今作『トロピカル~ジュ!プリキュア』は「やりたいこと」とは何かという概念を綿密に描いた作品でした。今回は当ブログでよく述べている「やりたいこと」という概念と対比して視点を申し上げます。
導入
『トロピカル~ジュ!プリキュア』は通算18年目のプリキュアです。
「今一番大事なことをやる!」(表記揺れあり)がテーマの作品でした。本文ではこのテーマを「やりたいこと」 と置いてお話し申し上げます。

[画像は
Amazon
より]
本文は既に今作をご覧になっている・もしくはストーリーを解説してしまっても構わない方向けの内容となります。
ストーリー概要
ここで一旦年間のストーリーをなぞります。
ある日、海の世界が海の魔女に荒らされてしまいました。海の女王を目指す人魚のローラは、海のピンチを救うために「プリキュア」を探して人間界にやって来ました。
そこで主人公の まなつ と出会います。まなつとローラは学校に行き、好きなものが有るのに様々な劣等感, 暗い過去を抱えてしまった仲間たち(さんご・みのりん先輩・あすか先輩)と出会います。このメンバーが「プリキュア」として目覚め、海の魔女と戦いました。
はじめは自分のことしか考えなかったわがまま人魚のローラが、人間の仲間たちと出会って、お互いが人格的に成長し、自分が本当に「やりたいこと」は何かを認識して行きました。
Authenticity
この作品は、筆者(私)がよく申している authenticity という概念を体現した作品だったと思います。Authenticity とは「自分が本心からやりたいこと」です。
Authenticity は字義通り、今作のプリキュアの言う「やりたいこと」と似た概念で、筆者は特にチャールズ・テイラーの思想を取り入れています。
ここで頭の中で考えて頂きたいのですが、
- 「今一番大事なことをやる!」
- 「やりたいこと」
という字面は、一見すごく子供っぽくて自分勝手ではないでしょうか?実際に authenticity の概念には批判が寄せられた歴史があります。
ですが、「やりたいこと」と「世間的に良いこと」は両立すると authenticity は主張しました。このアプローチが『トロピカル~ジュ!プリキュア』ととても似ているため、驚きながら年間視聴しました。
Authenticity や今作のプリキュアには「やりたいこと」に “条件” がついていました。以下、「やりたいこと」は何であり、条件とは何だったのか、視点を説明します。
やりたいこととは何か
今作で描かれた「やりたいこと」とは如何なるモノだったでしょう?具体的に説明します。
例えば自分に自信が無かった さんご は、モデルになる道が開けて行きました(第32話)。プリキュアの仲間もモデル挑戦を応援していました。このように周囲が応援していたのはモデルの道でしたが、さんご自身はモデルを実際に経験した上で、メイクの道へ行きたいと決心しました(第39話)。
また、みのりん先輩 は小説を書くことが好きでしたが、過去に先輩に低評価を喰らいペンを置いていました。しかし、1年を通して自分の経験を積み、自分の書きたい物語を書けるようになりました(第40話など)。
このように、周囲の評価とは別に、自分で手を動かした結果具体的にハッキリするモノが『トロピカル~ジュ!プリキュア』の描いた「やりたいこと」でした。衝動的だったり、一時の欲望的だったりする「やりたいこと」ではなく、地道に経験を積んで「やりたいこと」を形成しています。
確かに主人公たちの活動には衝動的に見えるものもあります:サンドアートを作ったり流星群を見たりです(第11・26話)。ただ、「ご飯が食べたい」とか「寝たい」といった短期的な衝動とは異なります。必ず周りの人と関わり、前進するものであり、建設的なものとなっています。一言で表せば「やりたいこととは社会的である」という条件が付いており、ここは次章に繋がります。
自分勝手は駄目
人間一般の「やりたいこと」は必ずしも良いことばかりではありません。その側面も今作で描かれていました。
はじめ人魚のローラは第1話にて:
そう、人間の子なんてしょせんは捨て駒
と述べています。人魚ローラにとっては「女王になる」という「やりたいこと」のために、人間は踏み台という認識でした。
また、あすか先輩は過去に部活で揉めたことがあり、アニメ開始時には「仲間は要らない」という考えを持っていました。
ラスボスの魔女(正式名:あとまわしの魔女)は「この世を破壊したい」という「やりたいこと」が生まれながらの欲望でした。そのため過去に人間界を危機に追い込んだことがあり、今作でもその野望を果たそうとラスボスとして君臨していました。
このような利己的・破壊的な感情は「やりたいこと」として正当化して良いものなのでしょうか?
