恋心は超グリーディ

普段質問されることを文章起こした場所です。ライブ配信やゲームイベントにまつわるものです。もしくは、たまに筆者の趣味の文章が交じります。

Jan 6, 2020 - gamerlogy esports tournament

コミュニティ大会運営をする時に考えていること2020

自分がコミュニティイベントを運営する時に考えていることです。すみません、こちらの記事は9000字ほどあります。

なぜ今コミュニティイベントなのか

日本では企業主催イベントは足りています。

前提として、筆者は普段 Twitch 社の業務で企業イベントに絡むことが多いのですが、就職前から現在に至るまでユーザー主催イベントの『ウメブラ』(スマブラシリーズでのオフ大会)スタッフをして来ました。こういった二面性を持った人間は実は業界にあちこちいらっしゃるのですが、立場上ユーザー主催イベントについての表立った発言が難しい方が多いです。筆者は知徳ともに優れませぬが、畏れを知らないため不届きながら記そうと考えました。

さて本題ですが、やはり日本では企業主催イベントは足りています。ファミ通さんや4Gamerさんを拝見しても、日々ゲーム・Esports等ユーザーが求める交流・競争の場は目白押しです。殊に2018年「eスポーツ元年」が謳われて以降、企業イベントは増えたと考えています。日本で企業が主催するゲームを用いた大会は本当によく詰められており、最も褒められるべきものです。

“代替メッセージ”
[東京ゲームショウ2019 での『eスポーツX』ステージ、の門。年に一度の文字通り大舞台です。 BCNさん『国も注目するeSportsの今 JeSU、活動報告で賞金問題に言及』より

しかし弱点があります:

  • 手間がかかる
  • お金がかかる
  • 故に一企業ごとに年1-2くらいの開催が限度

すると、たまに不便さを覚えることがあります。例えば筆者が新たにゲームを一本遊び始めた時に、「大会に出て実力を試したい」とまでは意気込まなくとも、「このゲームをプレイしている人たちに会いたい」と思うことがあります。そんな時に足を運ぶ場所がありません。公式大会・企業大会はいつも筆者の都合の良い時に待ってくれている訳ではありませんから。よく錯覚するのですが、日本にはゲーム会社・イベント会社が多いため、大会自体は多い国です。しかし、ゲームタイトルごとに縦割りで見ますと必ずしも足りていない場合があります。

※しかも最近は 犯行予告で中止になる大会 が出てきています。年1で唯一開催されるイベントが中止となった場合、プレイヤーはさぞやりきれない気持ちで路頭に迷うでしょう。

そんな時に「どこかで、オフラインでコミュニティイベント開いていたらなあ」と思う次第です。コミュニティイベント・ユーザー大会など業界の中で名を変えることは有りますが本文中では同じものです。(業界的にもコミュニティイベント = ユーザーイベント のように同義として解釈されます。)これらは、そこら辺で個人(=企業ではないこと)が開いている大会のことです。手軽に・好きな方式で大会を開いていることがメリットで、コミュニティイベントが根付いているゲームタイトルは、探せばどこかしら筆者でも足を運べる会が有ります。細かい話で法的・ビジネス的な観点で云えば「大会を開いている」というよりも、「個人的な集会」です。

そこで、わがままですが色んなゲームタイトルのプレイヤーの方に様々な大会をオフラインの場で開いて欲しいと思っている次第です。では「大会を開きたい」と思っている方に意識して欲しいことを筆者の視点でまとめました。非常に長いため、実際にゲームで個人イベントを開きたい方 or 開いている方でないと読むのは困難かと思います。ご了承ください。

※用語 「版元」 とは:「ゲームパブリッシャー」とも云われる用語です。そのゲームの販売権を持っている会社のことです。「ゲーム会社」は曖昧で、パブリッシャーなのかデベロッパーなのか不明瞭なため避けます。(例として、ポケモンはゲームフリークさんがデベロッパーであり、株式会社ポケモンさんが版元です。)

個人利用の範囲

まずこのパートは、自戒として意識しておいて欲しい気構えです。

コミュニティイベントは個人での開催のことです。ゲームにはたいてい「個人利用以外でゲームを使うと方に訴えます」(意訳)と書いてあります。この「個人利用の範囲」とはどこまで許容されるのでしょうか。

