恋心は超グリーディ

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Dec 20, 2022 - gamerlogy tournament philosophy

トーナメントの語源

トーナメントとはなんでしょう?いろいろ理論を語る前に、これは確認しておきたいと思って調べました。

今回の内容は、 「こみゅリポ Advent Calendar 2022」 で用いるものです。

今回について

今年はトーナメントサービス “Tonamel” コミュニティマネジャーの 山田哲子 さんが主催する伝統 Advent Calendar イベントです。私も例年なにかしているので、今回も何か書くことにしました。

[今回の 「こみゅリポAdvent Calendar 2022」

導入

ゲーマーは「トーナメント」の概念に非常に詳しいです。

たとえば、野球・サッカーに詳しい人に「スイスドローとダブルエリミのメリット・デメリットをどう考えますか?」なんて訊ねても、普通は「なんのこっちゃ」という反応を貰います。しかし、PvP タイトルの大会を視聴しているファンに対して同じ質問をすれば色々な主義主張を頂きます。競技性や勝負の公正性について、ゲーマーは異様にこだわりがあります。

ゲーマーはなぜここまで、トーナメントや大会の仕組みにこだわりが有るのでしょう?そこを追い求める前に、トーナメントという存在の歴史についてまとめておきたいと考えました。

“代替メッセージ”
[おそらく殆どの方が「トーナメント」と言われて思いつくもの。 The New York Times より]

トーナメントの語源

早速「トーナメント」の語源を探ってみましょう。トーナメントは英単語ですので、英語の辞書から探ります。“Tournament”(トーナメント)とは、Oxford Languages ですと:

Middle English (in tournament (sense 2)): from Anglo-Norman French variants of Old French torneiement, from torneier ‘take part in a tourney’ (see tourney).

要するに「tourneir を見よ」と書いてあります(註1)。細かい説明は省略しますが、tourneir という単語は古アングロノルマン語で、この単語は “tourney” へ変化しました。Tourney とは「馬上槍試合」のことです。
現代人でもなんとなくイメージがあると思いますが、馬上槍試合とは中世の重騎士が槍で小突き合う “スポーツ” です。

念の為ですがここで確認しておきます。World History Encyclopedia での Tournament に関する解説を見ると(註2):

Over time the two expressions have become synonymous for any gathering of knights for the purposes of sport and display of pageantry and may refer to a part of, or the whole of, such an organised meeting.

とあります。中世の tournament/馬上槍試合 という単語が、現代になって「大会」一般を指すようになったとのことです。

“代替メッセージ”
[現代でも行われている馬上槍試合のパフォーマンス。 こちらの動画から

それでは、「馬上槍試合」という単語はどのようにして現代の「トーナメント」という一般名詞になったのでしょう?その経過を辿ります。

馬上槍試合について

それでは次に tourney(馬上槍試合)を見てみましょう。Tourney/馬上槍試合 の語源はどこにあるのでしょうか? Oxford Languages にはこうあります:

Middle English: from Old French tornei (noun), torneier (verb), based on Latin tornus ‘a turn’.

(註3)つまり “tourney” という単語は “turn”(ターン)から来ているということです(註4)。

馬上槍試合に馴染みがない方はここで疑問符だと思います。少し説明します。
騎士と騎士が一騎打ちをする “スポーツ”(= 真剣な果し合いや決闘ではないという意味)である馬上槍試合は、12世紀ごろからイングランドやフランス周辺で人気になりました。当時はインターネットや印刷技術もありませんから、馬上槍試合は王族や有名騎士が自分の城で開催することを決定し、手紙やお触れで告知するものでした。そして「我こそは」と思う騎士が装備一式と馬を持って現地へ集まり、試合が行われます。
日本の武家政権や流鏑馬が発展した頃と同じ時期に発達したことになります。

Tournament という単語はアーサー王の騎士道物語にも登場するため、16世紀のヨーロッパでは広い地域で親しまれた単語なのかと推測できます。

“代替メッセージ”
[Tourney を描いた絵。24人で1チームの部隊が向き合う。Turnierbuch des René von Anjou, Paris, Bibliothèque nationale, Ms. fr. 2693. Public Domain.]

