Evo2019 がありました。スマブラが他の格ゲーの前に現れるイベントでした。それに限らず CEO, NCR, SCR, Combo Breaker, Stunfest… といった大会でスマブラと格ゲーが共存することが増えたため、格ゲーをしている方がスマブラの画面を見るための知識を共有できればと思いました。
本当は Evo 前に書くことが理想的だったのですが、あまり余裕がなく今になりました。今回はスマブラの中でも、最新版「スマブラSP」についてです。私が普段格ゲー勢に対してスマブラの観戦を説明するために用いている内容を文章に起こしました。こちらを読んだ方が、普段格ゲーで絡んでいる友達同士にスマブラの試合を説明出来るようになれましたら理想的です。説明が難しくとも、少しばかり知識を見せて会話で優位に立てますと喜ばしいです。
逆に、格ゲーの知識が前提となっています。他のゲームの方や、ゲーム未経験の方には難しい内容かと思います。それを踏まえてお読みいただけると幸いです。
※文中で登場する「格ゲー」は「格闘ゲーム」と同義です。また、格ゲーもスマブラも60fps(60F毎秒)という前提で話します。時間の単位「1F」とは 1/60 sec のことです。
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Evo2019より
。蛇足ですがスマブラ海外大会での見所といえば、フシギソウの声が日本人的にはすごく面白い点です。低く勢いある声で「アイーッ」「ソオッ」と叫んで来ます。]
全体
スマブラは「2Dアクション」です。スマブラが格ゲーに入るかどうかは英語圏も含めて議論に諸説がありますが、今日は「2Dアクション」と理解頂いた方が差異について頭に入りやすいかと思います。このスマブラ式2Dアクションが「2D格ゲー」とどう異なるのかと云われますと、以下に大別されるかと思います:
- ダメージ制ではなく撃墜制
- ジャンプアクションが多彩
- 上段下段がない
- ステージと崖
今日のところは以上とします。
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Evo2019より
。スマブラは上位プレイヤーが若いことが特徴で、Evo2019では日本からも高校生がTop8入りしました。アドリブやその場での状況判断が必要になってくる、と云われています。]
「撃墜」というのはスマブラ独特の概念です。スマブラをプレイされたことがある方はご存知ですが、相手にダメージを入れると相手のノックバック(ふっとび距離)が増し、最終的には相手をふっとばして画面外へ押し出すことが目的です。この押し出しを「撃墜」と云います。基本的には3回撃墜されれば敗北で、この3回分のライフを「ストック」と呼びます。
撃墜以外の面では、全体的なアクション性は “2Dマリオ”(スーパーマリオブラザーズなど)を想像頂くとイメージがわくかと思います。例えば格ゲーではスティック入力では走行が出ませんが、スマブラではスティック入力で歩きと走行が使い分けられます。
では撃墜以外の面について、詳しく項目別に以下見ていきましょう。(上の箇条書きとはことなる順番ですが気になさらないでください。)
攻撃
はじめに根幹となる攻撃技の名前を申し上げます。スマブラでは攻撃の種類に「A」と「B」というボタンがございます。正式には「通常攻撃」と「必殺技」と名付けられています。この呼称は格ゲーと似ているかと思いますが、スマブラ勢は A, B の方の呼称で説明することが一般的です。
スマブラのA技、つまり通常攻撃にはつよさの段階があります。3段階です。通常攻撃のつよさ段階を格ゲー・スマブラで比較しますと、呼称は以下のようになっています:
- 格ゲー:弱→中→強
- スマブラ:弱→強→スマッシュ
必ずしもどの格ゲーでも「弱中強」という並びではありませんが、注意して頂きたいのは、スマブラの「強」は格ゲーで云う「中」であることです。大会実況を聞く際に注意しましょう。なにせ “スマブラ” ですから、スマッシュが最強と憶えましょう。
また、コマンドの入力方向は数字ではなく方向で呼びます。つまり「2B」ではなく「下B」と呼びます。斜め入力は存在しますが、技に斜め入力は割り当てられていないため、コマンドは「上・横・下」+「A・B」の組み合わせで構成されます。
ジャンプ
続いてジャンプについてです。
スマブラでは空中で動けます。格ゲーでは、ジャンプは入力した時点で着地地点が決まっている(空中ダッシュをしない限り)ことが一般的かと思います。しかしスマブラでは、空中で横慣性を調整することができます。ここはまさしく2Dマリオと同じです。更に落下に「急降下」を選択することも出来ます。こちらの横慣性・急降下については、画面を見ていても分かりづらいので気にされなくても大丈夫です。ただ、読み合いにはなっていますので、説明される際に材料として話題に挙げてみてはいかがでしょうか。