前提として、個人利用の範囲とはいえ版元に許可を取っていない限り「無許可」ですから、褒められたものではないと意識してください。そこはゲームタイトルごとの文化をよく調べる必要があります。(もしくは頑張ってゲーム会社さんとの伝手を作って交渉してみてください。)
筆者は「著作権を版元にツッコまれた時にアウトなイベント」を推進したいのではなく、個人利用の範囲内で版元も喜ぶようなイベントが増えて欲しいという主張です。イメージがわかない方は、ここに関しては(門外漢なので恐縮ですが)アニメ/マンガ業界と同人即売会の関係と同様であるべきと想像してください。

例えば、自宅に友達5人位あつまって対戦することは、セーフ(のはず)です。個人利用の範囲とは自宅を主に想定していると推測しています。それでは、Switch を持参して球場のスタンド席で友達と一緒にアウトドアで対戦することはいかがでしょうか?更には、貸会議室を借りて数十人で集まって対戦するのはいかがでしょうか?どこまでが個人なのか、議論になって来ます。
ここは本当に版元会社によりけりです。アメリカに本社があるようなメーカーならば(Valveなど)、どのくらいまでユーザーがイベントを開いて良いのかガイドラインがあります。そういったメーカーの free to play なゲームはコミュニティイベントが長期的に存在する方がゲームの長期的な収益にも繋がるためです。

“代替メッセージ”
[最近では、UBIソフトさんが個人開催の大会に関してガイドラインを出しました。海外メーカーのパッケージ買い切り型タイトルです。 「レインボーシックス シージ」を利用した非営利トーナメントライセンスについて

■追記 : コミュニティ大会に関するガイドライン・ライセンス情報まとめ オオギさんによる記事で、今あるゲーム会社によるイベントガイドラインの総まとめとなっています。

一方、日本メーカーのパッケージ買い切り型のコンソールゲームですと、ゲームが長期的に盛り上がってもメーカーの利益に余りなりません。逆説的にここがコミュニティイベントの存在意義です。パッケージ買い切りですとライトユーザーでもコアユーザーでもゲームにかけるお金は一定ですから、版元はより広い範囲のユーザーに広告を打ちたいです。そのため競技シーンという狭い世界に版元が予算を割くことは多い訳ではありません。例えばスマブラは国内で200万本以上売れますが、大会『ウメブラ』に来る人数は1回たかが1000人なわけです。そこで、コアユーザーが自主的に大会を開いてくれてコアユーザーの受け皿になるのであれば、版元にもメリットがおそらくあります。それでも精神的であって金銭的ではないですが。

(ゆえに補足しておくと、買い切りのゲームで個人利用の範囲ですから、コアユーザーの溜まり場にこそなれど、それ以外の役割は持てません。ましてや「売上に貢献している」「ゲーム会社のためになっている」という幻想は抱かないことが吉です。ゲームは国内だけでも何十万本単位で売りますので、会場に足を運ぶ人が何万人居るのであれば売上に貢献している可能性がありますが、そうでないならばユーザーの自己満足に過ぎません。)

このように、個人・コミュニティがゲームに一定の利益をもたらす場合があり、そのため「個人利用の範囲」がどこまで許容されるかは版元の判断によって匙加減が異なります。どのような判断をする時でも、まずはメーカー・版元ありきで、その許された範囲内でユーザーが楽しむ場所としてコミュニティ主催イベントは有るべきという戒めは今日の前提です。

おまけ

個人利用はどこまで許容されるか分からないという普遍的な性質ゆえに、日本ではユーザーがユーザー同士で「コミュニティ大会は版元に背く悪の行為」と考えていた時代があります。全てのゲームがそうでないにしろ、特に国内メーカーのタイトルで遊ぶプレイヤーたちはそう考える場合が多かったと筆者は個人的にに捉えています。

そういった背景のため、コミュニティイベントの開催について全然ノウハウが落ちていないことが、昔の筆者の苦労ポイントでした。これでは悪循環で、余計に日本のゲーマーは自分からイベントを開こうと思いません。そういった考えもあり、今回こちらを書きました。

営利

すみません、まだ注意事項が続きます。「営利」とは何でしょう。営利に当てはまりますと、個人利用の範囲を超えると考えられることが一般的です。もしくはゲームに「営利利用は駄目」(意訳)と書いてあります。この「営利」については、現在では 「会社法」 および 「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」 での定義を参照することが一般的です。ただし筆者は法の専門家ではないので参考程度に聴いてください。

上の法律で営利とは「利益を外に出すこと」が線引となっています。黒字であること自体は営利の定義に関わっていません。例えば、イベントを運営して挙がった黒字でスタッフにボーナスを出した場合は営利に当てはまります。これが利益を外に出すという意味です。他にも、黒字で主催者が自分へのご褒美を買えば営利です。一方、黒字を次回以降の開催で用いる機材購入に用いた場合は非営利に含まれます。…こんな具合です。
株式会社というものはボーナスが出ますし、株主に報酬がありますから営利に入ります。そのため「株式会社が運営に関わる赤字イベント」は、定義の上では営利に当てはまります。(ここを誤解されている方は企業イベントの企画者でも拝見して来ました。)