注意せねばならないのは “tourney” 自体は厳密には団体戦だということです。上図のように武装した騎士が集団で1チームを形成し、試合が始まったら正面からぶつかり合います。衝撃で落馬した人は脱落し、残った人がくるっと折り返してもう一度衝突します。片方のチームが全滅するまでこれを繰り返します。このように「くるっと折り返す」=「ターンを行う」から、tourney と呼ぶということです。

おそらく多くの人がイメージしたであろう「1対1で槍でぶつかり合う」形式の馬上槍試合は、joust(ジョスト)と呼びます。はじめは tourney と言えば団体戦でしたが、時代が経つにつれて個人戦の joust が人気になって行ったことが広く知られています。
現代の「トーナメント」という表現は、1対1で対戦して行き、勝った方が生き残って次々と対戦するものです。この方式は joust に基づいています。ならば厳密に言えば現代の「トーナメント」も呼称は「ジョストメント」にしたほうが良いのでしょうが、馬上槍試合を総合して呼ぶ単語として tourney/tournament の方が歴史上は残ったようです。

※ なお、馬上槍試合では団体戦・個人戦とは別に、全員が入り込んで乱戦を行う melee(メレー)というルールも存在します。Melee は現代でも「近接攻撃」や「スマブラDX」という意味としてゲームにも残っています。

これで “turn”(ターン)という単語から tourney になり、現代の tournament になった流れが分かりました。めでたしめでたし、です。

馬上槍試合のオワコン化

いつもの私の Twitter であれば「語源を調べておしまい」なのですが、今日は一歩踏み込みます。12~16世紀ごろにイギリス〜フランスで発生した馬上槍試合から、現代に至るまでどのように「トーナメント」という単語は継承されて来たのでしょうか?

再掲ですが World History Encyclopedia (註2)では:

16世紀にフランス王が joust で命を落とすと、人気がなくなった。また、騎士よりも火薬が戦場の主役となり、joust の需要は落ちて行った。

とあります。
たしかに自分の習った世界史を振り返ると、イタリア戦争や絶対王政の時期を経ると騎士の魅力は下がり、火力や作戦が重視されるようになったはずです。ならば「トーナメント」の概念はどのように維持されたのでしょうか?騎士の人気終焉とともに「トーナメント」という単語も死語となって廃れる道もあったと思います。

調べてみたところ、17世紀イングランドではまだ辛うじて馬上槍試合は存在していまた。
17世紀前半、イングランドのエリザベス一世, その後のジェームズ一世の治世では “Accession Day tilt” というイベントが行われ、馬上槍試合がありました。しかし徐々にイングランド、およびヨーロッパ全域で「わざわざ人を槍でドツき合うイベント」は影をひそめたようです。代わりにイベントで用意された催し物は “メリーゴーランド” であるとの記述があります(註5)。

“代替メッセージ”
[17世紀のメリーゴーランド (carousel)。 出典 。馬上槍試合をしなくなった代わりにオシャレをした騎士が城を歩き回るようになった。]

こうして馬上槍試合がなくなってしまったのならば、近代がはじまる18世紀や・産業革命が起きた19世紀に「トーナメント」という単語はどう生き残ったのでしょうか?

スポーツの登場

18世紀は、まさしく「トーナメント」の分岐点となります。現代で言うスポーツの登場です。

2021年に出版された “Sport in History” 内の論文には、スポーツ史の総括があります(註6)。そこから気になる点をかいつまんで列挙します:

  • かつてスポーツは産業革命(19世紀)以降に発展したと考えられていたが、最近は近代の早い時点(18世紀)で発展したと考えられている。
  • スポーツはクラブ文化として発展した:コーヒーハウス・マスコミ(press) といった文化と並行して。
  • 18世紀に wrestling, cricket, archery, bowling… といったスポーツが登場し、tournament という語彙が使われている。

こうした情報を基に、18世紀のスポーツでは既に「トーナメント」という単語が「競技的な大会」という意味で一般的に広く使われていました。どこで切り替わったかハッキリ線引をすることは私には難しいですが、馬上槍試合を指していた「トーナメント」という単語は着実にスポーツに引き継がれていました。

“代替メッセージ”
[18世紀クリケットの挿絵。 出典

産業革命後

19世紀になると football tournament という単語が見られるます。その世紀の終わり1894年にはオリンピックの概念が提唱されるため、スポーツやトーナメントという単語の使用方法は現代と繋がるようになります。

