Genesis6 旅日記の第4章。大会3日目、最終日である。
競技最後の日。オークランドに滞在している世界中のスマブラ勢の大半は敗れ、息をひそめていた。残っている競技者は各種目Top8のみ。一握りの殿上人である。
昼過ぎ。我々観戦する日本勢は、雨にしめったタイルの路地を歩いていた。音のないオークランドの日曜日。煤けた曇天が広いストリートの上を覆っていた。店は殆ど閉まっている。スタバ・スーパー・Subway など、尽く閉められ、シャッターか鉄格子が降りている。人通りはほとんどない。道ですれ違う人間はだいたいGenesisの参加者である。首からGenesisの参加証を提げているから分かる。
我々は、最終日の会場となるパラマウントシアターを目指していた。
[オークランドの街にひっそりと立つオブジェ。何処となく “光の化身” に似ている。]
昨年ならば、道を歩いていたらドレッドヘアーのスケボーマンが現れて
「Hey大麻要るか?(Need some weed ?)」
と訊いてきたものだが、今年はその気配は一切なかった。がらんとした街には、「Real 大麻あります」というポスターも貼っておらず、カモメの影もなかった。一本道なので、少し歩くと、自然と目的地に到着した。
パラマウントシアター
昨年も叙述したと思うが、心新たにここにも記したい。美しいものは幾度描写しても新規性が損なわれないからだ。
[会場パラマウントシアター、縦のネオンサイン]
[会場入口]
オークランドにそびえる『パラマウントシアター』(Paramount Theater)は、国定史跡に指定される世界を代表するアール・デコ建築である。サンフランシスコの高名な建築家:ティモシー L. フルーガーが設計し、1931年に完成した。この1931という年が何とも絶妙である。私の愛するアール・デコ様式は、1925年以降アメリカにて花開いたものの、1930年代の世界恐慌によって短い命を散らせたためである。
[会場、ボールルーム]
この時節は、まさにアメリカが列強国として世界に名を挙げ始めた頃であった。また、劇場がその名を冠する「パラマウント」社は、映画産業黎明期、舞台・オペラと映像(活動写真)が渾然一体であった頃に興隆した配給会社である。まさしくアメリカが、そして映画としてのシアターが創造されんとする時代を、象徴する建物が『パラマウントシアター』なのである。これこそGenesis(創世記)の名に相応しい、あつらえたような舞台である。
[廊下]
[廊下のソファ]
パラマウントシアターの魅力は、その歴史的文脈のみに非ず。一歩中に踏み入れれば幻想的な空間が彫刻されていた。頽廃的な町並みとは大きなコントラストである。入口からは直接、階段の広間(ホール)となっており、暗い。階段手摺りの真鍮は不敵に微光を反射していた。天井は高く黒くかすんでいる。慎ましいライトアップは陰影の深みを強調させ、暗さが視覚的な広さを生み出している。(オクシモロンに感じる方は実際に訪れて確認頂きたい。)
我々日本勢は、建物の中に入ると妖気を覚えた。外のがらんとしたストリートの雰囲気とは一変し、勝負を見に来たスマブラ勢を詰め込んだシアターは感情が空気を泳いでいた。
そこを抜けると客席へ誘う廊下(ホールウェイ)へ繋がる。廊下は淡い石竹色で、光がおぼろげに漂っている。現代にも見劣りしない細工・全体に散らされた金のレリーフは、鶯色(うぐいすいろ)のカーペットと相まって深みを醸している。アール・デコは直線的な構造に対して、内装の装飾性が高めな特徴があるが、この一帯に漂う空気は根本的にアール・ヌーヴォーらしかった。
[シアター正面]
[シアター観客席]
大きく重い扉を引いて開ければシアターに踏み込む。暗く、そして紅い。広い所以は当然である。アール・デコはそもそも、20世紀建築技術の向上を端を発す。ギリシャ神話のような太く・高い柱を可能にしたのはこの頃で、このパラマウントシアターでは此れ見よがしに2本の大柱が舞台を挟んでたたずんでいた。(他にはニューヨークのエンパイアステートビルがアール・デコである。)
20世紀はじめの当時、新時代の幕開けを象徴した造形がここにかたまっていた。Genesis はここで決戦を迎える。