ただ、営利の線引は曖昧であることが多く、一律に線を引けるわけではございません。このように 公民館が営利目的の判断を一転させた例 もございます。

更に、屁理屈のようですがこれは法的な定義です。このように決まっているからといって、依然ゲームの版元が特定のコミュニティイベントに対して「これは営利目的と判定します」と宣言されましたら、そちらに従うべきです。これは今日の前提のとおりです。

よって、結論としてはコミュニティ大会は黒字になったら次回の会場費や機材購入などに使ってください、ただし版元の意向もお忘れなく、ということになります。

おまけ

「これゲーム会社に許可取ってるんですか?貴方のやっているイベントは犯罪行為じゃないんですか?」

と質問してくる大人がいます。特に、そのコミュニティに属さない大人です。

「ゲーム会社にご確認ください。」と返してください。筆者の経験上はこれ以外に答えはありません。

上でも述べたように、コミュニティイベントは版元に許可を取っていないですし(※中には取っているものも有ります)、名目上は個人使用の集会です。ただし、そのイベントは駄目か否かを決めるのは著作権者です。ゲームで云えば版元です。著作物の使用については版元が「駄目」と声を挙げてはじめて「駄目」になります。映像に限ってですが DMCA も親告制です( DMCAとは )。

日本のインターネットでは個人による有罪認定が人気で、「他人の著作物を使っていると即アウト!犯罪者!」と認定されることがあるのですが、完全に法に則るのであればそれは真ではありません。犯罪や刑事罰に当たるかどうかは警察でも判断することは出来ず、裁判所に委ねられます。文句を云う方は都合の良い部分だけでなくその辺も認識しておいて欲しいと願うばかりです。

定性的な内容ですが、日本のゲーム会社の方にも「コミュニティイベントを開いて交流を図っているユーザー」を快く思っていて「後押ししたい」と心の中で感じている方も比較的多くいらっしゃいます。

“代替メッセージ”
[コミュニティ大会『ウメブラ』。写真は Darimoko より]

定義

以上から、コミュニティイベントはこのような定義が取れるかと存じます:

  • ①ゲームについては個人利用
  • ②会計は非営利であり独立している
  • ③イベント運営の意思が独立している

①と②はほぼ同義で、一連の内容です。「個人」や「営利」の言葉の定義は曖昧であるということについては上記の通りご理解下さい。
③「意思」の部分は抽象的ですが重要です。③はどういう意味かと云えば「大会の開催日は企業の 都合/予算 で決まらない」とか「イベントの行程はこちらで全部決定できる」といった意味です。逆に「スポンサーの意向で会場は〇〇で開催せねばならず、回数も年N回と決まっている」となると、それは事実上の企業イベントと判定されることもあります。

これまで意識されていなかった方も、企業イベントとコミュニティイベントでこのような差があることをお見知りおき下さい。

イベントのコンセプトを決める

ここからようやく実践方法です。「じゃあどうやるの」について述べます。

まずは、最初に、第一に、大会コンセプトを決めましょう。日本の方ですと、「どのように大会を実行するか」「いかにしっかりして欠陥をなくすか」については、個人開催でも高いレベルでノウハウがあるのですが、どうしてもコンセプト等の抽象的な部分について軽視されがちです。

「試しに一回対戦会を開いてみたい」程度であればなにも考えずに良いのですが、大会を継続して開催しシーンを育てることを考える場合はコンセプトは必須です。コンセプトの設定をしないというのは、アスリート志望なのにやるスポーツを決めずに筋トレするようなものです。頑張っても効果は得られませんし成長に繋がりません。

大会のコンセプトとは具体的にいかなるものでしょうか。例えば以下のものが有り得ます:

  • 例1. 地元で最強を決めたい
  • 例2. 日本を世界に発信したい

コンセプトは2文で(2つの軸で)説明できるとより良いです。

  • 例1改. 地元で最強を決めたい。紳士お断りなアングラ大会。
  • 例2改. 日本を世界に発信したい。個性を活かしたインビテーショナル。

すると自分のしたいことがより見えてきます。2つの線で、面が規定される感覚です。これを基にアートコンセプトが決まり、競技ルール・対戦方式も合わせて行きます。特にお金やスタッフのリソースは有限ですから、なにかを取捨選択するときはコンセプトを基準に考えるべきです。

