恋心は超グリーディ

普段質問されることを文章起こした場所です。ライブ配信やゲームイベントにまつわるものです。もしくは、たまに筆者の趣味の文章が交じります。

Jun 14, 2022 - gamerlogy esports tournament smash

素行の悪い人を出禁にすべきか

便宜上タイトルが壮大ですが、ゲームのコミュニティイベントに関する内容です。悪いことをしたプレイヤーをイベントから出禁にすべきでしょうか?

これはゲームの大会に参加する人向けの注意喚起とかではなく、大会運営の方々向けに「ルール運用とは何か」の資料と想定しています。そのため、「いざ大会中に参加者同士のトラブルが起きた!どうしよう?」というものでもなく、もっと抽象的なものであることをご了承ください。

背景

背景の説明をします。筆者はスマブラ勢ですが、スマブラ勢は不思議なもので、シーンを構成するイベントのほとんどをユーザーが運営しています。所謂コミュニティイベント・非公式大会です。

インターネットを通じて知り合った仲でありながら、対戦ゲームというのは根本的に社交的な趣味なので、殆どの参加者は善良で仲良くやっています。

“代替メッセージ”
[2019年スマブラ非公式大会の様子。大会後にスタッフ・参加者が入り混じって機材の片付けを行っています。スタッフも有志の集合です。写真は @darimoko より]

これは他の界隈でも類似しているところが在るでしょう。他のゲームタイトルの非公式大会、カードショップが店舗で行っている店舗大会、同人即売会などです。

出禁

しかし、何年かに一度、まれに大きなトラブルが発生することがあります。これは人間社会ならやむを得ないものです。

Twitter 上での言い合いくらいならばそこまで尾を引かないのですが、例えば特定のユーザーXさんがゲームの不正利用をしたり・大会で小さな問題を意図的に繰り返したりすると話題になります。すると、

あのXさんを “出禁” にしてください

というお願いが、不特定多数の大会運営に来ることになります。インターネット上で起きたことでも、オフライン大会にお願いに来ることが多いでしょう。悪者に対する制裁は待望されます。界隈全体からの “出禁” を望む声も多いです。
※出禁 = 「出入り禁止」のこと

中には:

Xさんを出禁にしないということは、Xさんの行為を認めているということですか?
お返事を頂けない場合、Xさんを容認しているとして Twitter で拡散します。

というメッセージが来ます。時を同じくして、

明らかに問題を起こしている人がいるのに、出禁や社会的抹殺をしないなんて、社会人だったら考えられない。ゲーマー界隈は処置が甘い。

といったツイートをする人が出始めるものです。

ここで問いたいのですが、こうした “素行の悪い人” を “すかさず出禁” にすることは良いことでしょうか?必ず正しいと言えるでしょうか?
また、日本の社会, 法律は本当に「問題を起こした人を社会的に抹殺する」ようにできているでしょうか?

法には触れないけど規約に違反

例えば、流石に見たことは無いですが、誰かが武器を持ってオフラインイベントに来て暴動を起こしたならばどうでしょう?これは取り押さえた上で警察に引き渡すでしょう。法に触れる(疑いがある)ので一目瞭然です。

ですが、「Xさんは許可されていないゲームのテクスチャハックを自宅で行いました」と話題が挙がった場合はどうでしょう?ゲーム会社がダメと言っている行為をした人を、非公式オフライン大会が出禁にするべきでしょうか?他にも、ある大会Aで悪いことをした人を、別の大会Bでも出禁にするべきでしょうか?

筆者としては、これらの事例は「グレーゾーン」と分類します。つまり「法律には触れないけれどゲーム・大会のルールに違反した」場合のことです。本稿では特にここを意識して議論します。

勿論、何かの規約に違反したならばそれ相応の罰は加えるべきです。しかし、グレーゾーンならなんでもかんでも永久出禁にすれば良いわけではないはずです。なぜなら、これらグレーゾーンを出禁にすべきと言うなら、

  • 「この人はこのキャラを使用しているから、多数の視聴者をすごく不快にするため出禁」
  • 「この人は試合間に目薬さしたり・タバコ吸ったりする時間が長く、大会進行の邪魔だから出禁」
  • 「あの人はプライベートで浮気をしたから出禁」

という処置も正当化されてしまうからです。

勿論主催者にも自由がありますから、使用キャラ・タバコを理由に出禁にする大会が存在しても良いとは思います。しかしながら、大会結果からプレイヤーランキングをつけるような競技的界隈でこの処置が横行したら、果たして「競技シーン」と呼べるでしょうか?競技の民主的な前提・公正性が崩れてしまうと、そうとは呼べないはずです。

筆者は「悪いことをした」というXさんへの処置というのは、適切な者が適切な範囲で与えるべきだと考えています。

法律

「ちょっとでも悪いことをした人がいたら、二度と立ち直れないほど叩くことが社会的に正しい」と絶対的な確信がある人がいます。果たしてその主張は真でしょうか?日本の法律ではどのように考えられているでしょう?