19世紀は産業革命が起きた時代でもあります。その結果、人は都市に住むようになり、地域の繋がり以外にも趣味の繋がりを持つようになりました。こうした時代の変化は、過去のブログで少しまとめています;

こうした変化がスポーツやトーナメントと繋がっていることは自然と納得できるでしょう。

ちなみにですが、 “Eglinton Tournament of 1839” というイベントがあります(註7)。これは、既に当時「馬上槍試合」(tourney/tournament) はオワコンになっていたため、有志のメンバーで復活させようという試みです。これは地元スコットランドではよく知られている歴史的イベントのようです。
このイベントの存在から、色々なことが分かります:

  • 1839年の時点で tournament は「競技的な大会」という意味で一般名詞になっていた。
  • スポーツ事を観戦するという文化は定着していた。

こうした視点をふまえても、先の章で述べた「18世紀には既にスポーツは定着しておりトーナメントという単語が使用されていた」という現代の理論は納得が行きます。

“代替メッセージ”
[Eglinton Tournament of 1839 を描いた絵。これは乱戦をしているので melee。James Henry Nixon, 1839, Public Domain]

というわけで、12世紀にはじまり19世紀まで続いた「トーナメント」という単語の歴史を追いかけました。その結果現代の我々も「トーナメント」という単語を使うことが出来ています。

おまけ

上述の “Sport in History”(註6)では、興味深い視点を見つけました。

The term ‘fair play’ probably first emerged in the context of medieval tournament competition. But by the 1700s notions of ‘fairness’ and ‘fairplay’ were linked to gambling and to ‘gamesters’, ensuring that the formal articles of agreement were carefully agreed between participants, and that the specific rules of that contest were then followed, and bets could be paid

つまり、「フェアプレーという概念は賭博から生まれた」ということです。
確かに最初は馬上槍試合から「フェアプレー」という単語は生まれたようなのですが、馬上槍試合は自分で鎧を買って自分の馬で戦います。金持ちの方が強いです。そういったゲーム内での金の要素を排除し、よりフェアに・とにかく公正に戦うべきという発想が生まれたのは、18世紀のスポーツで観客による賭博が行われたからとあります。

私も大会運営について考える時「どうすれば公正になるか」ということをよく考えます。これまでのブログでもその主義が出ていたと思います。こうした概念はトーナメント・スポーツという概念と共に自然に登場したのだということを知り、しみじみ共感しました。

以上

今回は以上です。「トーナメント」の語源は馬上槍試合にあり、厳密には joust から来ていたような点。そしてそれが18世紀のスポーツに引き継がれた内容を確認しました。

本当はこのたび山田哲子さんにお題をおたずねして、すると「スマブラの〜〜で」とったお題を頂いていました。しかし、「それを説明するにはXXXが必要だなあ」と私が遡って行ったら、根源的な「トーナメントとは何か」にまで当たってしまいました。ねだっておいて直接のお題に答えられず大変申し訳無いですが、今回を書いた結果今後のブログが書きやすくなりました。

今回の内容はダブルエリミネーションやスイスドローの由来を調べるには至っていませんが、「トーナメント」という単語が20世紀まで生き残った経緯までは調べました。今後もし興味があれば、どなたかこうしたトーナメント形式の歴史について調べて頂けると嬉しいです。



  1. 他の辞書、たとえば Merriam-Webstar でも同様。 ↩︎

  2. World History Encyclopedia “Medieval Tournament”  ↩︎ ↩︎

  3. こちらも Merriam-Webstar でも同様。 ↩︎

  4. 英語 Wikipedaia では「1114年にエノー伯ボードゥアン3世がヴァランシエンヌにおける平和条例において「トーナメント」の言葉を用いたのが文献に現れる最初である。」とある。 『平和条例』の翻訳はこちら  ↩︎

  5. Volo Museum “The History of the Carousel” , The Works of Chivalry “The origin of the word “carousel””  ↩︎

  6. Mike Huggins, 2021, “Forms of competition in proto-modern eighteenth-century English sport: a tentative typology” URL  ↩︎ ↩︎

  7. Eglinton Tournament of 1839 について: Knights’ shields sold for £7500  ↩︎