想像して欲しい。例えば東京宝塚大劇場をスマブラで貸し切ってTop8を開催することを。紅くライトアップされた舞台の上には、戦う2名のスマブラプレイヤーが座り、その間に小さく青く光るレッドブルのクーラーがそっと置かれている。観客はTシャツを着たスマブラ勢で満員になっている。そんな舞台を想像して欲しい。
こうしている間に、シアターではスマブラ64が行われていた。日本勢の快進撃で、kysk 選手が優勝。64では3年ぶりに日本勢優勝となった。
スマブラDX Top8
我々スマブラSP勢は、スマブラDX Top8 の開始時刻に会場入りした。aMSa さんの応援のためである。この直前に進行していたスマブラ64の日本勢には大変申し訳無い。
日本勢10名ほどでまとまった席を探しているうちに、待ちに待ったカードが実現してしまった。
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aMSa vs Mango。こちらについて詳しい説明は aMSaさん御本人のブログ にあると思うが、因縁のカードである。
※Mango : 本名 Joseph Marquez(ジョセフ・マークィーズ)。表記方法は色々あるがここでは “Mango”。Cloud9 所属。Los Angeles 周辺出身。スマブラDX「五神」の一人であり、スマブラ全体でも最もファン数が多いと云われているプレイヤーの一人。Armada, Leffenなど国外のプレイヤーを撃退するアメリカ征夷大将軍ポジション。パスポートを持っていない徹底した愛国者。
嘗ては Apex2015 にて対戦があった。“雪の崩落” Apex2015の伝説と相まって、この試合は涙と共に記憶される試合となった。
Apex2015旅日記の終盤
に登場する。
2015年当時、aMSaさんはTop8まで登って行くとは想定されていなかったが、それを実現した。迎えた敗者側準々決勝。この2人は激突した。結果は 2-3 aMSa選手負け。ただ試合後 “aMSa” コールが起きた。アメリカの大人気プレイヤー Mangoに対して、逆プレイヤーのコールが起きるのは唯一のことであった。…
…そして迎えた今回。
Mangoがキーコンに「U$A!」の名前を用い、aMSa選手が「JPN!」で返した(「キーコン」が分からない方は動画をご覧頂きたい)。これは4年前 Apex2015にて対戦した際のキーコンそのままであり、放蕩者のイメージのある Mango がこの因縁を憶えていたのは意外だったが、感慨深い。そして結果は、aMSa選手が 3-0 での勝利。
この後、aMSa 選手は Axe に敗れる。Axe はこれまたピカチュウ使いという、スマブラDXでは珍しいファイターなのだが、この2名はお互いのために対策をせねばならない。何度か当たったこともあり、ダブルスを組んだこともあった。再びカイトコーチの指導の下に、aMSa さんが Axe にリベンジする日を、我々は待っている。
そしてこのGenesis6のスマブラDX顛末。最終決戦はこの Axe と、Hungrybox との間で行われた。Hungrybox はプリン使い。「五神」の一人。いま世界ランク1位でありながら、このGenesisのタイトルだけどうしても無かったプレイヤーである。
優勝したのは、Hungrybox だった。終わったところで、最後は盛大な “Hungrybox” コールでシアターは満たされ、表彰式は笑顔で終わった。
![“代替メッセージ”](/images/G6/スクリーンショット 2019-02-16 1.40.23.png)
[Genesis6 公式写真は、
Robert Paulのもの
をこちらから。]
スマブラSP Top8
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万雷のコールが明けたのは、夜21時。そのまま スマブラSP Top8 が開幕した。スケジュールが延長するのはもはや恒例である。
これより、新作タイトル『スマブラSP』の、最初の世界王者が決まる幕が開いた。
スマブラSP Top8には、日本勢が1名だけ生存している。その名を Zackray(ザクレイ)と云った。Zackray さんは快進撃だった。若いながら初の海外大会にして、ここまでストレートに来た実績は驚嘆に値する。ここまでに K9, Light といった強豪を下して、勝者側で万全のTop8である。
[我々視点。Top8 のステージ。]
[観戦でテンション上がってきた日本勢。]