小ジャンプがあります。こちらは『King of Fighters』にも登場する概念で、ボタンの押し方によって大ジャンプ・小ジャンプの調整が可能です。
ジャンプ中の技は、「ジャンプA」よりも「空中A」と呼ばれることが一般的です。正式には「空中攻撃」です。B(必殺技)の方は、空中と地上で性能が異なることが稀のため「空中B」と呼ばれることは有りません。そのため、大会実況で「空中前」といった類の表現(空中+方向名)が聞こえましたら、確実に空中でのA(通常攻撃)です。
シールド
スマブラではガードではなく「シールド」が存在します。
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大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL 公式サイトより
。シールドの外観。まず、こちらの公式サイトの説明は視覚的に非常に明解なため、ご参考になると思います。]
違いが有るのですか?と云いますと、かなりあります。基本的な概念は同じなのですが、そもそも:
- スマブラには上段・下段 の概念がない
- シールドにはめくりの概念がない
- シールドは方向入力ではなくボタン入力
といった理由から、シールドは簡易的に全ての攻撃が防げる強力な “ガード” となっています。ボタン入力さえすればつかみ行動以外には完全に無敵になるシールドは非常に強力なのですが、それに見合ったトレードオフが存在します。以下を御覧ください:
■ シールドは減る
シールド最大の弱点です。出しっぱなしにしておけば時間経過で減ります。攻撃を受けると減ります。シールドが有る範囲しかガード判定がないため、減った分だけ喰らい判定が露出します。そしてシールドが減り切るとスタン状態に陥ります。
{%oembed
https://www.youtube.com/watch?v=2vkVTgo0yM0&t=11m38s
%}
[動画:スマブラ史上最も有名なシールドクラッシュ, 所謂スタン状態。前作『スマブラ4』での試合ですが、いかにスマブラのシールドは儚いかを表す戒律です。全開のシールドが技2回をガードしただけで…]
また、スマブラは所謂 “弾”(飛び道具)が強烈なゲームとなっています。それをかわすための運動神経、もしくは華麗なシールドさばきが求められます。地上戦にてシールドでガードをしながら接近しようと思っても、シールドは時間と共に減ってしまうため、ジリジリ近づくには適時のみシールドを出すスキルが必要です。
ちなみに意味が分からないと思いますが、スマブラSPでのパリー(ジャスガ, ジャストシールド)は、ガード発生ではなくガード解除を相手攻撃に合わせると成立します。
■ 振り向きはセルフサービス
まず、スマブラはガード解除に時間がかかります。最新作スマブラSPですと、11Fです。その上で、スマブラはアクションゲームですから、自動で相手キャラの方を向く仕様はありません(一部の例外を除く)。すると想像してみましょう:相手が自分に対して飛びからめくり行動を出した場合、自分はそれをシールドでガードしたのに、ガード解除に11Fをかけて尚且振り向きを入力せねばなりません(ガード解除を待たずに振り向き入力をしてしまうと、以下の「緊急回避」が “暴発” します)。その後ようやく攻撃のコマンドを入れることになります。振り向き入力と攻撃入力が混同してしまうとやはり “暴発” になります。シールドがいかに強い仕様といえどもスマブラではめくり攻撃が作用することが分かるでしょう。
その代わり、スマブラには “ガーキャン” が有ります。限定的な行動しか出せませんが、か弱いシールドを輔ける必須な行動となっています。詳しくはこちらを御覧ください:
【スマブラ】脱・初心者!シールドキャンセルを攻略しよう - Smashlog
そのほか、詳細で多様なシールド仕様の数々については、こちらのスマブラ名物 “検証wiki” にございます: シールド - スマブラSPECIAL 検証wiki
緊急回避
シールド(ガード)の延長線ですが、『King of Fighters』シリーズにも登場するあの仕様です。緊急回避とは、無敵(喰らい判定の消失)になりながら移動するコマンドのことです。地上はシールド+方向入力、空中でもシールドを押せば出せる簡単な無敵行動です。発生の前・後に隙が有ります。初心者であればこの隙を狩るのは難しく、緊急回避は多用されます。
ただ、一つの例外的存在「その場緊急回避」が有ります。これは地上で、移動なしでその場で無敵(喰らい判定の消失)になる緊急回避です。なぜか最新作スマブラSPではその場緊急回避は後隙を行動でキャンセル出来ます。するとキャラが具体的には:
- シールド→無敵→攻撃
といった順番で動いてくることとなり、オンライン対戦でこんな不条理な行動を喰らって負けると自分の拳が画面を貫くことになります。この凶悪な「その場緊急回避」は現在のメタゲームに大きな影響を与えています。具体的にどう与えているかを書きますと煩雑になるため、これをお読みの格ゲー勢は「その場緊急回避はメタゲームに影響を与えている」とお友達にご説明ください。これだけで知識人に聞こえます。
詳細がどうしても気になる方は、スマブラ名物 “Smashlog” のこちらの記事から御覧ください。有名プレイヤーの Abadango 著です:
【スマブラSP】本当は教えたくない最強テクニック『その場回避』の使い方 - Smashlog
コンボ
一言で表しますと、スマブラには「確定コンボ」は有りません。
有るのですが、ここは無いと云っておきましょう。例えばここに試合序盤で P→Q と確定するコンボルート(コンボレシピ)が有るとします。ただこのルートは、後半になると確定しなくなります。スマブラSPでは、相手の被ダメージ量・自分の被ダメージ量の双方に依存してノックバック(ふっとび)が変わるからです。すると試合中盤で同じPという技を当てても、相手のふっとび方は序盤とまるで異なるため、P→Qは全く同じ景色で確定はしなくなります。これは、格ゲーで云う「確定コンボ」とは異なるかと思います。
逆に、序盤は確定しないくせに中盤以降・終盤などから確定しはじめるコンボルートも有ります(被ダメージによる硬直の変化なども原因です)。そんなルートを P’→Q’ と置くと、特に Q’ を当てると撃墜となる場合、そのルートはそのファイター(キャラ)からは重宝されます。
[
Game8さんより
、インクリングのコンボ説明。様々なコンボの説明が記載されていますが、いずれも条件付きです。]
試合の実況では「確定帯を逃す」という意味不明の日本語が聞こえることが有るでしょう。例えばインクリングは相手の被ダメージ量が貯まると「つかみ→空中上A」が撃墜を狙える確定コンボと成ります。しかし、相手の被ダメージ量が貯まりすぎると再び確定しなくなります。このコンボからの撃墜が確定するダメージ帯(場合に依りますが例えば80%-100%など)を「確定帯」と呼びます。確定帯が過ぎてしまい、相手の被ダメージ量が増えているのに撃墜が出来ない状況を「確定帯を逃す」と表現します。…ダメージを蓄積させているのに不利になる、これがスマブラです。
※空中上Aは正式には「上空中攻撃」なのですが、ここでは便宜上空中上Aとしました。
また「ずらし」の概念が有ります。これはスマブラシリーズで、攻撃を喰らう側がスティック入力をするとノックバック(ふっとび)の方向が少し変わるというものです。つまり、コンボ中に喰らう側の入力さじ加減で、攻める側がコンボルートのヒット確認をせねばならないということです。
コンボ補正は存在しません。(代替で「OP相殺」という少し似たシステムがあります。)ただ、ダブルアップの概念が存在するため、気になる方はこちらを参照してください↓ 【スマブラSP】コンボ火力を上げる発展テクニック「ダブルアップ(補正切り)」とは? - Smashlog
崖
Theスマブラです。
スマブラの試合を観るとき、そこには状況は二つしかありません。Neutral Game と “崖” です(※これは極論です)。Neutral Game は格ゲーでも最近日本語で使いますが、地上でお互いに足をつけて立ち、立ち回りの状態に入っていることです。一方 “崖” とはスマブラ独特の状況で、ゲームを決定づける非常に重要なポイントです。相撲の土俵際であり、テニスでのネットプレーであり、ボクシングのロープ際です。
崖とは何でしょうか?アクションゲームでは崖がつかめます;ゼルダの伝説でも・マリオ64でも・PUBGでもジャンプして崖際へ手を伸ばせば崖につかまります。スマブラはこの要素を取り入れています。
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ウメブラSP4 より
。黄色いスターフォックスが崖をつかみ、赤いロックマンが崖上で構えています。]
スマブラの対戦ステージは広大な空間の中に足場が浮いている形式になっています。分かりづらいですが対戦ステージの中のこの空中に浮かぶ足場を「ステージ」と呼びます。ステージは両端が手でつかまれるようになっています。スマブラをプレイして、崖を掴んだことのない方はいないでしょう。
しかし、崖を掴んだ後に出来ることを具体的にご存知でしょうか?崖を捕まっている側は、崖を上るためのコマンドとして以下の4パターンしか行動が用意されていません:
- 通常上がり
- 攻撃上がり
- 回避上がり
- ジャンプ上がり
ゲーム側はこの4つしか想定していません。それ以外の選択肢は、プレイヤーが深く考えた上で出す裏択(頻度としてはマイノリティの選択肢)に過ぎないので今は忘れていいです。
いずれにせよ、崖の上に居る側が崖を掴んでいる側に対して非常に有利なセットプレイです。上手く行けば崖を上る行動をとがめつつ再び崖の外へふっとばせば、崖の状況のループへ持ち込めます。ここでダメージを稼ぐことが出来ますし、あわよくば撃墜に持って行くことが可能です。
崖については複雑なシステムが有り、他にも 崖奪い・2Frame Punish といった側面があります。崖についての詳細はこちらの記事を御覧ください。:
対戦ステージ
試合でのみ発生する「対戦ステージ選択」という概念。これはゲーム内要素ではなく、大会を開く際に採用される人為的なルールです。
例えば『鉄拳7』の公式プロツアー『TWT』では、1戦目ランダム・2戦目以降カウンターピック方式となっています。対戦ステージによってキャラ性能が左右されるゲームタイトルでは、どこで戦うかは非常に重要な要素になります。スマブラではこの対戦ステージ選択を、Ban/Pick 方式で行います。
「Ban/Pick 方式ってなんぞ…?」と思われるでしょう。簡単に申しますと、対戦者で交互にイヤな対戦ステージを消して行き、残った場所で対戦するという方式です。2戦目以降は、直前のゲームの敗者が好きな対戦ステージを指名します。
{% oembed https://www.youtube.com/watch?v=yEsF5h31qeA %} [こちらの動画で実際の流れをデモしています。]
少し具体的な話をします。スマブラを経験された方は「ガチ勢ってどうせ “終点” 固定なんでしょ?」という偏見があるかもしれません。が、実際 “終点” という対戦ステージは空中床(台)のない特殊で偏った場所となっています。格ゲーで云う “投げキャラ”・“弾キャラ” が非常に強い環境となります。そのため、 “ポケモンスタジアム2”, “ヨッシーストーリー” といった対戦ステージが世界的にも実戦選択率が高くなっています。
…2D格ゲーでも、空中に床があれば弾がもっと弱くなるでしょう。
以上
今日はこんなところとなります。逆に云うと、間合い管理・跳び・対空・すかし投げ といった要素はスマブラにも有ります。
結構話してしまいましたが、スマブラ勢がご覧になると「まだここが」という点があると思います。今回は要点のみ集めましたので、もし追究されたい点がございましたらより詳細に書かれたい方への余白といたします。他にもスマブラと格ゲーの違いを挙げたものでは以下がございます:
また、スマブラの対戦環境についてより知りたい方は、以下のインタビューもございます。過去の作品のものですが、十分な説明になっています:
おまけ:コンテンツ
スマブラはそもそもゲームの出来が良く、特にスマブラSPは史上最高の1on1ゲームという意見も有ります。そのため、ゲームだけやっていれば十分楽しいのですが、今スマブラの魅力はゲーム外の部分:コミュニティの力にもあります。
全国にまたがるユーザー大会、それによって増加するスマブラファミリー、ファミリーの作成する常時コンテンツ。常に楽しむことのできる、国内最大規模のUGCネットワークとも云えるのではないでしょうか。
ユーザー大会はこんな雰囲気です: {% oembed https://www.youtube.com/watch?v=QhYI0NDWrpc %} [ウメブラJapanMajor, PV]
鮫木さんがスケジュールを常にアップしてくださっているため、国内大会を追いかける際はこちらを御覧ください:
スマブラ観戦を楽しむには、ゲーム内要素のみならずプレイヤーの趨勢がお分かりになった方が良いことは当然でしょう。プレイヤーランキングではこちらを御覧ください: 『スマブラSP』:2019年<上半期>国内プレイヤーランキング トップ30 - RedBull
シーンの歴史についてのインタビューも、2017年にございます。スマブラシーン20年の歴史が伝わって来ます: 『スマブラ』で一番を目指すプレイヤーたちの歴史がここに。EVO参戦までの国内競技シーンを紐解く(第1回 運営編 前編) - AUTOMATON
今日かなり引用しました「
Smashlog
」にも様々な情報が載っていますが、もっとゆっくり楽しみたい方にはスマブラハウスもコンテンツとしてオススメです:
スマブラハウス チャンネル
駆け足で説明しましたが、こちらがオススメのゲーム外コンテンツでした。みなさんも沼にはまりましょう。
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