筆者の主義ですが、大会コンセプトが決まっておらず、アンケートのみでものを決めたり・周囲のイベントに迎合してルールを変えたりしていますと、キマイラのような大会になってしまいます。10年前の動画ですが、筆者はこちらが常に教訓となっています:


自民党公式チャンネルより, 2009年

見たことが有る方や、いま笑ってご覧になった方もいらっしゃるでしょうが、これを鏡に自分の運営が軸のないものになっていないか省みると背筋が寒くなります。

このようにコンセプトを定め・守ることは難しいです。もし「こうありたい」という具体的な像に限りなく近いイベントがある場合、コンセプトの輔助として掲げることも考慮すべきでしょう。コミュニティが先導するイベントは特にアメリカに多いため、なにかご自身の参考になるものがあることです。

似て非なる話ですが、大会でアートワークを作成するとき、筆者はゲームのイメージに寄せないようにしています。ここは好みの話で個人的な領域です。具体的に申し上げますと、『ウメブラ』のロゴや配信オーバーレイは全くスマブラに似ていません。
デザイナーさんに依ってはすごくそのゲームを好きであるが故に、ゲームの中のフォントや色を用いて大会ロゴ・配信オーバーレイを作成されています。ただこれですと版元が大会をご覧になった際に「公式大会に間違われるとイヤだなあ」という感想を抱くことがあります。そのためデザインはわざとズラすことを推奨しています。これも最初の「版元ありきで」の前提から来る判断です。
他にもデザインをズラす理由があり、それはコンセプトのためです。公式デザインを真似てしまいますと、どうしてもアイデンティティを失いがちです。「この大会は何なの?」と訊かれた時に独自性が分かるように、ゴージャスなのか・パンクなのか、アートワークからコンセプトを主張するのをオススメします。筆者はデザインの専門家ではなくむしろ運営の者なのでデザイン作成については素人なのですが、例としてウメブラについて書いた文章がこちらにございます。参考にどうぞ:

大会を盛り上げようとする余り、コミュニティイベントも企業イベントもどれも同じように見えてしまうと、個人的に一番残念です。なにを求めているのか、独自性を意識するべきです。

“代替メッセージ”
[アメリカで毎年開催されるスマブラ向けコミュニティ大会『Genesis』。アメリカのコミュニティはいつも筆者の文化的・技術的目標です。写真は Robert Paul より。]

ルール

ルールとは、会場で守るべき規則やゲームに関する試合設定(例:オープン/招待制・N本先取・トーナメント形式・予選N人抜け etc)のことですが、ここでは大会での行程・内容(例:競技とは別にフリー対戦台を設けるか・物販ブースを設けるか・有名プレイヤーのサイン会を設けるか etc)も含めて説明いたします。

ルールは、コンセプトに合うように順に決めましょう。筆者の主義ですが、ルールとはコンセプトを文章化したものであり、そうでなければルールは形骸化しています。法律や条例は必ず最初に目的(コンセプト)が書いてあります。 例: 神奈川県青少年保護育成条例

例えば、大会でコンセプトで「最強を決める」と謳っているのに参加方法が抽選だったりしますと、筆者は疑問に思うわけです。時間を操ることは出来ませんから、時間の都合上参加者数が有限の場合は、一定の強者には優先参加権を与えるべきです。そうでないならば「最強」のコンセプトを看板から降ろすのが丸いと考えます。

具体的で細かい内容となりますが、ネットでの評価(例:ツイッター上の感想・ライブ配信のコメント欄)を参考にイベントの中身を変える際は非常に慎重に、正当性を持った理由を待ってから為すべきです。これは認識すべき重大な課題ですが、オフラインイベントを開催するとそれをどうしても失敗したものとして評価を下したい人間が存在します。 現地には決して行かずイベントが開かれているところを映像だけから判断して「会場冷えてるな」とか「犯罪者が集まってるクソイベント」といった評価を書き込んできます。これに従っては思う壺です。
最も考慮すべきは、会場に来ていた人達がどのように感じていたか・なにが楽しかったかを認識することです。難しいことは承知の上ですが、スタッフは会場現地でなるべく多くの初対面参加者に声をかけて会話をすると効果的です。
例えば自分の大会が「祭」をテーマにしていた場合、「賞金もないクソ大会」とネットで云われても次回以降必ずしも賞金を検討しなくて良いはずです。逆に参加者の方が「もっと声が飛び交って欲しい」と云うのであれば、率先してスタッフがフロアから声出しをするべきです。この2点がどのように祭に合致し・合致しないかは自明かと思います。参加者の方が「賞金が欲しい」とおっしゃった場合もこの例で云えば「祭」に「賞金」が必ずしも必須でないため従うべきではないのですが、筆者の経験上、イベントの運営は参加者よりもネットの意見をルールに反映しやすい傾向があると感じているためここに記しました。なにもオッカムの剃刀のようにコンセプトに合わないものはイベントから全て排除すべきと論じているのではありません。イベントにリソースは有限ですから実現できるものも有限な訳で、であればコンセプトに合わないものは実現の優先度を低くしましょうと申し上げています。これがコンセプト・ルールとネットの意見に関して言わんとする所です。