…結論としては駄目でした。今作では利己的・破壊的な感情は「やりたいこと」とは言えなかったようです。徐々にストーリーが進むにつれて、ここが描かれます。
主人公まなつは部活の中で、常に自分も他者も喜ぶことを追い求めていました(第14・26・35話)。これに感化され、人魚ローラは次第に人間に感情を寄せるようになり、協調性が芽生えて来ました。あすか先輩は仲間の重要性を知り、過去の部活仲間とも仲直りしました。
そしてラスボスの魔女は、生まれながらの破壊衝動よりも、人間と仲良くなる感情がまさってしまう結論が描かれました(第45話)。敵味方ともに、周りの人と関わる「社会的」(= 社交的)な面が尊重されています。
こうした:
- 「やりたいことは社会的であるべき」
- 「破壊することはやりたいこととは言えない」
という視点が『トロピカル~ジュ!プリキュア』では統一されています。この考えは authenticity の概念とも一致しています。
ただ、一般的に言って社会的であること(= 周りの人と関わること)と、自分が本当に好きなことの両立は難しいことがしばしばです。その葛藤について次章で述べます。
アイデンティティ
魔女を倒して迎えた最終回(第46話)。一年間の思いが込められた集大成として、ファン全員が緊張して行く末を見守っていました。人魚ローラは人間として生きるのか、人魚の世界に帰るのかを選択せねばならなかったのです。
アニメ開始時より、
人魚は人間と関わってはなりません
という掟が述べられていました。しかし、人魚ローラはプリキュアを探すために已むを得ず人間と関わってしまいます。その途中で人間へ情が移り、ローラ自身も人間へと変身しました。
ある時「人間と関わった人魚はいずれ記憶が抜かれる」という掟が明かされます(第37話)。人間と人魚は両立しながら生きることは出来ないとのことでした。そのため人魚ローラはいずれ人間として生きるか・記憶を失って人魚として海に帰るかのどちらかを選ばねばならなくなりました。この重い選択を、人魚ローラも視聴者も(現実時間で)3ヶ月以上抱えてドキドキしていました。
そしてラスボスの魔女を倒したため、選択の時が来ます。プリキュアも必要なくなり、人魚は海に帰る日がやって来ました。
この作品の趣旨として「やりたいこと」「今一番大事なこと」が毎回述べられ、一年間じっくり描かれていました。人魚ローラにとって、プリキュアのみんなとの友情・海の女王になる夢、どちらも好きなことです。そもそもローラは海の女王になるために人間界にやって来たのですから。
どちらを選ぶのか、予想が出来ない展開でした。

[
公式サイト
より最終回のスクリーンショット]
…最後に人魚ローラは、海に帰ることを決意しました。
ローラは元々人魚であり、アニメ開始前まで人魚として海のみなさんと一緒の人生を歩んで来たはずです。しかし、人間とも関わることで「人間と居るのも楽しい」ということに気付いてしまいました。関わった相手が増えたことで(= 社交的な要素があったことで)、「やりたいこと」も増えてしまった状態だと捉えられます。
人魚ローラは人間として生きる道もあり得たでしょう。しかし、ローラは最終的に自分のことを人魚だったと認識していたということだと思います。
今回対比している authenticity の理論は、「やりたいこととはアイデンティティ的である」と述べています。大まかに表しますと「自分のやりたいことが自分の定義を形作っている」という意味です。それで申しますと「ローラは自分を人魚だと思っていたから、最終的にやりたいこととは海の女王になること」という結論に至ったのだと考えられます。
ローラが自分のことを人間だと認識したのならば、違う結末もあったのかもしれません。
まとめ
様々な側面がありましたが、今作は具体的で綿密に「やりたいこと」を描いていました。
本文をまとめます。「やりたいこと」とは、周りからの評価を気にせず、自分の意志に忠実に選ぶものでした。その上で:
- 自分勝手は駄目
- アイデンティティに合うこと
という側面も描いていました。こうした内容が authenticity の理論と合致しており、筆者はすごく好きな内容でした。
以上
筆者としては『トロピカル~ジュ!プリキュア』は今までで最も好きなプリキュアとなりました。勿論ほかにも好きな作品があるので厳密に申し上げますと、「私の信奉する理論に最も近い作品だった」ということです。
今年はコロナの影響があり、3月スタートの1月終わりで、合計46話。少しだけ例年より短めのプリキュアでした。また、最終回に戦闘がないプリキュアは過去にも多くありましたが、戦闘無し最終回がここまでストーリーの根幹に影響する作品ははじめてでした。こうした特徴もある独特なプリキュアだったのですが、本文では筆者の気になった思想との比較を行いました。
参考に、過去に筆者が authenticity とは何かを説明した内容がございます。簡易なものですが、本当にご参考までに御覧ください。特に、最後の「アイデンティティ」的の部分が分かりづらいかもしれないので、細かい説明はこちらをご覧ください:
また、過去にプリキュアについて述べたものもございます。参照のために置いておきます: