この内容はゲームの大会でのライブ配信でチャット欄に不適切な投稿が有る時、どのような対処をするのかまとめたものですが、元々は1個上の記事 『ゲームイベントと民度の対処法』 の一部として記したものです。
この内容が余りにも具体的であり、長くもなりすぎました。そのため、(しつこく再掲になりますが)この記事を述べた全容を把握されるためには上の本来の投稿:
■ (本記事) ゲームイベントと民度の対処法
を御覧ください。
前提として、この内容は「大会での民度の対処法」というタイトルの通りなのですが、「民度」という定義のない曖昧で主観的なものを改善しようという策ではなく、「民度が低い」という批判を浴びせてくる者への対処法となります。特に、自分のことは棚に上げてイベントを「民度」という指標から批判してくる人を「民度審判」とここでは呼んでいます。
また、 本記事 の「☆」は本日の前提としてこの投稿でも頻出するため、別途ここにも記しておきます。以下で「☆参照」とあった場合はこちらを御覧ください:
# ## ☆:筆者の主張としては「民度」とは、自分が不快に思うことを基準に自分以外の優劣を一挙に判定する便利なツールということです。この「個人的不快」が自分以外の「優劣」に結びついているところが特徴であると考えています。
民度審判への対処手法
まず、ゲームの野良マッチング中での民度議論はこれはもう筆者にはどうしようもありません。ゲーム開発でゲームプレイの面はある程度防止出来ますが、それでも人間の感受性・精神性・民度審判によって永遠のいたちごっこになるはずです。たとえ死体撃ちが無くなっても「キル後にXXをするのはマナー違反」だったり、スマブラでも「撃墜後のステップはマナー違反」といった新ルールが新マナーの如く次々と生まれていくことでしょう。これは筆者で対処法は思いつきません。主観から精神性を評価軸にする人間がいる限りは発生する議論でしょう。上の記事で申した通り、普遍的な民度という概念は存在しないと考えています。
しかし、大会・イベントの場ではある程度制御できると考えています。というよりも経験上、人為的な手でイベントにてある程度の制御をして来ました。これには2つの意味があり:
- ①モデレーションを強固にすれば大丈夫
- ②人が人を叩かない空気は育てることが出来る
です。
なぜこうしたいかと言いますと、今日の前提 ( 本記事 ☆参照) に立ち返って頂きたいのですが、「民度」という言葉は個人的不快を優劣に置き換える便利で幅広いツールだったのですが、これがイベントに適用されると大変だからです。更に、ご覧になった方は経験あると思いますが、民度審判がいっぱい発生すると、民度審判を見て大会の民度審判をするループが発生し、虚無から議論が続く永久の輪廻が始まります。これは非常に残念です。議論の結果、民度審判は視聴者側の人間であるにもかかわらず、まるで運営が駄目かのように評価を下します。(この自己を棚に上げて他者全てを判定することが「民度」というツールの根源でもあるのですが。)大会運営と視聴者の間には本来第四の壁があるのですが、見事にこれは突破され、不評だけが叩きつけられます。
というわけで①②にあたる具体的手法を、以下の a.-d. に述べました。綺麗な並列になっていないのですが、a. では前提となるモデレーションの概要をご説明し、b.c.d. では具体的にどういった個別ケースがあるのかを述べます。いずれも①②のどちらかに分類される手段です。また、②の発展的な手法は、 本記事 に続きます。この投稿が上の一部であったという性質上ご了承下さい。
a. モデレーション
①のためにはモデレーションが不可欠です。
前記事
でも述べましたが、大会の民度について語っている方は、Twitter やブログでは余りいらっしゃいません。ライブ配信のチャット欄が最大の舌戦の場となっています。ここでの議論を抑制することで、最も大きな成果が得られます。
念の為用語について申し上げますが、モデレーション (Moderation) とはチャット欄での不適切投稿削除・ユーザーBANなどを行う行為です。これを行う方がモデレーター (Moderator) です。
実は Twitch では AutoMod (自動モデレーション) があり、これを最高設定にしておけばネガティブな発言は大体防止できます。経験上かなり有効です。アカウントを何度も作り変えて粘着される投稿者には「フォロワー限定モード」が有効で、更にフォローして5分以内は発言できない設定にしておきますとほぼ全て対処可能です。このように自動ツールの活用だけでもかなり抑止できます。「フォロワー限定モードを時間制限付きでONにすると他の視聴者が大変じゃない?」と思われるかもしれません。もちろん民度審判による舌戦が落ち着いたらOFFにしても良いですが、それまでは臨機応変にONにすることを推奨します。「言論の自由の弾圧じゃん」という意見もございますが、言論の自由は市民権などが有る社会で責任を伴って自主的に発信してよいというものであって、「自分の著作物の上で誰にでもなんでも言わせる義務」という意味ではありません。