現行法では、私刑は加えてはいけません。つまり、悪いことをした人への制裁として一般人がボコボコにしてはいけないということです。
これは「人権」が第一にあり、国家や法律はそれを守るために存在していると考えられているからです。ちょっと説明が長くなるため、細かく興味がある方は私がいつも紹介している『ぴよぴーよ速報』を御覧ください。

『小学生でもわかるジョン・ロックの政治学』 。人権と国家に関する説明となっています。]

本来は国家しか人間の自由を束縛してはいけないはずです。日本では悪人を裁くオフィシャルな機能は裁判所しか持っていません。警察も刑事犯の可能性がある人を捕まえるだけであり、罪を決める訳ではありません。(更に、警察は民事は扱わないので、離婚問題や言い合いによる慰謝料などはタッチしません。そのため浮気問題があっても刑務所に行くわけではないです。)

近い話題があります。最近はネットでの私刑「キャンセルカルチャー」(= 有名人が失言した際に不特定多数が炎上させ、辞職を求めること. 説明例 )が盛んです。人を傷つける発言をした人が処罰されるのは一見正しく見えますが、実際これに異を唱える専門家は多いです。その視点の例を置きます:

悪いこと・発言をした人は処罰を受けるべきですが、現行の刑法の処置を無視して、なんでも社会的に抹殺してしまうのは行き過ぎています。自由という概念の危機と考えられます。

これと同様に、筆者としてはゲーマー界隈がワンミスで特定のプレイヤーを永久出禁にするのも「やりすぎ」であるし、司法を無視したよろしくない手続きだと筆者は考えています。

コミュニティイベント・非公式大会は、ゲーム自体・司法を代弁している訳ではありません。筆者の主張としては、自由・人権を制約する処置を下す場合は、法的措置に頼るべきです。
これを踏まえて、以下「このように対処すべき」という筆者の見解を申し上げます。

“代替メッセージ”
[映画 “Star Wars: Episode III” でも、悪の元凶を追い詰めてもその場で斬り捨てずに He must stand trial(裁判を受けるべきだ)と述べるシーンがありました。画像は Disney+ より。]

よそで問題が起きた場合

具体的に問題が起きた場合、非公式大会群はどのように対処すべきでしょう。このパートでは、他の大会やインターネット上で問題が起きた場合、自分の運営するオフライン大会はどうするべきかについて考えます。

例えば、

  • ゲームの不正利用をした(不正入手・クラック・ハッキング)
  • 他大会で繰り返しトラブルを起こして出禁になった(参加費不払・意図的サボり)
  • 他タイトルで大きな問題を起こした

といったプレイヤーXさんが居た場合はどうしましょう?これらはグレーゾーンです。上述のように、Twitter 上では出禁を望む声が大きくなるでしょう。
ただ、それでも「界隈全ての大会から出禁」とまでするのは行き過ぎだと考えます。理由を2つ挙げます。

① もしゲームに関する不正をした場合、証拠を持っているユーザーがゲーム会社に連絡してアカウントの停止などをお願いするべきです。ゲーム会社はゲーム自体の著作権を持っていますから。この件で非公式大会に処置を求めるのは、一種の私刑になってしまうと筆者は考えます。

② もし誰が見ても分かる問題事件があった場合(例:器物破損・窃盗)は、刑事事件として処理するべきです。その結果Xさんはゲームをしなくなる・大会に接触できなくなるという顛末になるでしょう。Xさんにも人権・自由があるので、それを制限するには大会運営のような私的な軍団ではなく、オフィシャルな手段を用いるべきです。ゲームの非公式大会はあくまで「非営利の個人」なのですから。

これら①②を総合すると、よその大会で起きたことを受けて処罰はしないべき(もしくはできない)と筆者は考えます。これに則るならばXさんがある大会Bで問題を起こしても、大会Aは出禁にしないということになります。これは運営・参加者ともに怖いかもしれません。しかし筆者としては、もし大会Bでの出来事を理由に大会Aでも裁定をする場合、大会AとBとの間に事件前から協定があるべきです。(例:大会Aのルールに「大会B, C, D で立入禁止措置を受けたプレイヤーには、本大会も同様の措置を取る」と書くなど。)

すると、はじめに申しましたが「Xさんを出禁にしないということは、悪行を容認しているということですか?」という質問に対しては、「いいえ」ということになります。出禁にしていない = 容認 という訳ではなく、非公式大会にはそこまでする機能は無いという言い分です。
大会運営の方々でこうした件で困ったことがあったかもしれませんが、参考になりますと幸いです。

自大会で問題が起きた場合

続いて、その大会で問題を起こした参加者が居た場合、同大会運営としてはこれはもう処罰を下すことができます。
では、自分の大会で問題が起きた場合になんでもシバいて良いのかというと、そこにも条件があります。処罰は「事前に書いておいたルール」の範囲内で下すべきです。