Top8 の Zackray さんは、途中我々とは別れて、控室で待機していた。現役のシアターとしての待機室に、ゲーム機を置いてゲーマーの控室に代えている。同伴として控室には、Zackray さんと同スポンサー(Gamewith)の Shogun さんが入った。
そして時が満ちて、VoiD vs Zackray の試合を迎える。
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勝者側準決勝。Zackray ウルフに対するは、VoiD ピチューである。VoiD。ハワイ出身の22歳。CLG所属。スマブラは前作WiiUから大会へ参戦し、何度も日本勢と対戦している。初めて日本勢と向かい合ったのは Genesis3 の Ryuji 戦である (旅日記) (動画) 。日本好きで、来日したこともある。日本語も比較的能く使う。今大会、既に日本の Shuton 選手を破っていた。
この試合はもつれ、3本先取の最終戦まで迎える。Zackray さんが1ゲーム取る度に、観客席から
「アオーン」
という遠吠えの斉唱が聞こえた。これは、Zackray 選手の使用ファイターが『スターフォックス』に登場するウルフのため、応援する者達が吠えているのである。示し合わせた訳ではなく、本能的に男たちが裏声で叫んでいた。声が通りやすい劇場が異様な雰囲気に包まれた。
結果は 2-3、VoiD 勝利であった。
二人とも堅実でありながら攻撃的なプレイスタイルで、手に汗握り観戦する側も緊張する試合であったが、結果は出た。VoiD が勝者側決勝へ駒を進めた。
いずれ、数年経って振り返ったとき、
「Zackray vs VoiD を見て、スマブラを始めました。」
そう云ってくれるファンが現れたならば …そう思わせる好試合であった。
Dabuz
Zackray さんは敗れたものの、敗者側で試合が残っている。上がってきた相手は Dabuz であった。
Dabuz…
いつも日本勢の前に立ちはだかる
Apex2015 では Abadango さんを倒し
Genesis3 では、あの Ranai さんを裏側で消した
私もいつしか忘れていた
Dabuz の堅固で絶対的な脅威を。
スマブラSPは発売されたばかりである。Dabuz は今作、パルテナ・オリマーのダブルメインで戦っていた。実は2日目に少し話したが、パルテナは結構気に入っているそうだった。そして迎えた今大会、FOW・MVD・Tweek という3名を倒している。FOW・MVD の両名は勢いがあり、大会の本番で非常に敵に回したくないタイプのプレイヤーである。Tweek は今回優勝候補だった。この結果はめざましいものがある。唯一負けた相手が MkLeo であった。
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Zackray vs Dabuz。この試合も3本先取で、5戦目までもつれた。結果は2-3、Dabuz 勝利となった。最後は Zackray 選手が相手のシールドにクロウブラスター(ウルフ通常必殺技・飛び道具)を至近距離で当てたため、反撃確定でピクミンロケット(オリマー横スマッシュ)を貰ってしまい撃墜。この時 Dabuz が中距離から急にオリマーで懐に走り込んで来たのは、私には見えない(反応できない)動きだった。最後の場面、私は Dabuz の判断の勝利と呼びたい。
![“代替メッセージ”](/images/G6/スクリーンショット 2019-02-16 1.40.36.png)
[Genesis6 公式写真は、
Robert Paulのもの
をこちらから。]
MkLeo
一方、トーナメントでZackrayさんと逆側では、また一つ波乱が起きていた。
「絶対 MkLeo 勝つでしょ。」
Samsora vs MkLeo の試合が始まる前、後ろに座っていた Rain さんは、持ってきたビデオカメラを回しながらこう云っていた。周りで一緒に座っていた日本勢も同意していた。
しかしSamsora が MkLeo を倒した。MkLeo は 出師表 でも紹介した、Genesisタイトルホルダーである。ピーチ使いの Samsora は、今作に入って頭角を現して来たが、遂に MkLeo を下してしまうとは。
