しかしルルーシュが問い質してみると、この「ラグナレクの接続」とは皇帝シャルルやマリアンヌ自身が他者から自分を守るための手段であり、みんなに優しい世界が来るとは言えませんでした。
対照的に主人公ルルーシュが妹ナナリーについた “嘘” というのは、ナナリーという他者を守る動機がありました。ルルーシュのこうした “嘘” はナナリーの未来を作っていくもののため “明日” と表現されます。一方、皇帝シャルルのような強者が自分を守るために “嘘” を否定する「ラグナレクの接続」は “昨日” と表現されます。(24話?)
そこで主人公ルルーシュは神(= 人類の集合意識)に対して:
神よ、集合無意識よ、時の歩みを止めないでくれ
というギアスをかけるという “行動” を起こし、成功という “結果” を得ます(22話)。これは他者のために未来を作る “嘘” は認められるという描写です。
今日と明日
この後、主人公ルルーシュと兄シュナイゼルの対決が描かれます。これが今作の最終決戦です。
兄シュナイゼルは主人公ルルーシュと同様 “嘘” をつく人間です。他人の命をなんとも思っておらず、第一期ではスザクに死ぬことを命じたり(第一期18話)、帝都にフレイヤを撃ってもナナリーに嘘をついたり(第二期23話)と、非常に冷酷な男です。
最終決戦では、主人公ルルーシュの “嘘” と兄シュナイゼルのそれは違うという描かれ方がしました。シュナイゼルは世界の平和のため、強いて言うなればシュナイゼル自身のためならば、嘘をついても良いし人を殺しても良いと考えました。これが「シュナイゼルの仮面」(23話)の意味するところです。
ただ、恐怖や軍事力で世界が平和になっても、人が誰かのために思いを持っていないならば、ただ毎日が前進せず現状維持がされるだけだと今作は批判します。これをルルーシュは:
今日を繰り返すだけ
と表現しています(24話)。
両者は富士山麓で決戦し、主人公ルルーシュ陣営が勝利します。作品の構図としては “嘘” は嘘でも、シュナイゼルのような全体主義の嘘(= 今日)は許されず、ルルーシュのような妹を思う嘘(= 明日)しか許されないという注意書きのようなパートでした。
ゼロレクイエム
最終的にこの作品はゼロの仮面をかぶったスザクが皇帝ルルーシュを殺害し、世界平和が訪れたという結末を迎えます。これが「ゼロレクイエム」です(25話)。
これは世界の “明日” を作るために、スザクがゼロの仮面という “嘘” をついて “行動” したという描写です。今作2期分をまとめた象徴的ラストシーンだったと思います。
構図に関する考察は以上です。
現代とラグナレクの接続
わざわざこのブログを書いたのはこの段落を書きたかったからです。私は2023年現在「ラグナレクの接続」は多少成立してしまったのではないか?とと思っています。
現代では social media があり、Twitter, YouTube, TikTok やツイキャスなどを用いて、他者の悪事を誰でも暴露することができます。もしくは、暴露系のインフルエンサーにお願いして断罪することが可能になりました。特に2023年は大企業の不祥事が多く話題となり、今まではバレなかった悪意ある “嘘” が露呈するようになりました。
今では一般車道での速度違反や、未成年大学生の飲酒一件一件がインターネット上で断罪されます。誰もが一切悪いことができない社会になりました。今までは、コードギアス的に言うと、仮面をかぶっていればなんとかなった行動も、隠せなくなりました。まあ現実では多くの “嘘” は悪意あるものなので、よりルールを守る良い社会になったとは思います。一方で、多少嘘をついてでも何か好意的なことを進めるというのはできなくなったと感じます。2006年にコードギアスが描かれた時代と比べると、人間社会は大きく変化したと言えるでしょう。
これは厳密には「ラグナレクの接続」とは違う形だと思いますが、結果としては似たものだと私は思います。現代をルルーシュが見たらどう思うでしょう?人類は未来へ歩むスピードが落ちたと感じるでしょうか?人類は他者を思う嘘をつかなくなったと思うでしょうか?もしくは、既得権益に有利な社会になったでしょうか?
以上
以上、『コードギアス 反逆のルルーシュ』に関する構図の考察でした。
私のお気に入りアニメが 『FLCL』, 『輪るピングドラム』とこちらの『コードギアス 反逆のルルーシュ』だったため、これにて丁度3つ考察ブログが揃い一安心しています。
私はコードギアスについて、ロボットの造形や貴族制の華やかさが好きな面もありますが、テーマである「大切な人を守るための嘘」という主張が独特なので気に入っています。私はコテコテの『ハムレット』みたいなドロドロ人間味のテーマ作品が好きです。こういう作品があればまたオススメ頂ければ幸いです。