実際に非公式大会のルールでは、どういった処罰の可能性・範囲があるのか書いてないことも多いですが、それではルールに穴があります。問題が起きてから処置を決定すると、どうしてもスタッフの感情で処置を決めることとなり、よろしくないからです。

“代替メッセージ”
[筆者が用意してある オフ大会共通ルール では、罰則に関して画像ような規定を用意しています。他の大会運営の方でもこのルールはご利用頂けます。]

つまり「自大会で素行が悪い人が居たら出禁にすべきか」については、事前に「これをしたら出禁にします」とルールに書いておいて、それに触れたら出禁にしても良いでしょう、ということになります。この辺りは「不遡及の原則」というジャンルで語られます。

仮に想定外の事態が起きて困った時は現地警察署に連絡しましょう。グレーゾーンの場合は会場運営の指示に従うのもアリです。トラブルが起きた時に、大会が借りた会場の運営が「このXさんは立入禁止です」とおっしゃればそれはやむを得ないです。土地所有者にはその権利があります。

また、実際にこのような処置をした場合、公表することが必ずしも良いとは限りません。インターネットでの私刑に発展することがあるからです。閉じた場(例:グループDM や Discord)で、ほかの大会運営同士でこっそり情報共有するのはアリだと思います。

筆者は「悪い人を野放しにすべき」と言いたいわけではありません。トラブルが起きた際も、感情的に判断をせず、事前に準備しておいた裁定で処理すべきと考えています。ゲーマー同士で対話しているシーンの長い維持のためには、こうした取り決めが肝要です。

善良な人を守る理屈

最後に更に抽象的になりますが、以上のように考えた理屈を申し上げます。
それは、確かに素行の悪い人を処罰して他のプレイヤーの安心安全を確保することも大事なのですが、今活動している善良なプレイヤーを守るためです。

今のスマブラ勢は、不可解なほどの自主性によって成り立っています。お金にならないのに大会をしたいスタッフ, 新しいシステムを導入したい技術者, PVを作ったり写真撮影をしたりする映像屋, ファンアートを作る視聴者, そして何故かスマブラをやり込むプレイヤー …etc

ゲーマーというものは「ゲームをしたい」という感情が前提にあるべきで、これは基本的人権であるべきです。これについては過去の記事でも書いたことがあります。

こうしたどこからか湧いてくるやる気によって多様性あるシーンが成立しているのに、「ワンミスしたら世論が盛り上がって即退場」が常態化すると、不安で活動できない人も増えるでしょう。誰にも過失はあり得るものです。善良なスタッフがうっかり大会会場でコケて試合中の選手にぶつかってしまったことでスタッフ生命がまるごと刈り取られるとなったら、スタッフになりたい人も減って参加選手にも不利益が回ります。

実際に他タイトルの有名プレイヤーの例では、まだ証拠も出ない段階で、

  • 「この上位勢が実はチートをしていた!」
  • 「このプレイヤーの不正疑惑!」

という動画・ツイートが拡散され、無実かもしれないのに社会的に抹殺された例を見て来ました。たとえ自分が無実であっても、こうした事態が横行していたらそのゲームで熱心に活動することも控えるでしょう。これはゲーマーならば分かると思いますが、無実な上位勢が一人引退するだけでも一つのゲームシーンにとっては大打撃です。また直観的に、上位勢が勝つために他プレイヤーの不正疑惑を熱心に動画化するような競技シーンには未来は無いはずです。

人類が3000年かけて作った法律や、人間社会の裁定に関する知識も、様々な実例や人の命の上に成り立つものであり、参考になるところが多いです。これを参照すると「社会は厳しくゲーマーは甘い」のかと言うと、そういう極論にはならない実態が見えると思います。人類の法令を手本に、ゲーマーのコミュニティも長期的に運営すべきだと筆者は信じています。

“代替メッセージ”
[ドラマ『半沢直樹』では日本の社会人が不正をした際に、会社・国から処分が下る様子が描かれました。「このくらいしっかり証拠があれば処分が下る」の線引として参考になると思います。画像は TBSオフィシャルページより スクリーンショット。]

以上

本稿は以上です。

私はゲーム実況やゲームのコミュニティイベントを推進している立場上、「表現の自由」や「ゲーマーの人権」を掲げています。勿論、ゲームの利用についてはゲーム会社とユーザーの折衷案・同意を大事にしながら進めるべきとは思いますが、今回は非公式大会の話ということで強めに申し上げました。

ゲーム会社の運営する公式大会や、企業が行う公認大会はまた別になるでしょうから、それは別途議論をされて下さい。

もしこれをお読みの非スタッフの方がいらしたら、どうか一つ念頭に置かれて下さい。実際は非公式大会でも、問題を起こした人に処置を下したことはあるのですが、わざわざ公開しないことが多いです。処罰が公開されていないからといって「大会は処罰してないから甘い」とは限らないので、どうかお見知りおき下さい。