ここから、一挙にトーナメントの顛末を記そう。敗者側準決勝で MkLeo は Dabuz を消し去った。Dabuz は勝者側・敗者側ともにMkLeoに負けたこととなる(同じ人物に2度敗れるこの状況を Double Jeopardy「ダブルジェパディ」と云う)。
そして敗者側決勝 Samsora vs MkLeo。MkLeo は3-2の接戦を制して Samsora へ雪辱を果たす。そして迎えた最終決戦。カードは VoiD vs MkLeo。ピチュー単キャラの VoiD に対して、MkLeo はアイクとルキナを使い分ける。最終決戦ではルキナを出した。…リセットをかけて、優勝は MkLeo となった。
Top8のトーナメント表はこちら に在る。
MkLeo。ゲームタイトルは変われど、Genesis 三連覇となった。そしてまだ余力を残しているとさえ見える。『スマブラSP』は、MkLeo が文句なしに王として君臨し、他プレイヤーが挑戦するという構図で滑り出すことになった。
{% oembed https://twitter.com/ThePGstats/status/1092335964935110658 %}
[表彰式を見守る日本勢。]
「やっぱMkLeo、強かったね。」
会場の明かりが戻ると、観客はスタンディングオベーションとなり、一つ「終わった」という区切りを感じた。表彰式のカーテンコールに、観客は拍手を送った。Zackray さんのメダル授与と、MkLeo の戴冠を、日本勢は客席から眺めている。厳密には、見守る者・ツイッターを見る者でスタイルは明確に分かれていた。
![“代替メッセージ”](/images/G6/スクリーンショット 2019-02-18 22.21.04.png)
[Genesis6 : Top24 結果]
Top24 の結果を見ると、いつにも増してアメリカの活躍が目立った。これが、 第二章 で述べたようなアメリカの大会環境の頑張りの結果であるなら、日本の大会もより努力せねばならないと感じた。この旅で観たものを日本に持ち帰り、また考えて行くことがあるだろう。
一つの大会の終わりは、新たなスマブラの始まりである。実際にこの大会の結果を受けて、Zackray さんは『Smash Summit』(高名な Beyond the Summit が主催しているスマブラ向け招待制イベント)への招待が決まった。その名の通り、この大会は Genesis(創世記)なのだ。Syd や筆者のように、また誰かの試合を見てシーンへ足を踏み入れ、我々と出会うプレイヤーが現れる日を、心待ちにしている。
だから、日本のプレイヤーでも恐れずに日本のオフ大会に来て欲しい。
晩飯
[会場出入り口。足止めをくらう日本勢。]
表彰式が終わり、シアターからは蟻のように観客が外へ向かった。既に日付は越え、疲れた重い足取りの観客が今日のことを話しながら歩いている。
会場を出ると、しきりに雨が降っていた。会場前のモギリの所で、大勢の客が足を止めている。
「マジかよ」
日本勢が自然と口にした。雨ばかりはしょうがないので、短い距離だが、Uber を呼んでホテルへ帰った。(やはり命が惜しいならばUberは入れておくべきである。この状況に当たってからタクシーを呼ぼうとしても不可能。)
ホテルへ到着。1時を過ぎていたが、例の台湾料理屋は開いていた。腹が減っていた日本勢は、総出で向かった。
[台湾料理屋に座り始める日本勢]
店に入るまでは、各々 Top8 を振り返って神妙な顔つきをしていたが、いざチャーハンが出てくると必死で皿にひっついた。考えて見ると、今日は全然食べ物にありついていない。肉とチャーハンばかり注文し、回転テーブルで欲しいメニューを自分に寄せて好き勝手に取った。食べながら店の向かいの建物にパトカーが2台到着して警察が登場したが、全く気にせず食べた。
店を出ると土砂降りの雨がまだ続いていたが、日本のスマブラSP勢で真夜中のオークランドを走った。余り憶えていないが Abadango, Takoman, Rain, Zackray, Shogun …路地の1階建ての店は殆ど閉まっており、街灯と信号機くらいしか明かりはない。車の来ない深夜の交差点で雨に打たれてアホみたいに待ち、青になるとダッシュで渡った。ホテルはそんなに遠くはない。(Umeki, Shuton は Uber で帰り、Nietono さんはホテル部屋で寝ていた。)