丁度いいところに ネット上の誹謗中傷は一部の人間から来ていることを解析した研究 がありました。これはよく言われることです。そのため少しのモデレーションは大きな効果があります。それでもデマやスパムに対しては、人間のモデレーターが手動で消すしかありません。モデレーターが判断を迷うような投稿があった場合、迷った時点でもう消しましょう。即タイムアウト(一定時間発言禁止)でも可です。
「そこまでするなら、大会でチャット欄をナシすれば良いのでは?」という意見は必ず浮上します。特にゲーム会社の方から挙げられますが、現段階では、大会でチャット欄をなくすと大きくエンゲージメントが下がるという理論が支持されています。つまりは過去に下がった実例があり、チャット欄は維持する方針が取られています。
また、今日はイベント運営に関することですので、これはイベントに於ける対処であり、個人ライブ配信では身近な方にお願いするしかありません。個人ごとにケースも大きく異なりましょうから、特にご自身のローカルルールを作り、ご自身の身を尊重しましょう。(どうかエコーチェンバー現象にだけはお気をつけ下さい。)
いずれの場合も、格別、容姿に関する批判は人権に悖る行為であり、民度審判にも目をつけられる内容です。これは複雑ですので以下別個に説明します。
b. 容姿への批判
民度と容姿批判は切り離せないテーマです。
元来、容姿には優劣がないものですので、容姿を批判する人がチャット欄に一人でもいると「あの大会は民度が低かった」と評価する外野が発生します。今の御時世、容姿批判をする者は過去からタイムスリップしたか10年間コールドスリープしていた人間かと思いますが、存在することは事実です。(みんなどこかで容姿批判を学んでくるのではないか?と疑っております。)大会で選手の容姿に対する言及が多い問題は、ゲーム会社の株主総会で議題にのぼるほどです。
日本の方は、画面の向こうの人間はたとえ一般人・ゲーマーであろうとこれを芸能人と比較して容姿を批判する傾向があります。これを「タブララサで芸能人」問題と呼んでいます。どこか画面の向こうの人間はデフォルトで完璧であると思いこむ傾向があることは、納得頂けましょうか。しかし人は現世と関わるにつれて、この世はそうではないことを認識し、容姿を批判しないようになります。そのためオフ大会が多いゲームほど容姿の批判が少ないと筆者は捉えています。
これは「ゲーマーって修羅道だなあ」と思われるかもしれませんが、そう見える原因としてはネットのUGCの多くがゲームコンテンツだからという理由はあると思います。単にコンテンツの量が多いので、表面化する問題の数も多いということです。そして「ゲームは割合的に男性が多いから」と原因が考えられがちですが、女性の方が他の女性の容姿に厳しい傾向を示した研究結果もあり( Pacific Standard “ATTRACTIVE SERVERS GET BIGGER TIPS” → 女性ウェイトレスはチップ額に差が出るが、この原因は女性客が容姿に応じてチップ量を差別するからという内容。)、相関性は不明ですが普遍的な問題でもあると筆者は考えています。昨今もインターネットでの誹謗中傷で話題が挙がりました。
そのため筆者がスタッフをやっている SHIG チャンネルでもモデレーションについてまとめた(
発表文
)のですが、容姿の「優劣」は一律に消します。容姿に対する良い発言も消す必要あるのかと思われるかもしれませんが、消します。逆に髪型を変えたりコスプレして来たりといった面は問題ないという方針です。ここは恣意的な線引ですが、一般的に英語圏で用いられる会社での発言マニュアルを基に作成しました。
実はこれを発表した際にダーツやポーカーの方からご意見・賛同のリプライを頂きました。容姿コメント、それを見た方によるネガティブなレスポンス、そして「タブララサで芸能人」問題については一定の共感があるのだなあと実感しました。筆者は学校で先生が生徒に「死ね」「うるさいブス」と言うような戦場出身ですので(※調査の結果今は改善した可能性が大です)だいぶ偏見がありますが、ある程度の普遍性はあるはずです。
容姿の上下に関する話題になったところですぐにモデレーターが消し始めてよいです。これは①的な逐次的アプローチですが、究極的には*** 本記事 『共同体感覚』***パートを経ることで、未然に解決することが出来る(②的アプローチ)と思っています。ここで理屈だけ申しますと、コミュニティの輪が広がれば画面の向こうの他者の容姿を批判しないということです。
c. 選手が失礼な行為をした場合