ゲーム内ルールについては各ゲームタイトルによって固有のものですから筆者が今ここで口出し出来るものではありませんが、ルール設定に自信が無い場合は「他の大会がみんなこうやってるから自分もこうしよう」というマインドは捨てて、まずは「自分のコンセプトに一番近い大会はコレなので、この方式を真似しました」と云えるようにしましょう。運営で必要なノウハウだったり設営のイロハは、実際に手を動かしてミスりながら覚えられます。筆者がアドバイス申し上げても文化の違う界隈はこの現地で手を動かすことに関しては余り参考になりません。

参加費と賞金

参加費は、アリとナシでは「なるべくアリで」が筆者の主義です。

休日に1日参加できるイベントを開いたら1000-2000円は参加費を取るのは当然、という考えは納得いただけると思います。カラオケでもボウリングでも遊べば数千円はかかりますし、ディズニーランドでは 休日7500円/平日夜4300円 です。そのため大会の参加費が2000円であっても、時間に対する遊びの対価としては真当な相場かと考えています。コミュニティイベントでも勿論お金がかかりますし、これを運営個人の財布だけに頼るのは理想的ですが、それだけでは「様々なゲームタイトルで誰でもイベント開催出来る持続可能な環境」は実現できません。また、界隈に無料イベントが出てきてしまいますと他の有料イベントが持続不可能になったりしますので、公式大会以外は一律で参加費を取ってしまうのが第一に考える手かと思っています。ちなみに「大会って会場費以外に何に使うの?」という点が疑問な方はこちらを御覧ください:

過去に「私はイベントの裏方を仕事で専門にやって来ましたが、参加費は無料が常識!」と主張をしてくる方がいらっしゃいました。確かに日本のゲームイベントは無料が多いです。日本のゲーム業界で開かれて来た「公式大会」はゲームのプロモーションの一環であるため、参加費が無料であることが一般的です。ここではじめに書きましたが、日本では企業イベントが多く、コミュニティイベントが不足気味です。それで比較したときに、参加者側は無料イベントが目につくことが多いからコミュニティにも無料を求めてしまうのかなあと推測します。

そのため、参加費は上述の「営利」にあった非営利の範囲内でご活用出来れば良い、と筆者は考えています。

勿論こちらも版元の意向が分かるのであれば従うべきです。筆者が述べておきたい点は、一律に参加費を取ることが悪という訳ではないですし、版元も大会には費用がかかることを理解される方も多いということです。一方で、無料ならばそれで須らく良い訳ではないということです。

特に 「IPモノ」 のゲームですと、版元が「参加費を取るコミュニティイベント」を怖がる場合もあります(実際に有りました)。ゲームの版元すら権利をコントロールできないため(どこか別の会社が金の有無に関する権利を握っている)です。ゲーマーは信じられないかもしれませんが、ゲーム業界は寛容です。大体許してくれます。しかし他の業界は「コミュニティイベント」という概念がなく、こういったものは言語道断であることが有るため、お気をつけください。(同人即売会は二次創作を売っていますが、ゲームイベントですと一次創作物をそのまま設置して使うため。)

賞金についてですが、コミュニティイベントでは最後で良いと考えています。運営を担ってくれたスタッフへ時給対価程度の日当を出して、それでも運営費に余裕があるならば考慮しても良いかと思います。競技に権威を持たせるために賞金を検討することは精神的に正しいことですが、運営を逼迫させてまで出すほどのものではありません。今日の理論は、成長につながる長期的な大会の維持が第一です。賞金を手にするプレイヤーは数名ですから、どちらかと云えばその金額で次回大会のクオリティ向上を図る方が多くの参加者には身近な喜びなのではないでしょうか。参加者を重視される場合は御一考下さい。もし筆者の知らない理論で、コミュニティイベントの世界でも賞金を出さねば次回開催が出来ない事例があるのであれば、賞金は検討すべきかもしれません。
そして最後に、賞金については法律的な面と版元の意向を確かめてください。運営の資金を外に出すものですので、非営利の一線を越えるポイントであると筆者は捉えています。(これは版元に問い合わせるという意味ではなく、意向が公開されているのであればそれに従い、ない場合は賞金を出さないということです。)