ここまでは全面的に運営の味方をする議論でしたが、では実際に大会という公の場で選手が非礼を働いた場合はいかがでしょう。ここで大会の試合中、人の視えるところで選手が相手に対して失礼とも受け取れる行動をしたとしましょう。それに対して、ご覧になっている第三者が「あの選手は無礼だ」と言い出すことがあります。更には「だからスマブラ勢は全員社会不適合者しかいない」と言い出す民度審判もいらっしゃいます。
無礼な行為をするプレイヤーが1名もいなければ済む対策なのですが、
本記事
の☆で述べたように、「無礼」とは観測する個人の不快感で生まれてしまうため対処は難しいです。人によっては「試合中にコーラ飲むのは失礼でしょ」と言い出す方もおり筆者としては不可能を覚えます。どちらかに分類するなら①のように、モデレーションで民度審判を都度削除することが現実的な策かと思います。
この「選手の失礼」に関する批判は、筆者としては全て民度審判に分類されるかと考えています。そもそもゲーム内に実装された機能を使うことは仕様であり、元来なにも問題ないはずです。また、ゲーム外の行動については現行法を犯していない限りは全て人為的な判断基準になります。実際に大会で起きた例を挙げしょう:
{% oembed https://www.youtube.com/watch?v=g-7hwXaul3k %} [Na’Vi 公式チャンネルより。Dota2 世界の頂点である The International 2013 で行われた All Star Game での一幕です。キルを取った Dendi が試合をポーズして、壇上に飛び出て踊り、相手を挑発しています。]
上の動画で Dendi 選手は試合中にキルを取り、ゲーム内に実装されている機能で試合をポーズし、ポーズ時間の間に物理的に踊って挑発しました。これは非礼であり、民度が低い行動でしょうか。見方によってはエンターテイナーとして優れているとも取れます。しかし議論になった時点で、正解はないのかと筆者は考えています。(ちなみに失礼という見解は余りありません。)
本来は失礼かどうかを判断するのは相手であり、相手がなにも言っていないもしくは解決している以上、第三者がなにかを云うものではありません。ただ民度審判というものは、その様子を見て自身の中で追体験し「自分だったらこれをされたら不快だなあ」と推測されます。そこから両選手や大会運営、ひいてはそこに関わっている者全てが「民度が低い」とおっしゃって攻撃材料にされがちです。
更には、礼・非礼は文化文脈に依存する部分があります。ゲームもタイトルに依って感受性は異なります。例えばゲームに依っては試合後に勝った方がガッツポーズ (Pop off) をしないことが美徳である場合があります。もしくは、ゲーム外のリアルな生活でガッツポーズをしないことが美徳である集団に属していることもあるでしょう。一方スマブラ勢ではどちらかといえば勝利を喜び・敗北を悔しがることが相手への敬意と捉えられます。そのため、スマブラの試合後に両者から喜怒哀楽が溢れているシーンをご覧になって「なんでスマブラ勢ってこんなに民度低いの?だから駄目なんだよ」という意見を頂くことが実際にあるのですが、それはバイアスかと思います。
リアルの世界でも、東洋では国によって箸マナーが異なるため他国を見て無礼かどうかを粗探しする歴史が古く記録されています(澠池之会など)。ただ相手の社会で成立しているマナーを見て、自分の価値基準から「民度が低い」と判断することは誤りであることは現代社会の規範です。
いずれのケースでも、自分の余所の社会が「民度が低い」というきっかけがあることを凄く喜ばれて、理由はもう是非を問わずここぞとばかりに批判される方はいらっしゃいます。この心理は存在することを前提に警戒せねばなりません。
結果として、チャット欄で礼・非礼の議論になった時点でモデレーターは削除・タイムアウトを使用して良いと考えています。他方で、大会をご覧になった方や参加者の方が選手のふるまいについてしっかり考察して、文章や動画で考察を出されて議論が生まれる場合は、界隈の今後の成熟度に繋がると考えていますので止める必要はないと思います。結局は壇上のプレイヤーと視ている側の人間に同意があり、同じ組織の者として議論が出来るかどうかだと考えます。
また、ここまでは礼・非礼で議論の余地がある内容でしたが、参加者にはっきりとした問題があってトラブルになった場合、どうなるでしょうか。人に過失は有りうるわけですからいずれ発生します。問題があった当事者の方々とは運営が対話中であったりしまして、一定の理解が得られることが多いのですが、問題はこれを発見した第三者が騒ぎ立てることです。騒ぎ立てて頂かないためには、当事者と外野に一体感があるかどうか次第かと思います。どうしても②的なアプローチが必要になります。