集客と数字

イベントを開催する者にとって、最も気掛かりな不安要素がこの集客・数字のパートかと思います。

今日はコミュニティイベントを何度も開催し、ブランドを成長させることを考えていることを前提としています。そのため、自分自身の大会の成長の指標をはかるためにも数字に着目することは重要ですし、それ以外にも対外的(スポンサーなど)にアピールするためにも数字は有効です。ただここで申し上げたいのは、大会のコンセプトよりも集客・数字を優先することはないという主張です。

まずは集客に関して述べます。例えば運営会議で「参加費を下げれば集客は上がる」「参加者全員が対戦回数に満足を得られないと客が来ない」といった意見郡が挙がることもあるでしょう。よく集客の重要性はコンセプトよりも上位に捉えられます。人数の大小が大会の価値・威厳と考えられることがあるためです。これは人間の本能的なものかと考えます。そのため「来客を集めるにはこうすべき」という通例が議論を蹂躙し、参加費は安く・公平感があり・新参者に優しく・身内要素は少ない形式を取ることが多くなります。しかし長期的に見ると、集客優先策を最優先すべきではないと筆者は考えます。イベントが没個性的になるからです。没個性になると、幾度かイベントを開催するにつれ参加者の足は遠のきます。長期的なイベントへの集客を考えるのであれば、遠回りになりますが、独自性を貫き「参加する理由」をアピールし続けることだと考えます。やはり上記「ルール」と同様に為して下さい。集客については過去に考察をしたため 『集客の心理における『天岩戸』考』 を御覧ください。

続いて数字についてです。
数字とは大会のライブ配信・動画の視聴統計のことです。昨今では「数字が大事」と云われるため、「数字を取るために有名人を呼ぼう」といった策を優先することが有ります。こちらも上と同様で、数字とは為すべきミッションをクリアした結果出たものを甘受するべきで、数字至上主義的に追求する必要はないと考えています。重要であるはコンセプトであり、数字を優先してこれを覆す策まで取ることはないと考えます。
どうしてもスポンサーのご意向で数字が必要なこともあることを理解しています。しかし、スポンサー企業(営利組織)の意向をうかがってコンセプトを守れないのであれば、もはやそれはコミュニティイベントの定義を外れてしまっていると考えます。
数字は徒に増やせば良いというわけでは有りません。これに関しては別途過去の記事 『私が何故炎上商法を是としないか - トロッコ問題にからめて』 を御覧ください。

他のゲームタイトルの大会に行く

この文は筆者の開催して欲しいコミュニティイベントを想定していますので、大会・イベントは何度か開催されて育っていくものであると想定しています。そこで、大会を何度か開催出来るようになりましたら、資料と名刺を持って他のゲームの大会に行きましょう。

2014~2015年の頃は筆者に企業の後ろ盾はありませんでした。「SHIG アユハ」の名刺を持ってイベントを巡り、「ウメブラ(等)の大会を見てください」と云って回りました。ほぼ必ず「スマブラ勢って初めて会いました」と言われました。

当時「スマブラ勢なんていたんですね(笑)競技人口どんな程度なんですか(笑)?」と幾度も他のゲームの方にニヤニヤされ低く見られながら会話にのぞんだ事は、決して忘れません。今は状況がかなり改善しましたが、この時の「布教活動しなきゃ知られない」という教訓は今も肝に銘じています。

すごく自虐的な話になりますが、ネットには限界があります。映像メディア(Twitch, Youtube, ニコニコなど)はコンテンツ・コミュニティベースのサービスであるため、極論を申し上げますと、既にいま興味がある人しか集められません。サービスに「サジェスト機能」もありますが、サジェストされた先をクリックして視聴してくれるかどうかは視聴者次第です。ソーシャルメディア(日本語だとSNSなどと呼ばれることも, Twitterなど)は、興味の異なるジャンルの方へ呼びかけるのに有効ですが、他のゲームに熱中している人にたとえウメブラの告知が目に留まることがあっても、親身になって「嗚呼我ウメブラを見んか」と心の底から思ってくれるかは疑問です。人は直接会わなければ、疎遠が疎遠でなくなることは殆どありません。

では仮に手前味噌で、ネットでのサジェストやシェアを用いて大会の視聴者を増やすことは勿論可能です、とここは申し上げましょう。「数字的な面」では、物理的なこの世界よりもネットの技に頼るほうが効率は良いでしょう。しかし:

  • 他の界隈の人に、我々は民度低くないんですよと知って欲しい
  • このゲームのプレイヤーは本気であることを見て欲しい
  • 企業イベントでこのゲームタイトルを採用して欲しい
  • 大会を開く時に告知をリツイートして欲しい
  • 大会にスポンサーがついて欲しい
  • ついて頂いたスポンサーにビジネスだけの関係に留まらず精神的にも共感して欲しい

といった「心理的な壁」を超越するには、他のゲームタイトルを遊ぶプレイヤー達やそこにまつわる関係企業の方に自分の顔を見せないと無理です。無理ではないにしても、ハードルは凄く高いです。Twitch が集会を開くに限らず、ほかのIT企業が物理的なイベントを開催して交流するにも、暗にこういった心理的な要素があるのではないでしょうか?(ぼかした推測)

16世紀、カトリックをアジアに広めたいがためにイエズス会はわざわざ創始者フランシスコ・ザビエルが自らアジアへ赴きました。メディアだけで存在が広まるなら「入門 真之基督教」みたいな書を漢文体で出せばアジア全域で布教することが可能だった訳ですが、それでは不十分であることをイエズス会は知っていました(実際250種以上のキリスト教関連書が当時漢語で出ています)。物理的に、人間が現地に行かなければ、熱意を共有できません。ザビエルですらスペインから日本まで船で来ているというのに、一介のゲーマーである筆者が布教しに回らない訳にはいかない訳です。

“代替メッセージ”
[ほかタイトルの方と交流するのに手っ取り早いのは C4LAN へ行くことです。 ファミ通さん『ゲームイベント界のキメラ“C4 LAN 2019 SPRING”リポート。物産展と盆踊りと少々のお色気が参加者を襲う』 から]

他の大会に行くことで自分の大会のコンセプトの独自性が見えてくる面もございますので、ぜひ試してみてください。

具体例

以上のように、気をつけることや実行することは申し上げましたが、具体的なコミュニティイベントの例を勝手に挙げます。:

  • ウメブラ
    今回は既によく例に出したため割愛します。
    スマブラは基本的にコミュニティイベントが多いので、どの都道府県の方も参考になると思います。特に Sameki さんが 『スマブラSP 国内イベント情報』 を出しています。これらを辿ってより多くのイベントを参考に出来ましょう。

  • RTA in Japan
    RTA(speedrun)のオフイベントです。説明が難しいのですが、ご存じない方には年末に開催される RTA の TED のようなものと申し上げています。日本で RTA のオフラインイベントを開催しようと思い立った点に新規性があったように写りますが、そもそも前提として『RTAはみんなで会場でこの様に観ましょう』という価値観・文化的指標を日本語で形成した点が大きいと考えています。


    [例: RTA in Japan 2018, ポケモンスナップ
    RTA in Japan は成果を吹聴せず、ひたすら技術を磨き、見せたいモノを堅実に守ること4年。こうして年末恒例イベントになったのかと愚生は推察しています。

  • マラカップ決勝
    Dota2 のトーナメントをオンラインで開催し、そのオフライン決勝に人が集うというイベントです。こちらに2018年のドキュメンタリーがございます:


    Mara Cup 2018 とそのオフライン決勝の様子。撮影と制作はDota2を出しているValve本家より。]
    動画にございますが、Dota2 をしながら美味しいものを食べられるテーマで運営されています。最もコンセプトが解り易いのではないかと感じます。厳密にはアンカーズ(株)が出来て以降は企業イベントに当てはまりますが、それ以前の時代はコミュニティイベントです。

例は今の所以上とします。もっと挙げるものはございますが、際限がなくなってしまいますので。本当は良い例として『クーペレーションカップ』, 『MASTERCUP』を挙げたいのですが、あちらは事実上の企業運営ですので今回の分類ではノーカンとします。しかし今日の内容に興味がある方には非常に参考になる先輩の運営する大会ですので興味がございましたらお調べ下さい。

[参考: DreamHack Summer 2019 開会式。元はコミュニティイベントとして始まったスウェーデンの LAN Party ですが、今は途方もない大きさに。]