d. 運営への批判
批判についての最後の議論です。
イベントの運営を批判するコメントは、難しいです。大会運営に不備がないとしても、ご覧になっている方が意図せずポロッと書き込んでしまったことが論戦に繋がることがあります。これに加えて、もし大会運営に不備があった場合はどうでしょうか。例えばよくあるのはライブ配信が技術的になにかミスってしまった場合。他にも大会進行が遅くなってしまった場合や、勝敗の裁定に混乱が合った場合。様々な問題は発生しますが、参加者ではない人からの意見が一番辛辣なのですよね。完全に感想の議論ですが、参加者の方とは(c.と同様に)直接話してご理解頂いていたり対話を続けていたりする最中であるのに、外からご覧になっている方の義憤批判がもっとも数が多くて激しいです。大会運営には「タブララサで芸能人」理論(b.記述)が適用され、少しのミスでもかなりツッコまれます。もしも運営に不備があっても批判が来ない、そんな魔法があれば運営はなんと心強いでしょう。ここが、②を突き詰めた今日最後の議論に結びつきます。
他にも「実況解説」があります。実況解説は運営でもあり運営ではありません。公式イベントではキャスターとは様々な行程を経た上で選ばれた仕事人であり、有志で運営するイベントではコミュニティの一員でもあり無賃労働者でもあります。そう考えますと、不満がある場合は、公式イベントのキャスターに関してはもうそれは貴方が顧客の枠外になってしまったということであり、非公式イベントのキャスターは貴方の友達ではないということになります。「実況マジでクソだから二度と大会開くな」というメッセージが運営に来ることがあるのですが、この理論にはもはやどこからツッコんでいいか分かりません。運営に対する理解の不足はさておき、この「顧客の枠外」「友達ではない」といった気持の乖離はどのように融和できるでしょう。
一例ですが、実はスマブラ勢の間では大会運営がしやすいことで知られています。オフ大会の運営視点では、他のゲームと比べると相対的に余り運営に対する痛烈な批判が集まりません。踏み込んで言えばオフ大会に「ご意見フォーム」があるところも多く、出場者の方はネットで議論するのではなく運営に直接連絡することが習慣づいている所は非常に楽です。おそらくこれは大会運営と面識があるプレイヤーの方が多いからかと考えています。一方の格闘ゲームの運営は筆者は自信がございませんが、はたから観測するところ出場選手・プレイヤーへの人格批判が行かない界隈かと思っています。これは視ている方がプレイヤーとの間になにかつながりを感じている、根底には深く長いオフラインでの交流があるからかと考えます。
自分が属している同じコミュニティには、おそらく強い批判は浴びせないでしょう。これを受けて今日の最後として、チャット欄でのネガティブな発言・容姿批判・運営批判をひっくるめて、いかに未然にこれを防ぐか意見を申し上げます。ここまでは対症療法のアプローチでしたが、より東洋医学的に「どのような空気を醸成すれば民度審判の餌食にならないコミュニティを形成出来るのか」を申し上げます。ここまで登場した②が必要なケースの総括になります。
まとめ
民度審判(イベントへ「民度が低い」という批判を浴びせる人)がいる場合、①的アプローチで投稿をマニュアルで削除することは効果はあります。困っている方で導入していない方は強くオススメします。しかし対処には限界があり、根源的に投稿をさせないため・もしくはたとえ運営に不備があっても応援する空気を作るためには、②的アプローチ「叩かない空気は作れる」という方向性が欲しいということになりました。
では、②的アプローチについては、 本記事 の 『共同体感覚』 パートへお進みください。
蛇足
時代が進むにつれ、職業としてのモデレーターは重要さを増すと予見しています。Twitch 社内は勿論その部署があるのですが、個人配信や大会向けの用心棒として雇う方式も生まれるでしょう。筆者は職業で Twitch の運営をやっているのですが、個人 Twitter に直接送られてくるメッセージとしては日本の方からは「この人をBANしてください」「こんな悪いことをしている人がいます。取り締まって下さい」という方向のものが一番多いです。ところが私にはモデレーションの権限はありません。日本の方からすると「運営」とは、なにか悪いことを取り締まるものであるイメージが強いのかなあと推測します。勿論モデレーションに関してお問い合わせ頂いた場合も、しかるべきステップを踏んで対処申し上げます。特にお問い合わせいただいた方が問題の当事者であればどのように対応すれば良いのかのご指示もスムーズなのですが、場合によっては被害・加害に関係のない方からのメッセージも多いです。
本当は「この人面白いので見て下さい」「この技術はどうやって実現するのですか?」といった質問が一番好きです。