そこまでして何が楽しいのか

「コミュニティイベントの運営に求めすぎでしょ」と思われたかもしれませんが、遊びに真剣になれないのでしたらそもそもゲームをやり込んでいないと思います。競技者は真剣さの中に勿論楽しさがあるのですが、TO(Tournament Organizer, 大会スタッフのこと)の楽しさも知られて欲しい所です。昨今の “Esports元年” に伴い TO の存在は知られてきましたが、苦行と捉えられることが多くその楽しさを見失いがちかと感じています。競技的にゲームをやり込んでいる方はお分かりかと存じますが、ゲームはどんなに練習しても全然勝てるようにならないのですよね。一方で運営では新しい策を採用すれば如実に参加者・結果に反映されるため、人に依っては凄く楽しいと感じられます。

特に本記事の内容は、むかし筆者がコミュニティイベントを大きくしたいのにどうすれば良いのか分からなかった頃をイメージして書いているため、モチベと向上心が有ることを前提に、ブランドを成長させたい方を想定しています。勿論イベントには、単発で終わらせたりそんなに発展を望んでいないものもございますし、筆者もそういったものを開催したこともあります。そうしたかったからです。ただ、繰り返しになりますが、個人主催で何かをはじめて育てて行くノウハウが少なかったため、ここに自分の考えを系統立てて申し上げた限りです。

個人を経て上手く行ったら法人化したりビジネス化したり、拡張が見えてくる場合もあります。例えば DreamHack も元はと云えばコミュニティイベントでしたが発展して法人化しました。大きなビジネスも基は趣味の域ということも十分に有り得る話です。もし個人が企業に発展した後も、周りの方には一定の理解と分別を賜われればと存じます。

以上

現実的なことを申し上げますと、この内容を説明することが多かったので「これ読んでおいてください」とパッと云えるように用意しました。もとは軽く箇条書きにする予定でしたが、結果として何ヶ月かかかって肉付けして長い文章となりました。

2019年は特に「ユーザーの怠慢」と訴えることが多い一年でしたし、2020年も引き続きそうなると思います。その意味はと云いますと、最初にも述べた通り日本は企業がイベントを多く開いていますが、ユーザーは諸企業イベントに対し「このイベントは駄目」「ユーザーのことを分かっていない」と云うばかりで、ユーザーは大会も開きませんし全然企業と顔を合わせて対話をしません。これでは企業もユーザーのことが分かる筈がありません。

いまゲーマーの間では「ゲーマー差別」が深刻です。これは一般人からゲーマーに対してではなく、ゲーマーの間での差別を意味します。主にプレイしているゲームタイトルによって人間を蔑視する層が少数ですが確かに存在します。最も深刻であるのは、消費者からゲーム会社・大会運営に対する差別です。ゲーマーの中にはゲームの運営・ひいては大会運営は何か無能な劣悪種であると認識しており、非難を浴びせるのは前提という立場にある方がいらっしゃいます。

「企業イベントは運営がクソ」とおっしゃる方も居ます。今日申し上げたいのは、もし公式含む企業運営の大会でモニターがラグかったら、それはユーザーの怠慢だということです。もしプレイヤーがそのゲームの競技に必須な要素を分かりやすく掲示していれば、どの大会もそれを満たすことでしょう。特にコミュニティ大会がたくさん開催されていれば、運営がぐぐるだけでそのノウハウが目につくでしょう。
「ゲーマーだったら、ラグいモニター使っちゃ駄目なことは常識でしょ」とおっしゃる方、それは必ずしも常識ではありません。ゲーマーの方でも足をつっこんだばかりの方は有り合わせのモニターでプレイされていることもございます。技術的には、モニターがラグくなくとも配線がラグを生ずることがあり、人はよく誤ります。ゲームに無関係な企業(non endemic)が多数 esports に興味を持っている今、新規に企業イベントが挙がった場合はゲーマーは斜に構えるのではなく、「このマニュアルを使って下さい」と一冊渡すような気概と包容力が求められていると考えます。この気概の精神的な部分については筆者は哲学と心理学についてエンジョイ勢なので申し上げづらいですが、気概の技術的な部分についてはイベントを開催していればいずれ出てくるものであると申し上げられます。是非コミュニティイベントで頻度高く開催して技術を蓄積してください。

参考として、こちらのブログではありませんが筆者が過去に書いたマニュアルがございます。実況とモデレーションに関するものですが、運営でいずれ利用されるかもしれません。

(追記)また、 ウメブラ等で活用している 『オフ大会共通ルール』というものがございます。これはイベントを開くにあたり、「暴力をふるってはいけません」「賄賂は駄目です」といった一般的なルールを記載することが面倒という運営の方へ、誰でも採用できる文面として公開しました。ご自身の大会ルールページにURLを記載すれば活用できますので、ご利用下さい。